第17話 ゲスモブ、街に入る方法を探る
メロンみたいな果物を食べ終えた後、城とは反対側の街の端まで移動してきた。
街は高さ五メートル程の壁に囲まれている。
人間が攻めて来るのか、はたまた魔物の襲撃があるのか分からないが、いわゆる城壁都市という造りになっている。
その城壁の上に上がって、門の外に続いている街道を眺めた。
「言っちゃなんだが、何にもねぇな」
「畑? 牧草地? 東京と比べるのは間違いね」
壁の周囲には、穀物の畑と牧場が広がっているだけで、実に殺風景だ。
「ねぇ、何にもないから帰ろうよ」
「いや、もうちょっと待て」
「何かあるの?」
「あるかもしれない」
白川の言う通り、風景は見ていても面白みは無いが、俺が視線を向けているのは街道の先だ。
十分ほど眺めていると、遠く街道の先に動く影が見えた。
「見ろ白川、何か来る」
「えっ、あっホントだ。何かな?」
「俺の思っているものだと良いんだが……」
アイテムボックスの中から眺めている俺達と同様に、門の上にある見張り台からは兵士が街道を眺めていた。
その兵士が、門の警備を行っている兵士たちに声を掛けた。
「キャラバンが来るぞ! 検分の準備を始めろ!」
街に近づいて来るのは、十数台の馬車の列だった。
砂埃を避けるためだろうか、御者台に座っている者は目だけ出して顔に布を巻いている。
見張り台の兵士が大きく手を振ると、キャラバンの者達が手を振り返してきた。
「黒井が待ってたのって、これなの?」
「そうだ、あのキャラバンの様子を見れば、街への入り方が分かるだろう。どんな身分証が必要で、いくら金が掛かるのかとか」
「なるほど、怪しまれずに街歩きするための情報ってことね」
「簡単な身分証なら、偽造とか他人のものを盗んで使うとか出来るだろう。まぁ、髪型、服装、顔つきとか対処すること山積みだけどな」
キャラバンが街へ入る門の手前で止まると、兵士が五人ほど出て来て検分を始めた。
どうやら十数台の馬車は、同じ商人が所有しているものではなく、別々の商人が集まってキャラバンを組んでいるらしい。
馬車一台には三人から四人の人間が乗っていて、護衛が二人、残りが商人という構成のようだ。
「あれが身分証みたいね」
「そうだな、何か金属板みたいだな」
身分証らしきものは、それぞれが首から下げている金属板のようで、何かの紋章と文字が刻まれている。
魔法的な効果が付与されている様子はなく、兵士は刻まれた文字を帳面に書き記し、別の帳面をめくって何かを確かめているようだ。
「何だ? 何を確かめてるんだ?」
「あれじゃない、指名手配的なやつ」
「あぁ、かもしれないな」
馬車の積み荷は多岐にわたっていて、布の反物、毛織物の敷物、穀物、鉱石、塩、木材、石材、それに奴隷らしき人が載せられていた。
粗末な服を着せられて、檻の中に詰め込まれている姿は旅行者には見えない。
「見て、黒井。あの人達、髪の編み方が違う」
「おっ、そうだな。あれは奴隷の髪型なのか?」
「かもしれない……」
街の人々は前から後ろに向かって編み込みの列が出来ているが、馬車に乗せられている奴隷らしき人達は、中央で分けた髪を左右の方向に列が出来るように編み込んでいる。
「てか、全員女じゃねぇかよ。マジで、この国は腐ってやがるな」
「ねぇ、小学生ぐらいの子も混じってるよ」
奴隷の使い道が性処理とは限らないかもしれないが、一人も男の奴隷がいないのを考えると目的は限られてくるだろう。
「日本の倫理観を持ち出すのは間違いなのかもしれねぇけど」
「気分は良くないよね。どうする?」
「どうするって?」
「助けないの?」
「無理言うな。クラスメイトすら助けられないんだぞ」
「だよねぇ……でも、あんな小さい子まで……」
「言いたいことは分かるが、今は無理だ。てか、俺らが世直しするような義理は無いぞ」
悪いが、これはこの国で起こっている問題であって、異世界日本から無理やり連れて来られた俺達が解決する問題ではないはずだ。
「ねぇ、あの厚化粧ババアを殺したら、少しは世の中良くなったりするのかな?」
「どうだかなぁ……あの兵士達の腐りっぷりを見ると、頭を潰した程度じゃ駄目じゃね?」
「そっか……うん、難しいかも」
そもそも派手に火の魔法をぶっ放していた才蔵のような攻撃力があるならまだしも、アイテムボックスと浄化の魔法では世直しなんか無理だろう。
それでも白川が凹んでいたら、街まで気分転換に連れて来た意味が無くなってしまう。
「でもまぁ、兵士も一人残らずぶっ殺すから、ちっとは世の中良くなるかもな」
「だったらさぁ、奴隷商人とかも殺しちゃおうよ」
「悪徳商人だったらな」
「えっ、奴隷商人なんて、みんな悪徳商人じゃないの?」
「奴隷が全員可哀そうな人とは限らないだろう。犯罪者だったり、正当な借金を返せない人だったり、問題のある奴もいるんじゃね?」
「でも、あんな小さな子は……」
「まぁ、あの子は純粋な被害者だとは思うけど……家に残っていた方が、もっと悲惨な状況だったのかもしれないしな」
「難しいね……」
「だな、俺らは政治家でも裁判官でもないからな」
この後、一台の馬車を選んで後をつけてみた。
護衛を終えた連中が、ギルドに報告に出向くと思っていたのだが、残念ながら店のお抱えだったらしくギルドの場所は分からなかった。
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