第16話 ゲスモブ、買い食いする
「黒井、冒険者ギルドには行かないの?」
「何しに行くんだ?」
「冒険者として登録して依頼を受けてさぁ……」
「面倒くせぇ……何で働かなきゃいけないんだよ。金なら城から盗めばいいし、食い物だって、着るものだって、住む場所だって足りてるぞ」
「そっか……でも、冒険者ギルドとかワクワクしない?」
「まぁ、それは否定しねぇけど、戦闘スキルがある訳じゃないし、アイテムボックスだって容量無制限……みたいなチートレベルじゃねぇから、依頼を受けるとか無理じゃね?」
「それもそっか……でもでも、ちょっと見てみたくない?」
「まぁな……てか、冒険者ギルドなんてあるのか?」
白川は、冒険者ギルドがあって当然みたいな勢いで話をしているが、そうした組織が存在している保証はない。
「てか、もしギルドがあったとしても、登録出来るとは限らないからな」
「えっ? だって初めての登録だったら簡単に出来るものなんじゃないの?」
「そいつは漫画とかアニメの中の話だな。良く考えてみろよ、日本で原付免許を取るのだって住民票が必要なんだぞ。素性の分からない奴に、簡単に登録させてくれないだろう」
「でもさぁ、登録出来れば身分証が持てるんじゃない?」
「登録出来たらな。逆に出来ない上に、俺達がこの世界の住民じゃないってバレたら……」
斬り落とすように首に手刀を当てると、白川はブルっと身体を震わせてから首を横に振ってせた。
ともすれば忘れがちだが、俺達は間違いなくお尋ね者だ。
城の兵士達に見つかれば、その場で殺されたって不思議じゃない。
アイテムボックスに入った状態で動き回るのは問題ないが、外に出るには用心に用心を重ねるぐらいでないと危険だ。
「いっそ別の街に行っちゃう?」
「別の街か……確かにここよりは安全そうだが、そうなると関係ない人達から色々盗むことになるぞ」
「うっ、それはちょっと嫌だなぁ……」
白川が渋い表情を浮かべたように、俺も関係の無い連中から盗みを働くのは気が進まない。
兵士を四人も殺しておいて矛盾していると言われようとも、嫌なものは嫌なのだ。
冒険者ギルドを探しながら、街を見て歩く。
貨幣は小銅貨、中銅貨、大銅貨、小銀貨、大銀貨、小金貨、大金貨という感じらしい。
単位はマールで、小銅貨が1マール、中銅貨が5マール、大銅貨が10マール、小銀貨が100マール、大銀貨が500マール、小金貨が1000マール、大金貨が5000マールらしい。
物の価値が日本とは違うので単純換算は難しいが、1マールが10円程度だと考えることにした。
城から盗み出して来たから金はあるが、服装や髪型を何とかしないと買い物は難しそうだ。
「ねぇ、黒井……あれ食べたい」
「あぁ、確かに美味そうだな……」
白川が指差した先で売っていたのは、メロンに似た果物だ。
切り分けたものを串に刺して、道端の露店で売っている。
食べている人の様子を見ていると、水分たっぷりで、めちゃくちゃ甘そうだ。
「ねぇ……食べたい」
「つってもなぁ……あぁ、後ろの奴をパクろうぜ」
「あっ、いいかも」
露店のおっさんの後ろに、切り分ける前の果物が山積みになっている。
幸い道行く人は切り分けられて、すぐ食える状態になったものばかりを見ていて、丸のまま積まれている物は見られていないようだ。
見られていないのを確認しながら、山の裏側から美味そうなのを選んでパクった。
一個分の値段に相当する大銅貨2枚を置いておく。
「うぉ、やっべぇ、切る前から美味そうな匂いがしてる」
「ねぇねぇ、早く食べようよ」
「待て待て、包丁もまな板も無いから切れないぞ、まさか丸齧するりつもりじゃないよな」
「じゃあ、包丁もパクっちゃおうよ」
「お前、商品パクった上に、商売道具までパクるって……鬼かよ」
「えぇぇ……切ったら戻せばいいじゃん、スプーンは厨房からパクったのがあるし」
「あぁ、うるせぇ。あっちに金物屋があったから戻るぞ」
色々な形の鍋や鉄板が積み上げられた金物屋の店内には、小さなナイフから剣と呼んだ方がシックリしそうな長い物まで、色々な包丁も置かれていた。
あまり客が来ないのか、店主はうつらうつらと居眠りしている。
適当な大きさの牛刀をアイテムボックスの窓を小さく開いてパクり、代わりに大銀貨一枚を残して来た。
「ほら、包丁……って、ここで切るのかよ」
「いいじゃん、後でクリーンするから大丈夫よ」
「かもしれないけど……まぁ、いいか」
白川に包丁を渡すと、パクってきた果物を少し広くなったアイテムボックスの床に置いて切り始めた。
ザックリと包丁が入ると、アイテムボックスの内側に甘い匂いが充満した。
やはりメロンと同じ様な果物らしく、実の中央部分に種が固まっている。
白川は半分に割った果物を更に四等分にして、俺に差し出してきた。
「はいよ、すっごい美味しそうだよ」
「どれ……むほぉ、めっちゃ甘ぇ!」
「マジで……やっばい、甘ぁぁぁぁぁい!」
果実特有のスッキリとした甘味が口一杯に広がり、噛みしめると溢れ出す果汁の美味さは高級メロンを凌駕しているかもしれない。
スプーンがどうのと言っていたが、俺も白川も切り分けた果実を手づかみで貪った。
口の周りがベタベタになり、シャツにも果汁が飛んだが気にしない。
後で白川にクリーンの魔法を使わせれば良いだけだ。
結局、直径20センチぐらいの果物を、白川と二人で食い尽くし、追加で2個を金を置いていただいてきた。
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