第14話 ゲスモブ、城から出る
俺を褒めてくれ。
兵士を1人殺害して、脅迫状を残してから戻ると、白川に抱き付かれて大泣きされてしまった。
どうしてこうも感情の起伏がジェットコースターみたいに上がったり下がったりするのか分からんが、俺を白馬の王子様とでも錯覚を起こしたようだ。
自分は何も出来ない無力な存在、でも俺が命懸けで守ってくれる……いや、別に命を懸けた覚えなど一度も無いのだが、果実酒を飲ませたのも失敗だったようだ。
結局、寝付くまでギューってしていてとか言い出し、眠った後までスリスリと抱き付いて来て、よく俺の理性が崩壊しなかったものだと我ながら感心する。
難しいことを考えようと、徳川歴代将軍の名前を暗唱しようとしたが、家康、秀忠、家光の後は吉宗に飛んだ直後に大政奉還してしまった。
それならば、円周率を暗唱しようと思ったが、およそ3で終了。
これは、もはや欲望に身を任せるしかないかと思った時に、悪酔いした白川に寝ゲロを吐かれて、いきなり賢者タイムに強制移行させられた。
「ごめん、マジごめんて……もう一生酒飲まないから許して」
朝になって目覚めた白川にクリーンを掛けさせたが、何となく匂いが染みついているような気がして、最悪な一日のスタートとなった。
「お前は……ホント最低だぞ。今度やったら寝ゲロって呼ぶからな」
「反省してます……」
寝ゲロまみれの最悪の朝と思っていたら、寝床にしていた空き部屋にいきなり兵士が踏み込んで来た。
「きゃぁぁぁぁぁ!」
驚いた白川が抱き付いてきたが、空き部屋に居ると言っても俺達はアイテムボックスの中だから、兵士達からは全く見えていない。
「いたか?」
「いや、誰もいない」
「ベッドの下も確認しろ!」
「いない……ここにはいないぞ」
「よし、次だ!」
俺達には気付かない兵士は、バタバタと次の部屋を確かめに走っていった。
「びっくりした……今のって、あたしを探してるんだよね?」
「だろうな。たぶん、昨日殺した兵士が見つかったんだろう」
朝飯を手に入れたいので、厨房へと移動しようと空き部屋を出ると、城内を兵士が走り回っていた。
どの兵士も、殺気を感じるような張り詰めた表情をしている。
最初の3人を殺した後も、これほどの騒ぎにはなっていなかった。
あの時も犯人は白川だと思われていたが、既に城を脱出して街に逃げたと思われていたのも一つの要因だろう。
だが今回は、逃走したと思っていた白川が、実は城に潜伏していたと思われたらしい。
仲間の仇を取ろうと、兵士達は血眼になって動き回っていた。
「いいね、いいじゃないか、もっと血眼になれ。いたぶる側から、いたぶられる側になったと自覚しやがれ」
「ねぇ……掴まってるみんなは大丈夫かな?」
「さぁな、てか、もう大丈夫じゃないだろう。今の時点で助けたとして、精神的に立ち直れるか疑問だぞ」
昨日、兵士の宿舎で何が行われていたのか話していないが、白川も悲鳴は聞いている。
どれほど酷い内容か、薄々分かっているはずだ。
「まぁ、待遇の改善しても、日本に帰るまでには1人も残さず殺すけどな」
「大丈夫なの……?」
「ドジなんか踏まねぇよ」
「そうじゃなくて、人を殺す罪悪感とかで黒井が病んだりしないか……」
「そりゃ、罪の無い人間を殺せば罪悪感に苛まれるだろうが、害虫駆除を気に病む必要なんかないだろう」
「それなら良いんだけどさ……」
やはり、兵士の宿舎に白川を連れていったのは失敗だったようだ。
昨日の精神状態の浮き沈みが果実酒のせいだったとしても、その経験は無意識のうちに白川に刷り込まれてしまっているように感じる。
俺よりも、むしろ白川の精神状態の方が心配だ。
アイテムボックスという狭い空間の中で、ヒステリーを起こされたらたまらない。
「よし、朝飯を食ったら街に降りるぞ」
「街! いいね」
「気分転換は重要だからな」
「買い物とかしてみたい」
「まぁ、それは偵察してみてだな。今のままだと、たぶん俺達はすげぇ目立つというか、街中で浮いた存在になるだろうから、アイテムボックスから出るのは対策をした後だ」
「そうだね。捕まったら元も子もないもんね」
「そういうことだ」
朝食をパクりに厨房に行くと、ここでも兵士の目が光っていた。
調理人たちの邪魔にならないようにしながら、厨房の隅から鋭い視線を飛ばしている。
「これって、昨日の肉のせい?」
「だろうな……でも食っちまったものはしょうがねぇだろう」
「だよねぇ……美味しかったし」
「城の厨房が駄目になったら、街で食い物を手に入れよう。白川がいれば食中毒になる心配も無いからな」
「オッケー、浄化は任せて」
朝食は、パンと果物とミルクだけパクって、簡単に済ませた。
街までは、アイテムボックスの機能を使って移動する。
と言っても、一度に瞬間移動出来る距離には限度がある。
俺と白川が入った状態では、10メートルも移動出来ない。
だが、この瞬間移動の機能が日本に戻る唯一の方法ならば、意地でも鍛えるしかないだろう。
身体の中の魔力が枯渇する気持ち悪さに襲われ、休憩を挟みながら500メートルほどの距離を30分ぐらい掛かって移動した。
普通に歩けば10分も掛からない距離だから、効率だけを考えるならばめちゃくちゃ悪い。
だが、街に着くころには、一度に20メートルほどの瞬間移動が出来るようになっていた。
上達が早いのか、それとも遅いのか全く分からないが、鍛えれば能力が上がることは確認出来たから良しとしておこう。
では一休みしたら、異世界の街ってやつを堪能させてもらおうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます