第13話 ゲスモブ、脅迫文を残す

「うぉぉ……食った、食った、なかなかの食い応えだったぜ」


 厨房から料理をパクった後、街を見下ろせるバルコニーに移動し、アイテムボックスを椅子とテーブルの形に変形させてディナーを洒落込んだ。

 城の周囲は侵入者避けのために明かりが点されているが、その光の外は真っ暗な闇に沈んでいる。


 街のある方向には明かりが灯っているが、日本のようなギラギラした明るさではなく、ぽっと火が灯っている感じだ。


「静かね……まるで世界に私達二人きりみたい……」


 横並びに座っている白川が、腕を絡めて頭を預けてくる。


「なに雰囲気出そうとしてんだ? あれしきの果実酒で酔っぱらったのか?」

「えっ……」

「えっ……じゃねぇよ。食い終わったら片付ける、ほらクリーンだ、クリーン」

「わ、分かったわよ、やればいいんでしょ。クリーン!」

「おぉぉ……皿がピッカピカだぜ。あの汚れはどこに行っちまうんだ?」

「知らないわよ……ふんっ」


 白川は不機嫌そうに頬を膨らませているが、これで良いのだ。

 たぶん……たぶんだが、俺が求めれば白川は身体を許すと思うが、その気は無い。


 一度欲望の箍が外れたら、たぶん見境なくヤリまくってしまうだろう。

 そして、ヤレばデキるのが世の真理だ。


 現状、日本に帰れる目途は立っていないし、生活出来ているとは言ってもアイテムボックスの中限定だ。

 もし白川が妊娠して体調を崩したとしても、医者に見せる術もない。


 ましてや子供が生まれるなんて状況になったら、対処のしようがないのだ。

 ご利用は計画的に……でなければ生活が破綻する。


 それに、ヤレば情が移ってしまうだろう。

 万が一の事態が起こった時に、白川を切り捨てられなくなる。


 あの女王のことだから、元の世界に帰れるという話も眉唾物だろう。

 だとすれば、日本に帰るためにも俺は生き残らなければならない。


 そのためにも、俺は非情に徹しなければならないのだ。


「よし、白川、兵士の宿舎に行くぞ」

「えっ……誰か助け出すつもり?」

「いや、それは無理だ。まだアイテムボックスがこのサイズだし、それに救い出したら揉めるんじゃないか?」

「揉める……?」

「だって、白川は無事だったのに、あいつらは……」

「そうね……」


 白川自身、間一髪のタイミングだったし、クラスメイトが凌辱されているのも目撃している。

 今助け出したとしても、どうしてあの時に助けてくれなかったのかと責められるのがオチだろう。


「でも、ずっとあんな状況が続くのは……」

「だから脅しを掛けに行くんだよ。今夜、兵士を一人殺して、脅迫状を添えておく。クラスメイトの待遇を改善しなければ、毎晩一人ずつ殺していく……ってな」

「でも、逆効果にならないかしら。余計に酷いことをされるとか……」

「捕まってる連中は全部で6人、兵士が何人いるかは知らないが、6人以上はいるだろう。6人全員を殺したら、それ以上の兵士を殺してやるだけだ」

「そうね……分かった」

「怖ければ、アイテムボックスを分割してやるから、別の所で待っていてもいいぞ」

「ううん、一緒に行く」

「そうか……」


 パクってきた食器類を分割したアイテムボックスに収納して、白川と兵士の宿舎に向かった。

 まだ夕食が終わったばかりだから、いくら何でも……と思っていたが、宿舎に入ると悲鳴が聞こえてきた。


 女子だけでなく、男子の悲鳴も混じっている。

 白川は俺の左腕をギューっと抱きかかえて、ブルブルと震えだした。

 凌辱されかけた時のことを思い出してしまったのだろう。


「ごめん……やっぱ無理」

「分かった、戻ろう」


 兵士の宿舎を出て、明かりの灯された庭園へ移動した。

 バラによく似た花が咲いていて、アイテムボックスの窓を開くと甘い香りが漂ってきた。


「荷物と一緒になっちまうけど、ここで待ってろ」

「どうしても行くの?」

「あのままには出来ないだろう」

「そうだけど……」

「心配すんな。アイテムボックスの中にいれば見つかりやしないんだから、ドジは踏まねぇよ」

「絶対だよ。ちゃんと戻って来てよね」

「分かったよ」


 捨てられた子犬みたいな表情の白川を分割したアイテムボックスに残し、ガントレットとスティレットを一本持って兵士の宿舎に戻る。

 さっき来た時よりも悲鳴が小さくなっていたが、凌辱行為がやめられた訳ではなく、クラスメイト達が叫ぶ気力を失っていたからだった。


 廊下にはトランクス一枚の兵士が、順番を待ってたむろっている。

 部屋の中では、クラスメイトの男子も女子も2人掛り、3人掛りで凌辱されていた。


 いくつかの部屋を回り、小柄な女子に己の欲望を吐き出し終えたデカい兵士を選んで後を追う。

 相手をさせられた女子は、白目を剥いて痙攣していたが大丈夫だろうか。


 大柄な兵士は、大きな水瓶が置かれた浴室で汗を流すと、自分の部屋へと戻っていった。

 部屋の大きさは6畳程度だろうか、ベッドの他には机と作り付けのタンスがあるだけの簡素な部屋だが兵士がデカいから狭く感じる。


 兵士は机の引き出しから酒瓶を取り出し、そのまま口を付けて喉へと流し込んだ。

 大きく息をついた兵士は、ゲスな笑みを浮かべてみせる。


 ついさっきの自分の行為を思い出しているのだろうが、見ているだけでフツフツと殺意が湧いてくる。

 兵士は酒瓶を仕舞う時に机の上の書き付けに目をやったが、ちょっと思案をした後でベッドへと潜り込み、すぐに高いびきをかきはじめた。


 机の上の書き付けは見回りの報告書のようで、召喚の時に与えられた言語能力のおかげで読めるし、文字を書くこともできそうだ。

 ベッドの上で大の字になって眠っている兵士に近付き、スティレットを逆手に握る。


 心臓を一突き……と思い掛けたが、例え心臓に穴が開いたとしても、直ぐに運動機能が失われる訳ではない。

 すぐアイテムボックスの中に手を引っ込めれば、捕まる心配は無いだろうが、騒がれて他の兵士に気付かれるのは面倒だ。


 アイテムボックスの能力を使ってベッドの下へと潜り込み、首の後ろから脳天目掛けてスティレットを突き入れ、思いっきり抉る。

 兵士は声も立てず、ビクンと大きく体を震わせ、それきり動かなくなった。


 完全に死んでいると確かめるために、5分ほど呼吸が止まっているのを確認してから、逆手で握ったスティレットを心臓目掛けて突き立てる。

 持ってきたガントレットに、根元まで突き立てたスティレットを握らせた。


 机の上にあった書類の裏に、兵士の血を使って脅迫文を書き残して部屋を出る。

 廊下には、欲望に目を濁らせた兵士が、まだ順番待ちをしていた。


 クラスメイトの待遇改善を要求する脅迫文を残してきたが、ここにいる兵士どもは、いずれ一人残らず殺そうと心に決めて宿舎を後にした。

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