第12話 ゲスモブ、武器庫を漁る

 当たり前の話だが、武器は重たい。

 剣にしても、槍にしても、盾にしても、強度が必要だから相応の重量となる。


 武器庫に来る前は、片手剣でも手に入れようかと思っていたが、実物を持ってみると、とても片手で振れそうもない。

 片手剣を両手で持てば何とか振れるが、実戦で役に立つような動きは出来そうもない。


「黒井、鍛え方が足りないんじゃないの?」

「うっせぇ、そもそも東京の高校生は剣とか盾とか使わねぇよ」

「でも、武器を使えなかったら、女王とか兵士を殺す時に不便じゃない?」

「別に……そもそも俺は、相手の背後から近付いて刺すみたいな戦い方しか出来ねぇよ」

「そうかもしれないけど、胸張って言うセリフじゃないような……」

「何言ってんだ、そのセコイ戦い方のおかげで助かったのを忘れたのか?」

「うっ、そうでした……」


 俺はレイプされそうになっていた白川を助けるために、アイテムボックスの力を使って兵士を死角からナイフで刺し殺した。

 現時点で俺に出来る攻撃手段は、これしか無い以上、重たい剣とか槍を手に入れても使い道が無さそうだ。


「ねぇ、これは?」

「何だそりゃ?」


 白川が見つけてきたものは、ハンドガードの付いた刺突用の武器で、デジタル数字の6のような形をしている。


「刃は付いてないのか……スティレットってやつか?」


 突き刺す部分は、細身のナイフではなく、アイスピックをゴツくした感じだ。

 ダガーのような両刃になっていれば更に殺傷能力が高まるのだが、逆に殺したくない時には、この形状の方が良いかもしれない。


 それに、心臓や脳を狙えば十分に殺傷能力はあるし、手入れも楽そうだ。

 とりあえず5本ほどパクっていく。


「黒井、誰か来た……」

「隠れるぞ」


 武器庫の扉の外から、足音と話し声が聞こえて来た。

 俺達はアイテムボックスの性能を利用して入り込んだが、扉には外から大きな鍵が掛けられていた。


 ガチャガチャと響いてきたのは鍵を外す音で、程無くして扉が開いて兵士が2人入ってきた。

 兵士は、金属製の鎧や盾、剣などの標準装備と思われる物を運び入れて来る。


「オルドマン、ダズ、ホーグリフ……こうなっちまうと面影もねぇな」

「クソあま……まだ捕まらないのか?」

「案外、城に潜んでたりするかもな」

「見つけたら、ぶっ殺してやる」

「殺すのは、俺ら全員の相手をさせてからだな」


 どうやら運んできた鎧や武器は、昨日俺が殺した兵士のものらしい。

 俺の左腕にしがみ付いた白川は、ブルブルと震えている。


「心配すんな。この中にいる限り見つかりやしない」

「うん……」


 アイテムボックスの中は別次元の空間だから、外の人間から見つかるはずがないのだが、こちらから見ると目の前で作業をしているのだから気が気じゃないのだろう。

 結局、兵士達は俺達に気付かずに、持って来た武器を片付けて出て行った。


 アイテムボックスに入ったまま移動して、兵士が鍵を掛け直して去っていく様子を見届けた。

 辺りから人の気配が無くなったのを確認して、再度武器庫へ戻る。


「ちょっと、何してんのよ」

「個人の持ち物と分かるような印が入っていないか調べてる」

「何で? 弔うつもりなの?」

「まさか……死んだ男の鎧が、勝手に武器庫を出て歩き回っていたら楽しいだろ?」

「うわっ、普通そこまでやらないっしょ……」

「何言ってんだよ。勝手に召喚した異世界の未成年をレイプしようとした奴らだぞ、死んだ後だって利用させてもらうに決まってんだろ」

「そっか、確かにそうかも……」


 生憎、鎧はどれも同じデザインで、個人の名前とかは彫られていなかった。

 少し迷ったが、右手のガントレットだけ持ち出す。


「それ、どうするの?」

「これか……次に兵士を殺したら、こいつに武器を握らせて現場に置いておく」

「殺された兵士が殺したように演出するんだ」

「まぁ、そんな風には思わないだろうが、奴らの神経を逆撫で出来るんじゃね?」

「いいね。黒井、性格悪いけど頭いいね」

「性格悪いは余計だ」


 俺が殺した兵士の遺品を使って、更なる嫌がらせの計画を話すと、白川の震えも止まったようだ。

 ビビるのは奴らの仕事であって、俺達がビビらされてたまるか。


「そろそろ、晩飯の時間じゃねぇか?」

「今日も厨房からパクるの?」

「当然、料理までやる余裕はねぇし」

「じゃあ、急いだ方が良いんじゃない? クラスの連中、どこかに連れて行かれたみたいじゃない」

「そうか、調理する量が減ってるかもしれないな」


  厨房へ移動すると、確かに昨日よりも調理する量が減っているように感じる。

 その一方で、一品ごとの豪華さが格段に上がっているように見える。


「うわっ、何だあの肉の塊……」

「超~美味しそうなんですけど……あれって、女王に出すやつかな?」

「だろうな……てか1人じゃ食いきれないだろう」

「関係ないんじゃない? ちょっと食べて、満足した下げろ……みたいな?」

「ありえるな……てか、もったいないから俺らで食ってやろうぜ」

「でも、あれをパクったら、さすがにバレない?」

「普通にやったらな……まぁ、見てろよ」


 出来上がった料理は、カートに載せられて厨房から運び出されていく。

 料理には虫や埃が付かないように、金属製のボールのような蓋が被せられる。


 蓋が被せられ、カートが動き出すまでの一瞬の隙に、カートのテーブルと皿の間にアイテムボックスの窓を開いて料理をいただいた。


「うわっ、やるじゃん、黒井」

「へへっ、ざっとこんなもんよ」


 分厚い肉料理、パン、それに果実酒を一壜パクって厨房を後にする。

 今夜は、ちょっと豪華なディナーと洒落こもう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る