第11話 オタデブ、異世界を満喫する

※ 今回は桂木才蔵目線の話となります。


「始まったな……」


 帰りのショートホームルームを待つ教室の床が光った時、僕はすぐに事態を把握した。

 異世界召喚なんて、普通では絶対に起こり得ない状況だが、これまで僕は、何百回、何千回、何万回とシミュレーションを繰り返してきたのだ。


 見慣れた教室の風景が、一瞬にして見知らぬ草原へと変わる。

 クラスメイト達は、あり得ない事態に戸惑い、パニックを起こし掛けていたが、僕は冷静そのものだ。


 いや、冷静であれとは思っているが、実際にはテンション爆上がりだ。

 手に入れたのは火属性の魔法、兵士の怒鳴り声が理解できるから言語能力も備わっているのだろう。


 僕らを取り囲んでいるのは、地球で言うならば中世ヨーロッパあたりの金属鎧に身を包んだ兵士と、やたらに装飾の施された衣装を身に着けた白塗り女。

 全ての状況から導き出された最適解は、これだ!


「キャノン!」

「よくぞ参られた、異界の勇者……」


 ド――――――――ン!


 白塗り女の演説をぶった切ったタイミングは完璧、巨木を倒した威力も申し分ない。


「バレット……」


 ズダダダダダダダ──ン!


 連射性能、威力、こちらも僕の想定の範囲内だ。

 これならば、主導権を握れるはずだ。


 僕、桂木才蔵はオタデブだ。キモオタデブと呼ばれても一向に構わない。

 故に、オタクであることを教室で隠したことは一度も無い。


 オタクはイジメられると思われがちだが、あるレベルを超えてしまえば手を出すと面倒な奴に変わる。

 その為には、パソコン、スマホ、SNSや動画投稿サイトの知識は欠かせない。


 そう、下手に手を出せば、悪行を晒されて炎上させられる奴だと思わせれば、こちらの勝ちだ。

 オタ関連のフォロワー10万越えは伊達ではないのだよ。


 おっといけない話を戻そう。

 僕らが巻き込まれた異世界召喚は、どうやらハードモードのようだ。


 僕らを召喚した女王の態度を見ても、裏があるのは間違いない。

 日本に帰れるという話も、はっきり言って眉唾ものだ。


 だが、そもそも僕は日本に帰りたいと思っていない。

 おそらくだが、日本に戻れば魔法は使えなくなる。


 だったら、念願の異世界で心ゆくまで生涯遊び尽くしてやろうではないか。

 強力な火属性魔法、一般人の10倍を超える魔力、気を抜かなければ成り上がる要素は揃っている。


 こうした状況に巻き込まれた場合、普通の人が目指すのは勇者だろう。

 邪竜を討伐して人々を不幸から救う……サッカー部のイケメンは、既にその気になっているようだが、僕はそんな退屈な生き方は御免だ。


 僕が歩むのは、魔王への道。

 手を握る相手は、学校中のヤンキーから一目置かれている徳田秀樹しかいない。


 見た目からして圧倒的な身体能力を誇示する徳田とは、日本にいた頃には対等な関係を築くなど不可能だっただろう。

 だが、剣と魔法の世界ならば話は別だ。


 実際に魔法を使って見せ、その威力が単純な殴る蹴るよりも遥かに高いと示した今なら、徳田と対等な関係を築けるはずだ。

 目論見は成功して、徳田とその取り巻きであるヤンキーグループを取り込んだ。


 ヤンキー共と行動をするのはリスクを伴うと思うだろうが、それは間違いだ。

 敬意と利益、そして仲間意識を示せば、性根の座らない連中と一緒にいるよりもずっと安全だ。


 ともすれば白眼視される者達の存在を認め、魔法のアドバイスという利益を与え、自分も仲間だという態度を示して認められれば、強固な囲いの中で守ってくれるのだ。

 召喚された翌日、僕達は訓練場と称する施設へと移送されることになった。


 徳田達のグループは不満そうだったが、待遇が悪ければ改善させるし、狭い城の中よりも思いっきり魔法をぶっ放せる所の方が腕を磨けると言って納得させた。

 血の気の多い連中に武器を与えたら、思いっきり使える場所を与えた方が良いに決まっている。


 訓練場は、城から何日も離れた場所だと思っていたが、意外にも馬車で2時間ほど揺られた程度の距離だった。

 そもそも、街から少し離れただけで、自然の草原や森が広がっているのだから、場所には事欠かないのだろう。


 兵舎のような建物はあるが、それ以外には何も無い場所に連れて来られて、ヤンキー共は見るからに不満そうだった

 その様子を見ていた兵士の一人が怒鳴り声をあげた。


「おい! グズグズするな、このノロマどもが……ぐあぁぁぁぁぁ!」


 僕らを怒鳴りつけた兵士に、魔法を撃ち込んで火達磨にしてやった。

 驚く兵士達の背後の森に、立て続けに火球を撃ち込む。


 ド、ド、ド、ド──────────ン!


 まるで特撮番組のように幾つもの巨大な火柱が上がり、兵士達は凍り付いたように動きを止めた。

 昨晩、魔力の扱いについて工夫しただけあって、昨日と同じ魔力量でも威力は何倍にも上がっている感じがする。


「勘違いしているようですから、最初にハッキリと言っておきますよ。僕らは協力はしても、道具として使われるつもりはありません。舐めた口を利くなら、今すぐ戦争を始めたってかまいませんよ。協力か、戦争か、どちらを選びますか?」

「待て! ちょっと待て!」


 上官らしき男が、慌てて飛び出して来た。


「待て? この期に及んで僕に命令するんですか?」

「違う! 待ってくれ、待って下さい。部下の失礼な態度は謝ります。ですから、この場は収めて下さい」


 上官らしき男は、顔を引き攣らせながら頭を下げてみせた。


「僕らは平穏な生活を送っていたのに、強制的に呼び出され、邪竜との戦闘を強いられているんです。にも関わらず、僕らを見下すような態度を取るならば、こちらも相応の対応をさせてもらいます。いいですか、二度と僕らを見下すような態度を取らないで下さい。それが約束されないならば、協力関係は解消、僕は城を攻め落しに戻りますよ」

「分かった、分かりました。部下には態度を改めるように通達し、徹底させる。約束する」

「いいでしょう。では宿舎に案内して下さい。不満な点は、早急に改善していただきますので、そのおつもりで……」

「分かりました。おい、皆様をご案内しろ! くれぐれも、失礼の無いようにしろ!」


 上官と思われる男に命じられ、兵士が僕らを見る目があきらかに変わった。


「で、では、ご案内いたします」


 促されたクラスメイト達が動き出すと、徳田が僕の肩に腕を回してきた。


「やるじゃねぇか、サイゾー」

「物事、最初が肝心だからねぇ……」

「違いねぇ……」


 ヤンキーグループは、僕と徳田を中心として歩き出す。

 そうそう、お前らは肉の壁となって僕を守るんだぞ。

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