第10話 ゲスモブ、魔法の検証をする
女王アルフェーリアの居室を出て、俺は人のいない場所を探して城の中を移動した。
二十分ほど歩き回って見つけたのは、ダンスホールと思われる円形の大きな部屋だった。
「ねぇ、何するの?」
「夕飯までの間、魔法の練習をしようかと思ってる」
俺は、このアイテムボックスの魔法を使えば、日本に帰れると思っているが、それには取得すべき使い方やレベル上げが必要だろう。
「日本に戻るためには、人が中に入った状態で瞬間移動が出来ないといけない。たぶん、最初は距離に制限があるはずだから、短い距離から試してみたい」
「分かった、それじゃあ私は外に出た方が良いんだね?」
「いや、違う。最初は白川が中に残ったまま、俺が外に出て、少し離れた場所から引き寄せてみる」
要するに、これはアイテムボックス本来の使用方法なのだが、それが人間が入った状態でも可能なのか検証する実験だ。
「じゃあ、俺は一旦外に出て、5メートルぐらい離れた場所から引き寄せてみるから、中からはどう見えるのか教えてくれ」
「分かった」
白川をアイテムボックスの中に残して、俺だけダンスホールに足を踏み入れる。
これまで殆どアイテムボックスの中に入ったまま移動していたので、ホールの床が足音を立てたのでビクっとしてしまった。
気を取り直してアイテムボックスを閉め、5メートルほど離れてから振り返り、自分の目の前でアイテムボックスを開いた。
「うわっ、ビクった……黒井が急に目の前に現れた」
「俺が外に出ても、中から外の様子は見えていたか?」
「うん、それは見えてたんだけど、黒井がこっちを振り向いたかと思ったら、急に目の前に瞬間移動してビックリしたよ」
「よし、第一段階の確認はクリアーしたな」
正直に言うと、アイテムボックスの内部に人を乗せて移動させた場合、中の人は強烈なGによって失神したりする恐れがあると思っていた。
自分が気を失ってアイテムボックスを使えないような状況になれば、白川まで捕らえられてしまうかもしれない。
なんて言うのは建前で、本音は白川を実験動物として使わせてもらったのだ。
勿論、危険を伴うなんて話していないし、全て予定通りだとアピールしておいた。
それでも、アイテムボックスの中身に衝撃が加われば、水を入れた瓶などはとっくに壊れているだろうし、一応成功すると確信はしていた。
「次は、何をやるの?」
「今度は、俺が中に入った状態で、瞬間移動が出来るのかやってみる」
「それが出来たら日本に戻れる?」
「いや、まだまだ無理だろうな。目に見える距離ではなくて、頭の中に思い浮かべた場所へと移動できなければ、日本には戻れない」
この世界から、日本の街の様子を眺めるなんて不可能だし、思い浮かべた場所に飛べなければ意味はない。
歩かずに、魔力で移動する方法の更に上のレベルという感じだ。
「うぉぁ……確かに、これはちょっとビビるな」
「でしょ、でしょ、急に世界が変わるからビビるよね」
結果としては、俺と白川が入っている状態でも、アイテムボックスは瞬間移動が可能だった。
ただし、一度に移動出来る距離は、7メートルほどが限界だった。
「おかしい……」
「えっ、どうかしたの?」
「物だけ入れた時には、こんな距離の制約は無いのに……」
マットや水を入れた壺などを入れた分離した空間は、全く別の場所で閉じたのに、ここでも問題無く開けている。
とても7メートル以内の距離ではないし、下手すると100メートル以上離れている。
「それって、生きている人間が中に入って、とか、人間が2人だからとか条件があるんじゃない?」
「なるほど……」
確かに、白川1人を引き寄せるならば、10メートル以上離れても瞬間移動させられた。
それでも15メートルを超える距離の移動は出来ないので、やはり制約なのだろう。
「やはり、簡単には帰れないってことか」
「何日ぐらい掛かりそう?」
「さあな、魔法使い始めて二日目だからな。全く分からん」
「だよねぇ……」
「だが悲観することはないぞ、この能力を伸ばせば日本に戻れるという可能性は見えたんだ。落ち込むんじゃなく、喜ぶところだろう」
「そっか、そうだよね!」
この後、アイテムボックスの更なる分割や、外部と通じる出入口を素早く開閉する練習を重ねた。
外部との出入口だが、例えば腕や脚がはみ出た状態で閉めたら、スパっと切断出来るかもしれないと思ったが、実際には出入口が閉まらないという結論に達した。
切断出来るなら、武器として使用できると考えていたので少々残念だ。
現状、アイテムボックスの中にいれば安全だが、外に出ている時はただの高校生のままで戦闘力は無いに等しい。
女王アルフェーリアや兵士共も始末するにしても、なにか攻撃手段は手に入れたい。
「よし、移動しよう」
「どこに行くの?」
「ちょっと武器庫を漁る。今のところナイフ一本しか武器が無いからな。なにか使える物が無いか捜してみる」
「あたしも護身用に何か持っておいた方が良い?」
「うーん……安全が確認された場所以外では、白川は外に出ない方が良いだろう」
「でも、あたしも何か役に立ちたいんだけど……」
「今でも十分白川は役に立っている。いなくなられたら困るんだ」
「えっ、そ、そうなんだ……じゃあ、ちゃんと守ってよね」
「心配するな。この中にいる限り、誰にも手出しはさせない」
「はぅ……よ、よろしくお願いしましゅ……」
いや、だから、何でそんなに密着してくるんだ。
俺の左腕を抱え込んで、そんなに押し付けられたら、また歩きづらくなるだろう……。
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