第9話 ゲスモブ、女王の嘘を探る

 昼飯を食い終えた後、女王アルフェーリアを探して城を歩き回った。


「ねぇ、厚塗りババアを捜してどうすんの?」

「目的を探る」

「目的って、あたしらを召喚した目的? 邪竜の討伐じゃないの?」

「信用出来ん。竜を討伐するとしても、それは本当に悪い竜なのか? 俺達じゃないと倒せない相手なのか?」


 確かに召喚されたクラスメイトは、こちらの世界の人間よりも5倍から10倍以上の魔力授かった。

 魔力値の差が、どれほどの威力の差に繋がるのか分からないが、人海戦術よりも効果があるのだろうか。


 それとも、単純に自分の国の戦力を損ないたくないから、別の世界からの召喚を行ったのか、とにかく巻き込まれた理由が知りたい。

 俺達を召喚した張本人である女王は、豪華な居室で寛いでいた。


 昨日、召喚が行われた場所に来た時のようなゴテゴテとした装飾は付いていないが、ゆったりとした見るからに上質な生地を使ったワンピースを着ている。

 人前に出ないからか、歌舞伎役者のような白塗りもしていない。


「いくつぐらいなんだ、あのババア」

「うーん……30過ぎ? でも、日本とスキンケアの技術とか違うだろうし、よく分かんない」


 そう言えば白川も、クリーンの魔法を自分に掛けてから、ギャルメイクが落ちてすっぴん状態なのに気付いているのだろうか。

 俺個人としては、派手なシャドウとかリップを使うよりも、今の方が健康的で良い気がするが、こういうことを言うと面倒なことになりそうなので黙っておく。


 女王アルフェーリアは、座り心地の良さげなソファーにだらしなく座り、ぼんやりとテラスの外を眺めている。

 女王ともなれば、忙しく政務に追い回されるようなイメージがあるが、実務を担当する者がいるのだろうか。


「女王様、バルダザーレ殿下がお見えになられました」

「通せ……」


 メイドというよりも女官といったイメージの女性が来客を告げても、アルフェーリアは視線一つ動かさなかった。

 部屋に入って来たのは太った中年男で、クセの強い焦げ茶の髪を油を付けて固めている。


 上質そうな生地を使った装飾過多な服に身を包み、成金という言葉を形にしたような男だ。


「姉上、犬どもは訓練施設に送ったのですか?」

「あぁ、朝飯を食わせたら、直ぐに送り出してやった」

「それにしては、随分と警備が厳重ですな」


 アルフェーリアは、バルダザーレの言葉に顔を顰めると、吐き捨てるように言った。


「ふん、ボンクラ共が雌犬に喉笛を噛み切られたのだ」

「はぁ? 首輪を嵌めたのではないのですか?」

「生活魔法しか使えぬからと油断しておったらしい」

「その雌犬はどこに?」

「行方を眩ました。街に下りたかもしれんな」

「また面倒な……」

「街に潜り、街を出たところで川は超えられぬ。他の犬と合流する心配はいらぬ。ただし、そなたも食いつかれぬように気をつけよ」

「ははっ、私は姿も見せておりませぬ。狙われるとすれば姉上の方でしょう」


 バルダザーレは、兵士が殺されたと聞いても、まるで意に介していないようだ。

 俺達に顔も見られていないのだから、普通ならば存在すら気付かれていないのだから、当然の反応だろう。


「姉上、竜の肝はいつぐらいに手に入りそうですかな?」

「1年までは掛けさせるつもりはない。不老不死の効果はあっても、若返りの効果までは無いと聞く、グズグズと時間を掛けている暇は無い」

「なるほど……」


 口許に笑みを浮かべたバルダザーレに、アルフェーリアは不機嫌そうに問い掛けた。


「なんだ、何が言いたい」

「いえ、竜を倒せるならば何も文句はありませんよ。鱗に爪、牙、その身体は我々に莫大な富をもたらせてくれるでしょう」

「当然だ、召喚にいくら掛かったと思っている。元手を回収し、利を得られねば意味が無いぞ」


 召喚直後には、民に害をなす邪竜を討伐する手助けをしてほしい……といった内容の話をしていたが、やはり嘘っぱちのようだ。


「ねぇ、不老不死の効果とか言ってるけど、あたしらって、あの厚化粧ババアの老化防止のために呼び出された訳?」

「あぁ、それと金に目が眩んだデブのためみたいだな」

「最っ低……」

「同感だ」


 鱗をどこの国に、どの程度売るとか、骨から削り出す剣の譲渡先とかをニヤニヤ笑いながら話す強欲姉弟を見ていると、胸の中にドロドロとした物が溜まっていく。

 というか、竜の肝に本当に不老不死の効果なんかあるのだろうか、日本で言うところの人魚の肉みたいな伝説じゃないのか。


「もうさ、こいつらサクっと殺しちゃおうよ」

「いや、駄目だ」

「なんでよ! こいつらのせいで、みんな酷い目にあってるんだよ」

「サクっとなんて、そんな簡単に殺してやらねぇよ」

「あぁ、そうね……楽に死なせたりしちゃ駄目よね」


 俺の言葉に、白川も黒い笑みを浮かべて応じた。


「当然だ、苦しんで、苦しんで、己の罪の重さを実感し、悔い改めさせ、もしかしたら助かるかも……って希望を抱かせてから殺すんだよ」

「うわぁ……いい性格してるわねぇ。でも賛成」

「それに、日本に帰れる目途が立つまでは、この城に寄生して生きていかなきゃならない。国の安定を乱すような行為は控えるべきだ」

「分かった。でも最後には殺すんだよね」

「生かしておく理由がなくなるからな」


 兵士も兵士なら、女王も女王……いや、この女王にして、あの兵士ありなのだろう。

 俺の殺すのリストの最上位に載せた二人のゲス顔を脳裏に焼き付け、白川を促して女王の居室を後にした。

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