ドクター・マーセデス・ロータス: 4

 頭出し設定をしているのだろう、無音状態はすぐに終わった。何度もくりかえし聞いたにちがいない。

 ノイズに埋もれてはいたが、声は意外なほど落ち着いていた。まるで彼女はいま、そこにいるようだった。


――――***こちらKHAQQ、現在157―337―***にいる。***推進剤が残り少ないが、貴艦が見当たらない。通信も聴こえない。チャンネルを閉じないでくれ――――


 ヤノはあらためていい直した。「ニナは母艦を確認できなかった」

 私はすぐに気がついた。

「彼女は現在地の座標を把握してるわね。レーダーが壊れていたわけじゃないの?」

「現在地がわかるということは、送受信のトラブルじゃない。

 ディスプレイの異常か、あるいは単純な操作ミスかもしれん。ニナはいつも、扱いづらいと不満をいっていた」

「不満を?……待って」

 何かがつながった。私は愚かにも、自説を展開する誘惑を抑え切れなかった。

「ミスター・ヤノ、あなたさっき『彼女は加速した』っていってたわね」

――――たとえそれが、死者をおとしめることになったとしても。

「それは…………彼女が加速度依存症アクセラレーション・アディクションだったってことじゃないの?」

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