ニナ・リント、テストパイロット: 4

 細長いパッケージを開封すると、湯気にまじってよく焼けた肉のにおいが流れ出した。

「知ってるか?地球ボトムのBBQは、具材をむき出しで加熱するんだぜ」

「ふうーん」串に刺さった肉にかぶりつきながら、あたしはアルにあいづちを打った。

「しかも、直接火にかけるんだ」

 あたしは率直な感想を述べた。「うわ!」

「信じらんねーだろ?」

「なにこれ?おいしいね!」

「そっちかよ?」

 格納庫ハンガーはにぎやかだった。ど真ん中に並べられたテーブルを、手の空いたスタッフが囲んでいた。テスト終了の打ち上げパーティだ。

 BBQは、あたしが提案した。レース後の打ち上げは毎回そうだったから。地球式BBQの話なんて耳タコだった。




 苦手なたまねぎをゴミ箱に捨てにいくと、ドリンクを手にしたマーセデスに声をかけられた。

「遅くなったけど、誕生日おめでとう。それ、似合うわよ」

 それ、とはあたしの頭に乗っかったとんがり帽子だ。打ち上げは、三日早いあたしのバースデイパーティもかねていた。

 あたしとマーセデスは並んで壁にもたれかかった。人波の向こうで、アルがBBQのウンチクを披露していた。

「楽しんでる?」マーセデスがつまらないことをたずねた。

 うなずいて、あたしは思った。この人も他人が苦手なんだ。無理してしゃべりかけるだけ、あたしやエンゾーよりはマシかもしれない。




 黙っていると、マーセデスが小さな紙包みを差し出した。

「これ、プレゼント」

「え……ありがとう。開けていいかな」

「PXに取り寄せてもらったの。調べたらまだ売ってたから。古いアニメなのに、人気なのね」

 中身は、ガミコのキーチェーンだった。

 あたしは笑顔を作らなきゃいけなかったんだ。マーセデスの表情がくもった。

「……ごめんなさい、気に入らなかったかしら」

 アルが目ざとく見つけて、そばにきた。

「お、『スターボウ・ロード』じゃんか。俺も観てたぜ。でもこれ、コクピットには持ち込めねーな」

 そうなんだ。

 こんなものをぶら下げて、KXL1エレクトラは飛ばせない。操作の邪魔だし、加速中にチェーンが切れでもしたら弾丸同然だから。




――――このパーティは、もともと一週間後に開かれる予定だった。くり上がったのはテストのスケジュールが前倒しされたからだ。

 KXL1を実戦でテストするためだった。

 最終防衛線である勝利の塔チトールに、できたてほやほやの新型機を大あわてで投入する。あたしたち独立軍インディーズはそういう状況ってことだ。

 あたしとファーストパイロットのアルは、そこへ配備されるんだ。




「うっかりしてた。私、担当医なのに……」

 マーセデスは本気で落ち込んでるようだった。

 目の前にぶら下げたガミコをながめながら、あたしはいった。

「いいんだ。連れてくよ」

「ダメよ。ミスター・ステイサムのいうとおり、バッグにでもつければいいじゃない」

「ポケットに入れるさ。いっぱいあるから」

「でも、Gがかかったら体を圧迫するおそれが」

「ほい」キーチェーンを彼女の手のひらに置く。

「せいぜい十グラムでしょ。百Gかかったって一キロ。あたしがいつも何キロのバーベル持ち上げてると思ってんの?」

「すこしでも危険だと思ったら、やめてちょうだい」

 まったく、最後までしつこいな。「それは、医者としてのアドバイス?」

 マーセデスはため息をついた。「あなたの判断に任せるってことよ」

 あたしは彼女の手のひらからキーチェーンをつまみ上げた。

「そいつはいままで聞いた中でいちばん納得のいく診断だね。…………ごめん、エンゾーと話してくる」

 なんだかちょっと居心地が悪くなったんだ。

 でも、勇気を出して、つまらないことをいってみた。

「ソイソース味のやつ、ためした?結構いけるよ」

 マーセデスは笑顔で手をふった。

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