シルバー・プシキャット、レーサー: 4

 ジェイッ!どこまで話したっけ?あそうそう、思い出した。

 ……それから、夜は事務所で寝て、昼はガレージ――――オーナーは別にいたけど、現場の頭はエンゾーだった――――で働くようになったの。

 半年後、レースに出ろといわれた。

 エンゾーは、アタシをエンジニアにしたかったんだと思う。自分が整備するものに乗って知っとけ、ってことね。

 ところがなぜか、たったの二戦目で優勝しちゃった。

 それで、乗り気になったオーナーがライセンスを取らせてくれて、アタシは上のクラスへチャレンジした。



 周りの人たちが「ガッツがある」ってほめてくれるときでも、エンゾーには「突っ込みすぎる」ってよく怒られた。

「お前がマシンを飛ばしてるんじゃない、マシンがお前を乗せてくれるんだ」って。

 もちろんアタシは不満だったよ。突っ込まないと抜けないじゃん!アタシが乗んなきゃマシン飛ばねーじゃん!面と向かってはいえなかったけど。

 でも、上のクラスはやっぱり甘くなくってさ。

 はじめてリタイアしたとき――――自分のミスでトラブった――――くやしくって、もうハンッパなくくやしくって、がまんできなくって、だれもいない場所までいって、隠れて泣いた。涙が勝手に出てきて止まらなかった。

 したらエンゾーがきて「続けるか、やめるか、どっちか決めろ」っていったんだ。顔ぐちゃぐちゃなのにくんなよ!って感じだよねw

 アタシはぐちゃぐちゃの顔でエンゾーにガン飛ばしながら、「続ける」って答えた。




 エンゾーはアタシに数学や工学や物理を教えた。マシンの図面をいっぱい見せた。トップレーサーの動画やアタシが出たレースの録画も、いっしょに観ながら詳しく説明した。

 サーキットでも詳しく指示を出した。「バックストレートは八パーセント増しで踏め」「コーナーを出るとき操縦桿スティックを十五度戻せ」「噴射を一秒に三回ずつ刻め」。

 こんなに詳しいんだったらもっと早く教えろよ!って思って……それでアタシははじめてわかった。

 あのときまで、エンゾーが教えてくれたのは「安全に飛ぶこと」だけだったんだ、って。




 アタシはあちこちのローカルレースに出場して、表彰台の常連になった。シルバー・プシキャットの愛称ももらった。

 通算で五勝決めたとき、ワークスチームから連絡があった。アタシとエンゾー、ふたりセットでの引き抜きだった。

 オーナーはアタシたちを笑顔で送り出してくれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る