シルバー・プシキャット、レーサー: 3

 居住衛星ハビサットには余分な土地スペースがない。だからアタシたちは、スペースでレースをする。

 地球ボトムワールドのレースでは空気抵抗や路面との摩擦があるんだってね。そういうのをねじ伏せるのが面白いっていうけど、アタシにはわかんない。経験ないし。

 アタシはやっぱり無重力フリーフォールレースが好きだな。よけいなものがないぶん、純粋な加速度との戦いだから。




 レーサーの彼は自分の才能に見切りをつけて、その流れでアタシとも別れた。

 元彼の出るレースは必ず観に行ってたし、ガレージにも入りびたってたから、エンゾーとは顔なじみだった。まだ三十代だったはずだけど、そのころのアタシにはかなりのオッサンというか、ジジイに見えてたよ。

 元彼と別れた晩、ガレージにいって「いくところがない」っていったんだ。そしたらエンゾーが油くさい毛布を貸してくれて、アタシは事務所の椅子をならべて寝た。

 夜中を過ぎてもカーテンのすきまから作業場の明かりがもれてた。エンゾーの背中を見ながら、アタシは眠ってしまった。

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