番外2.好奇心は狐を殺すのか?

 ペニーはコールの町で、狐族の母と狼族の父の間に生を受けた。ペニーは狐族として生まれ、一番大きい姉で弟は3人いる。大家族ということもあってペニーはあまり両親からあまり可愛がられなかったが、幼馴染である狼族のフェルと山羊族のコンといつも遊んでいたので寂しくはなかった。数日前からコールの町には雪が降っている。今日もペニーはいつもの三人で雪遊びをしに町の外へ出る。町の案内看板の側に昨日作った大きな雪だるまが佇んでいた。


「ねえ、今日もさ、雪だるま作らない?昨日よりもっと大きいやつ!」


ペニーは3人の中でいつも一番に何をするのかを口にする。


「うん!」


3人は手分けして周りから雪を集める。彼らは道路に積もった雪をかなり集めるので度々街道を通る人々にお礼を言われる。その中でかなり仲良くなったのがある狩猟団の一員であるフェルという虎族の青年だ。特に名前が同じということもあって狼のフェルと虎のフェルは兄弟のようになっていた。


 ペニーの雪玉が大きくなり、一人では押せなくなってしまった。ペニーは二人を呼びつけて3人で協力して雪玉を転がした。そして彼らの体より大きな雪玉を昨日の雪だるまの隣に運んだ。もう一つの雪玉をその上にのせて、最後の一つを材料にコンが顔を作っていく。コンは三人の中で一番器用だ。背が雪だるまの顔に届かないので二人を足場にして何度も上り下りした。


「ちょっとお、もう限界だよお。」


「お前太りすぎだよ。早くしろよ。」


「ちょっと待ってよ。あと少しなんだ。」


最後の仕上げをしようとしてコンはペニーの背中に足を掛けた。そしてあと少しで完成する顔の鼻先に手を伸ばした時、ペニーがついに力尽きた。コンは体勢を崩し、作り上げた雪だるまに突っ込んだ。


「あっ!何してんだお前!」


フェルが立ち上がって怒鳴った。倒れる雪だるまとともにコンが地面に激突する。


「あーせっかく大きくなったのにい。」


ペニーは痛む背中を抑えた。


「やり直しじゃねーかよ。めんどくさいなあ」


「うーんじゃあそうだ!この雪でかまくら作ろうよ!三人で入れるような大きなの!」


「それいいな!」


フェルはもう作り上げた雪だるまが壊れたことを忘れて乗り気になっていた。




 3人がかまくらの中でくつろいでいたところ、向こうから大慌てでよく見る狩猟団の一員が走ってきた。彼はかなり上がっていて、三人に息も絶え絶えの中話しかけた。


「き…君たちこんなところで遊んでないで早く家の中に…帰りなさい…」


「僕たちの家はここだもんねー。」


「そうそう。もう家帰ってるしー。」


「じょ…冗談じゃなくってさ、危ない龍がこっちに向かってるんだよ」


「嫌だねー」


「ああもう!じゃあこの家から出ないでよ。」


そう言い残して彼は町の中に走っていった。


「ねえ。龍って近くで見たことある?」


「ないなぁ。」


「龍ってもしかしてあれかな。」


コンは特設した窓から空を指さした。2人も窓から空を覗いた。翼をもつ何かが飛んでいるのがかろうじて分かった。3人が空を見上げるのに悪戦苦闘していると、さっき来た狩猟団の彼と、3人の親が町の入り口から飛び出してきた。


「フェル!さっさと出てこい!」


「ペニー!遊んでないで家に帰るわよ!」


「おいコン!お前は死にたいのか!」


彼らは無理やり三人を抱え、町に連れ戻した。




 ペニーはどうしても龍を近くで見てみたかった。その好奇心が彼女を刺激して止まなかった。


「ねえちょっとだけでいいから、いいでしょ。」


「ダメです!どうしても見たいなら大人になってからにしなさい!」


ペニーは必死に腕の中でもがく。しばらくもがいているとペニーの好奇心が彼女の手に力を与えた。ペニーが母親の腕を押しのけようとすると簡単にペニーはするっとその腕の中から抜け出すことができた。


「あれ、ペニー、何してるのよ!」


「だいじょーぶ、ちょっと見てくるだけだから!」


ペニーは本気を出し、四つ足で駆け出した。母親も走ってペニーに追いつこうとしたが不幸にも足元の石につまずいてしまった。




 ペニーは雪原に出てどこに龍がいるのかを探して回った。そして見つけた。見知った狩猟団が龍を包囲している。狩猟団はまず町に被害が及ぶことがないようにするため、龍の翼を狙った。前衛が龍の攻撃を引き受けているうちに後衛たちが翼を狙い矢を放った。龍は風を起こし矢を吹き飛ばすため両の前足を地面につけた。その瞬間、鞭を持った二人が飛び出した。一人は虎のフェル、フェル兄だった。彼らはそれぞれ龍の足に鞭を飛ばして巻き付けた。そして鞭を同時に引っ張り、龍を転倒させた。さらに狩猟団は魔法によって地面を持ち上げ枷のように変形させ龍の前足を完全に動かせないようにした。


「すごい!」


ペニーは目を輝かせて戦いを見物していた。この時、ペニーは戦いの決着がついたとばかり思っていたが間違いだった。龍は最後の抵抗とばかりに雄たけびを上げた。すると龍を囲う竜巻の様な吹雪が起こった。狩猟団たちは竜巻によって打ち上げられて雪原に落下し、全員が負傷を負っていた。竜巻が終わると龍は力ずくで大地の枷を破壊して空へはばたき遠くへ消えていった。ペニーはその迫力に圧倒されていた。


「あんた帰ったらお仕置きだからね!」


ついに母親がペニーに追いつき捕まえた。ペニーはまた同じように抜け出そうとするがさっき出た不思議な力が出ることはなかった。





 ペニーは今日で11歳になる。弟は三人増え、家業である雑貨・骨董品屋の手伝いをすることが多くなり、幼馴染三人で遊ぶことはほとんどなくなった。そんな日々に退屈していた矢先、店にフェルとコンが入ってきた。


「あっ久しぶり。」


「ようペニー。あのさフェルの兄さんが都市に連れてってくれるていうんだけどお前も来るか?」


「えっ、ホント?…でも僕お手伝いがあるから…」


ペニーは壺を磨いている父親のほうを見た。ペニーの父は彼女があまりにも純粋な目で見つめられてしばらくした後、折れた。


「まあ、どうしてもっていうなら行ってもいいが、うちの商品をいくつか持って行って売って来いよ。」


「ありがとう!お父さん!」


ペニーは彼に尻尾を振り回しながら飛びついた。


「こら、人前だぞ。やめなさい。」


彼女は次にフェルとコンに向かって飛んで二人の目の前に立った。


「で、出発はいつなの?」


「明日なんだよ。」


「まあ俺たちも突然言われたもんだから、明日の朝また呼びに来るから。ちゃんと準備を済ませとけよ。」


ペニーはこの日、明日が待ち遠しくて一睡もできなかった。




 都市までの道のりは驚きの連続だった。話にしか聞いたことがなかった常雨の丘を越え、いくつもの町を通過した。また、三人で協力しペニーの持ってきた骨董品を販売し、都市にたどり着くころには準備した品物は売り切れていた。都市はコールの町と比べ物にならないくらい大きく、何よりこの世界を作り出している巨大な陽樹に圧倒された。都市では自由な時間が与えられたのでフェル兄弟とペニーとコンは4人でフェル兄の案内で都市のいろいろな場所で遊びつくした。お土産にフェルは陽樹の実で作った灯を、コンは金属でできた独楽をペニーは木彫りの熊を買った。


 楽しい時も束の間、家に帰らなくてはならない日になった。三人とも帰るのがとても嫌だった。無理やりフェル兄に無理やり連れられて歩き出してみるとペニーは嫌だった帰り道も面白いものにあふれていることに気が付いた。あそこにいる大きな牛、空を飛んでるあの鳥たち、あの葉に留まっているきれいな虫、遠くに見える変な石碑。一度通った道だからこそ、ペニーの好奇心を刺激した。


 家に帰ってからも彼女は身の回りにたくさんのものを見つけた。今までやってこなかった料理を手伝い、次に狩りの獲物を捌き、弔う方法も知った。ペニーは仕事の合間を縫っては雪原に繰り出して狩りをし、獲物を家族にふるまった。狩猟団に戦力として危険なベナ雪原などにも同行を誘われるようになった彼女は様々な町を巡り、特別に町の住民、特にコンに頼まれた品や下流にはないものを仕入れ彼女の店はかなり繁盛した。




 ペニーの弟たちが仕事をできるようになってきた頃、彼女は町を出て、一人で旅をする決意を固めた。しかし両親から反対されたので彼女は書置きだけを残して旅に出た。町で猿族の住む森について知り、猿族の住む森では内の世界のいろんなもののことを教えてもらった。彼女は来る日も来る日も内の世界を駆け巡り、やがて行ったことのない場所がなくなった。


 彼女は世界中で見た珍しいものを一か所に集めたいと考え、上流の地に家を建てた。そしてまた世界中を巡り珍しいものを集めて回った。危険な目にもたくさん遭って、死にかけたこともあったが、それも彼女にとっては楽しかった。


好奇心はペニーを殺すのか?思うに好奇心では狐は死なない。殺すどころか好奇心は狐に力を与え、楽しみを教えたのだ。

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