第13話.ウールーの町でお金が足りない!

前回のあらすじ

ベナ雪原に向かう道中、ペニーが無茶な戦い方をして怪我を負った。そこでカイトはペニーがまともな戦い方ができるように魔法の使い方を教えた。




 昼頃、一行は問題なく次の町へとたどり着いた。ペニーは一晩寝るとどんな怪我も回復するらしい。


「ここはねウールーの町って言ってね、羊さんたちをいっぱい育ててるんだ。ここで服を買っておいたほうがいいね。僕も服を直さなくっちゃ。」


「まだ金は残ってるが、ここで一稼ぎしとくか。」


二人はいっせいにヨシノのほうを振り向いた。


「また私?」


「当然。一番手っ取り早いだろ?それにお前は普段、料理もテント作りも手伝わないだろ。」


町の中央にある商店街に移動し、一番人の多い通りでヨシノは演奏を始めた。あわただしそうに荷物を運ぶ牛族、馬族たちも彼女の音楽に耳を向けた。道行く人たちから銭を投げられ、残りの二人が回収した。

―――


「なんだずいぶん少ないじゃないか。」


「都市と町ではそりゃ違うよ。うーんこれで服買えるかな?」




買えなかった。ヨシノは今回7000ガルを稼いだが、二人分の防寒着を買うのにはあと15000ガルと言われた。とりあえずペニーの服を直してもらうことにした。彼女は服にこだわりがあるらしく、カイトにはやってもらいたくないみたいだ。店の奥から猫族の老人が出てきた。


「えーと、どちらのお客さんの服かね?」


「そちらの狐族の子です。」


「はいはい…」


老人は上着ののポケットに右手を入れながらペニーに近寄った。


「あ、脱いだほうがいいよね。」


「いらん、いらん。どこが破れてるのかな?あんまり目が見えなくてのう」


「背中とか後ろっかわがいっぱい。」


「はいよ。」


老人はポケットから手を取り出した。その手にはさまざまな色をした糸が雑に絡み合い、乗っていた。老人はその手をペニーの背中に当てた。すると糸たちがひとりでに動き出し、彼女の服の中に潜り込んでいった。そして瞬く間にに彼女の服は修復された。


「すごい!きれいに直ってる!」


「3500ガルになります。」


「げ、結構高いなあ。まあいいや、こんな早くきれいにできたんだから、はいどうぞ。」





「さて、どうやって金を稼ぐかな。ヨシノいけるか?」


「今日はもう結構な人がお金くれたからしばらくは無理ね。」


「じゃあやっぱ魔物でも狩るか?皮とか羽根とか、服屋なら交換してくれるだろ。」


「先に買い取ってくれるか確認しないと。無駄に殺すことになっちゃう。」


やはり獣人は厳しい。


「おう、じゃあしてくる。」


「いやあ、さっきちょっと聞いたんだけど駄目だって。もう在庫もいっぱいなんだってさ。」


「じゃあほかの店にも話を持ち掛けないとな。」


一行は肉屋、服屋、武器屋、萬屋、目に入った商店に何か足りないものはないか聞いて回った。返事はすべて、「何も不足していない」であった。当然だ、どの店もすべて地元の業者に注文をしている。無駄に殺しはしないというのも相まって旅人にはかなり厳しい環境だ。


「今まではどうしてたの?」


「狩猟団の中に入れてもらってお給料もらってたかな。」


「じゃあそれでいいじゃないか。」


「うーんでも狩猟団もだいたい定員いっぱいだったし、何か大きな狩りがないと。それにこの町はあんまり狩りはしてないかなあ。」


「じゃあどうするんだよ。」


「そうだねえ、とりあえず酒場にでも行ってみようか。なんか仕事が転がってるかも。」





 一行が酒場に入ると時間的に当然客はほとんどいなかった。一人、髪で目が隠れた馬族が一人椅子を壁に倒して佇んでいた。酒場の大将も暇そうで、すぐに彼らに話しかけた。


「こんな早くに珍しいね、君たち旅人だろう?何しに来たんだい?」


「仕事を探してるんだ。お金が足りなくてね。」


「そうか。それならあそこで寝てる彼に尋ねてみたらどうだ?人手が欲しいみたいで朝からずっとあそこにいるんだ。」


「ほんと?ありがとう。」


腕を組んで見事な体勢で寝ている彼を3人で取り囲む。ペニーが彼の肩をゆするも起きる気配はない。


「全然起きないなあ」


「私に任せて。ちょっと刺激が強いかもしれないけど。」


ヨシノが彼の耳に手を近づけた。そして手から嫌がらせのために編み出した'世界で一番不快な音'を発した。


「うおっ!!なんだお前たちは!」


「人手を探してるっていうから、起こさしてもらったんだけど。」


「起こすたってもう少し方法ってもんがあるだろうが!」


「あらごめんなさい。」


カイトは戦慄した。その馬族の目は怒りではなく、恐怖の目だった。彼もいつかはやられるであろうそれに恐怖し、冷や汗をかいた。


「はあ…まあいいや。仕事の話できたんだな?」


「そうそう。」


「俺はこの街道の警備を任されてる、ジンボだ。仕事ってのはあれだ、最近、魔物が異常に出現している。街道の近くに巣が作られたらしい。だから鼻が利く奴が欲しかったんだ。」


「じゃあ、僕がぴったりだね。」


「よし、決まりだな。ついてこい。」





一行はジンボに導かれるままに街道を進む。


「ここだ。道路に血がついてるだろ。昨日もここで争いがあった。」


「ホントだな。毛もいっぱい落ちてるな。」


ジンボがそのうちの茶色い毛を拾った。


「ああ、それで、えーこれだ、これのにおいを追跡できるか?」


「任せてよ!」


ペニーは胸をたたいた。ジンボの手に握られたものを数秒嗅いだ後、地面に鼻をつけて何かをたどりだした。そしてペニーがたどり着いた先には大きな穴があった。


「ここから出てきてるわけだな。」


「この穴かなり深いわね。」


「わかるのか?えー、小娘。」


「ヨシノよ。私耳がいいの。この穴、奥から全然音が返ってこない。大きな巣穴につながってるに違いないわ」


「うーんじゃあ、ここだけでも埋めちまうか。」


「おい!なんか来てるぞ!」


巣穴の持ち主がやってきた。3匹のイタチだ。魔物たちは巣穴に向かって一直線に走った。4人とも戦いの構えを取る。しかし全員その場で転んでしまい、魔物たちを巣穴に戻すことを許してしまった。


「いてーな。しかしお前ら役に立たねーな。転んだだけだからよかったものの、最悪死んでたぞ。」


「突然来られたし、事前情報もないし、当然対処はできないな。それより役に立つのはこれからだろ。」


カイトは次に何が起こるか勘付いていた。嫌味を言ったがジンボもわかっていた。ヨシノは穴から響く音で分かった。突風と共に巣穴から大量のイタチが飛び出してきた。カイトたちが突風に耐えている間に魔物たちは彼らを取り囲んだ。魔物たちは毛を逆立て、尻尾を高く上げ、奇声を発し威嚇している。


「これ、殺しちゃダメなのか?」


「なに言ってんだ?殺さずに巣に追い返せよ!」


魔物は数匹ごとに束になり、彼らの周りを動き回り、突進を仕掛ける。それを避けている間に彼らは完全に分断されてしまった。ジンボだけはカイトにほぼ密着していた。


「俺は戦闘はできん。ただ巣穴を埋めれるのは俺だけだ。傷一つ負わせんなよ。」


「けっ、散々強気にしといて戦えないって?まあ三人の中では俺が一番強い。任せときな。」





 ペニーはどうにかしてカイトに教わった魔法を活用しようとしていた。手始めに彼女めがけて突撃してきた三匹のうち一匹をつかみ取り、身動きが取れないように器用に光の軌跡で囲んだ。


「よし、できたっ。この調子で…うおっ」


魔物たちは接近は危険だと判断し、遠くから風の弾丸を飛ばした。次々飛んでくる弾丸に対してペニーは躱すことしかできなかったが、ここにも魔法が使えると思った。攻撃を爪でかき消し、そのままの勢いで壁を作り出した。その壁は少々不安定な立ち方をしていて、風の猛攻によって倒されるものもあったが、もう一つと、次々と壁を作り出す。そして身を隠し、素早く飛び出て一匹を拘束、これを繰り返した。




「ふう、これで片付いたかな?」


カイトは魔物たちを一匹残らず氷漬けにしていた。


「おう、上出来だ。あっちの小娘共も終わってるみたいだな。」


あたり一面にはイタチがごみのように転がっている。


「よし、じゃあ魔物どもを巣穴に放り込め。」


――――――


「それで?次はどうするの?」


「もう終わりだよ。ここからは俺の仕事だ。」


ジンボは巣穴近くの地面に手を突き立てた。衝撃も、土埃も立たず、正確に言うと手を地面に潜行させたといったところだろうか。周りの土が動き出し、巣穴の入り口がふさがった。ジンボは汗を掻きだし次に大きな地響きが起こった。地響きは次第に小さくなり、完全に収まったところで彼は立ち上がった。


「あー、これで終わりだ。報酬は酒場で払おう。」





一行が酒場に戻ったところ、客でにぎわっていた。席を取り、店員から預けておいた鞄を受け取った。


「あー、そうだな報酬は54000ガルってところだな。」


「そんなにくれるの?」


「まあ、都市からめちゃくちゃ金が出るしな。まあ俺は次の仕事があるからよ、気ぃつけろよ。最近魔物が増えてるから。」


ジンボはすぐさま酒場を後にした。そして、酒場の喧騒の中だったが、確かにペニーの腹が鳴った。彼女は申し訳なさそうに耳を下げて笑った。


「ちょっと奮発して食べちゃおっか?」


「いいわね。」


――――――

夜も更けて、酒場に残っているのは完全に潰れた二人とあと一人というところになった。


「もうお店閉めたいから、この二人も連れてってくれるかな…」


「すいませんね…ちょっと持ちづらいんでね」


ヨシノがぐったりする二人を肩に抱えて歩き出した。扉の前で取っ手を掴むことができずしばらく佇んでいたが、彼女の後ろをついていった子猫が器用に扉を開けた。




 ペニーは見知らぬ天井で目を頭痛とともに覚ました。彼女は体を起こして部屋を見回した。隣のベッドで寝ているカイトと鏡の前で髪をとかしているヨシノが目に入った。


「ありがとうヨシノちゃん。介抱してくれて。」


「ああ、お礼なんていらないわよ。それよりちゃんと起きられてよかったわね。」


「ん?」


ヨシノはカイトのベッドのそばに移動し、カイトの両耳に手を添えた。そしてカイトは大きな悲鳴を上げた。その悲鳴の大きさにペニーは思わず耳をふさいだ。ヨシノは腹を抱えて笑った。カイトは今起こされたばかりなのに汗でびしょびしょだ。


「ハア…ハア…お前、まさか…あれをやったのか…?」


「アハハハハ。そうそう、そうよ。カイトがなかなか起きないからよ。」


「やられた本人からしたら…笑い事じゃないんだが…朝からどっと疲れた…」


「私は準備万端よ。行きましょう。」


「よーし二人とも!今日もどんどん進んでいこう!」


「ペニーもそんな早く切り替えるなよ…耳鳴りが…止まらないんだが…」


「ハハハハハ」


「お前は悪魔かよ…」

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