第12話.草原の危険地帯を突っ切ろう!

前回のあらすじ

猿族の集落にたどり着いた一行は学長からベナ雪原に向かうことを勧められた。




「本当にもう行ってしまわれるのですか?宿の手配はできますが。」


「目的地がわかった今、ここにとどまる理由はないさ。ゆっくり旅をするのもいいが、好奇心が抑えられないもんでね。」


「そうですか。それとペニーさん、あなたも外の世界に出られるのですね?」


「そうだけど。どうしたの?」


「またこの地に戻ってきたら外の世界のことを聞かせてくださいね。」


「うん。もちろん!」





「で、ここからベナ雪原までどのぐらいなの?」


「結構かかるね。何しろ下流で、端っこのほうだから。寒くもなるし、キミたちは途中で防寒装備を買わないとかもね。」


一行は森を抜け眼下に広がる草原を展望していた。


「町が見えるな。」


「この辺りは結構平和だからね。道も作られてるし。でも近道だから危険地帯を突っ切るけどね。」


「道を歩くだけなのも退屈だしそっちのほうがいいわね。」


「にゃー」


子猫もすっかり一行に馴染んでいる。





 ペニーの意向から魔物もなるべく殺さずに危険地帯を進んだ。カイトとしては襲い掛かってきた魔物は殺し、その死体から売れそうな部分だけを持ち去ることが基本であった。ある魔物追い返すために傷を負わせたなら、その魔物は別の魔物との争いに負け結局死ぬのだから殺すも同じだと彼は思ったが、獣人たちは殺すのは食べるときだけという考えを貫いているようだ。

 まあペニーははく製を作っていたりしたが、彼女も基本はこの掟に従っている。遭遇した鉄の針の様な体毛を持つ猛牛も、地の魔法で地形を変化させ襲い掛かる馬もヨシノが気絶させ殺さずに進んだ。


「おいペニー、ああいうのはどうするんだ?」


カイトが指したのは単純に魔力が集まってできた魔物、半透明でゼリー状のバブルと呼ばれる魔物だ。世界中に様々な種が存在し、ここでは橙色で火系の魔力がこもってそうだ。


「私、心臓がない奴は気絶させられないわ。」


「ああ、あのバブルね、あいつは絶対襲ってこないから無視で。」


「襲ってこない?珍しいな。」


「そうだね。あとああいう魔物も当然殺しちゃだめだよ。」




夕焼けのように赤くなった空で一匹大きな鳥が旋回している。どうやら獲物を狙っているようだ。


「なあペニー、鳥族ってのはいないのか?」


「いないねえ。私たちって違う姿をしてるけどくちばしはついてないし、卵を産まないのは共通してんだ。」


「へえ。そうなんだ。」


空の鳥がさっきのバブルに向かって急降下した。その大きなくちばしで飛び跳ねている橙色のエサを噛んだ。バブルの破片が周りに飛び散り、ヨシノの隣を歩いていた子猫にかかった。その鳥は飛び散ったゼリーの破片をついばみ、食べ残しがないか周囲を見回した。そしてゼリーまみれになった子猫を見つけた。

 子猫めがけて飛んできた魔物のくちばしをヨシノは音叉で受け止めた。そして腕を押し出し、胸めがけて振動を送り出した。魔物は一瞬動きが止まったがすぐに羽を動かしてヨシノから距離を取った。


「こいつはちょっと手ごわいわね。」


魔物は上昇し、勢いをつけようとしている。そこにペニーが跳び上がり大きく広がった翼にしがみついた。魔物は暴れ、ペニーを引きはがそうとするが少しずつ高度が落ちていく。そこで魔物は彼女を地面に叩きつけることにし、また急降下を始めた。


「あれ、ペニーちゃん危ないんじゃない?」


「そうだけどもう止められなくないか?まあ大丈夫だろ。あいつも考えがあってやったんだろうし。」


魔物は上下さかさまになり、ペニーが地面に近くなるように体を傾けた。そして彼女は地面にこすりつけられた。地面はえぐれ、大きく土埃が舞った。魔物はそのまま勢いで、空に高く舞い上がった。


「いてて…」


彼女はえぐれた地面から土まみれで立ち上がった。そして二人のもとにおかしな足取りで近づいた。


「いやあ、降ろせると思ったんだけど駄目だったね…」


「お前、バカなのか?」


「ちょっと何言ってんのよ。ペニーちゃん大丈夫?」


「なただんとか大丈夫。ちょっと肩貸してほしいけど…」


「おい、またアイツが襲ってくるぞ。どうする?」


「さっきとより勢いがついてたら多分私も止められないわ。とりあえず避けて逃げ回りましょう。」


「飯にするか?俺なら仕留められるが。」


「うーん…そうしよっかあ。」


急加速してくる魔物、反撃された怒りも相まってさっきのの二倍ほど速いだろうか。カイトは二本の剣を合わせて成形し、大きな一本の剣を作り出した。そしてそれを魔物のくちばしの切れ目に沿うように振るった。魔物はきれいに真っ二つになり下半分は地面に刺さり上半分は飛んで行った。血と臓物が花火のように飛び散った。


「おいお前ら、血とか飛んだけど、大丈夫か?」


彼は肩にかかった臓器か何かを払いながら振り返った。


「そうなると思って事前に用意しといたわ。」


ヨシノの魔法で血やらは透明な傘を張ったかのようにはじかれていた。


「じゃあなんで俺も入れなかったんだよ」


「邪魔になると思って。」


「それより、飛んでった方はどうしよっか…」


それは血の跡を残しているがもう見えないとこへ飛んで行ってしまったようだ。場所はだいたいわかるのでヨシノが耳を澄ませたところ、獣の声が死体の周りから聞き取れた。


「なんかもう狼か何かの群れが食べ始めちゃってるみたいね。」


「なら残ったこっちも獣が集まる前に食べちまおうか。」





 鶏肉の焼きあがるにおいを聞いてペニーは怪我をしたにもかかわらずはしゃいでいる。


「ねえ、さっきのでっかい剣、すごかったね。」


「なあ、そういえばさ、お前ってバカなのか?内の世界すべてを巡ったっていうから、あの状況もどうにかすると思ってたけど、失敗して傷まで負ったじゃないか。」


二度目のカイトの無礼な発言にヨシノがついに怒った。


「やめなさいよそういう言い方。あなたは確かに強いけどねえ…」


「おっと、言い方が悪かったな。戦い方がわからないってのなら俺が教えてやろうかってことだよ。」


「なら最初からそう言いなさいよ。」


「で、どうだ?」


「うん!僕、魔法のことよくわからないから教えてほしいな。」


「じゃあ飯食いながら話すか。ヨシノ、おまえもよく聞いとけよ」


「はいはい」





「魔素、それは様々なものに姿を変えることができる粒子だ。生物はこれを操ることが可能で、火、氷、風、雷、地、光に闇などに形を変えることもできる。ただしこれには魔素についての理解と訓練、そして才能が必要だ。俺は普段氷の魔法ばかり使っているが理解さえあればこんな風に…」


カイトは人差し指を立てて力を込めた。手が震えるほど力を入れて指先から小さな炎が出た。


「…ふう。火の魔法だって使える。」


「相当無理してるじゃない。」


「氷に慣れてると火が使えなくなるんだよ。…続けるぞ。ほとんどの生物は身体活動を補助する魔法を無意識に使うことができる。多少だが体温を上げ下げしたり、筋肉を強化したりとかな。この前の谷で龍と戦った時、お前は手から光を出してたよな。あれはどうやったんだ?」


「手に力を入れて…こう…手の中から投げつける感じ?」


「そう、そうすることで体の中から魔力を放出することができる。それで出てきたあれは光の魔力に分類される。純粋で魔素に最も近く、ほかの魔力を打ち消せるし、ちょっと変化させれば物理的な壁を作ることもできる。」


「へえーそうなんだ。」


「なにも意識せずに手から出した魔力が最も得意な魔法だと言われてる。俺が同じようにこうすると…」


カイトは手を真上に向かって何かを投げるかのように突き出した。そこからは氷の球が出てきて、落ちてきたそれをカイトは受け止めた。


「こんな感じでに氷が出てくるわけだ。ヨシノが同じようにすれば音が出るはずだ。これは風魔法の一種、物理的力の魔法だな。だからペニーは光の魔法が一番得意ってことになる。」


「そうなの?」


「光の魔力についてもう少し詳しく説明するぞ。まずは理解が必要だからな。光の魔力はすべての魔力を打ち消す。出力も一番高く、超強力だ。ただ小回りが利かないんだ。操作がしづらいし、せっかくの魔法も外してしまえば無意味、だからどういう場面で使うかっていうのが重要なんだ。まあまず…お前は防御をするところからやっていこう。光の魔力を固定して壁を作るところから練習しようか。」


「どうやって?カイトくんは光の魔法を使えないんだよね?」


「やり方は知っているさ。まず爪に力を込めてみろ。」


「こう?」


ペニーの爪が少し光りだした。やはり彼女は純粋であるので呑み込みが早い。


「そうだ、それで空気を切ってみろ。そしてその切った空気の隙間を魔力で埋める感じでやれ。」


彼女が空を切るとそこに光の軌跡ができた。それは地面に落下して、刺さった。カイトが手に持った氷をそこに投げつけると、氷は光にぶつかりきれいに砕け散った。


「できるじゃないか。」


「こういうの、私も見たことあるわ。あの時は浮いてたけどね。ちょっといいかな」


ヨシノが思いっきり音叉を叩きつけてもそれはびくともしなかった。


「おお、いいじゃないか。ヨシノの馬鹿力にも耐えるなんて。」


「別に本気じゃないわよ。」


「これがあればこいつの羽を拘束したり、攻撃を受け止めたりできたはずだ。まあほかにも知らないといけないことはあるけど、とりあえずそれの使い方に慣れろよ。」


「うん、ありがとうカイトくん。」


「おうよ。」





 日も暗くなってきた。夜行性の魔物もいるので一行はその場で野営することになった。毎度のようにカイトが氷でテントを作りだす。ヨシノはやはりやることがないので子猫を膝にのせて演奏をしている。


「僕も手伝うよ。」


「お、いけんのか?」


「こうでしょ!」


ペニーが爪を振り下ろし、数本の光の柱ができた。彼女はそれを集めて地面に突き立てた。


「柱としては強度もあるしいいが、こうも光ってると寝れないだろ。もうちょっと光を抑えられないか?」


「えー難しいな。ところでこれってどうやって戻すの?」


「慣れれば吸収し直すことはできるけど、お前にはまだ無理だろう。ぶっ壊しとけ。」


「はーい」


ペニーは光の柱を噛み砕いた。そして新しく柱を作っては光りすぎているのでまた噛み砕いた。彼女なりに食えば体の中に戻せそうということで噛み砕いているらしい。そしてついにほとんど光っていない柱を作り出すことに成功した。カイトは少し気を使っていて、柱より先に屋根を作っていた。それらを組み合わせてテントは完成した。ペニーはその日いつもよりも満足そうに眠った。

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