◆ 二
そんな日々に疲れ、僕は学校へ行くのをやめた。梅雨らしい、雨がしとしとと降り続く日だった。
初めて休んだ時は、母に「お腹が痛い」と言い、学校へ欠席の連絡を入れてもらった。なんとなく、「学校に行きたくない」とは言いたくなかった。
僕は母と父と三人で暮らしている。父は僕が目覚める前に仕事に行っているので、平日の朝に顔を合わせることはあまりない。母は、三年前に仕事を辞めて、毎日家にいる。どうして仕事を辞めたのかはわからない。
次の日も、休んだ。前の日と同じように「お腹が痛い」と言った。一日中、部屋でゲームをして過ごした。その日は金曜日だったので、僕は土日と合わせて四日間学校を休むことになった。
そうなると、日曜日の夜は本当に憂鬱になる。胃が鉛のように重く、夕食を半分残してしまった。「まだ体調がよくないんだ」と言い、翌日も休むかもしれないという布石を打っておいた。もしかしたら、母はこの時点で、僕の気もちを察していてくれていたのかもしれない。親は、子どもの考えていることを見透かしてしまうことがあるから。
次の日、僕は学校へ行った。このまま、ずるずると休んで、本当に行けなくなってしまうことが怖かった。
実に五日ぶりの学校に、僕は少しビビっていた。小学生のころインフルエンザになって一週間学校を休んだ時とはわけが違う。いわゆるずる休みをして、体調が悪くないのに家にいたという背徳感が胸をよぎる。
もちろん、そんなことを誰も知る由はない。しかし、なんとなくそれがバレているんじゃないかという気がして嫌だった。
(あいつ、サボってたやつだな)
(友達がいないからだろ)
(また、制服の襟にフケつけてるよ。きったねー)
そんな声が聞こえてきそうで嫌だった。実際に、そんなことを言われたことはないし、聞こえてきたこともない。被害妄想? そうかもしれない。
昇降口で上履きを履き、教室に向かう。その間、誰とも目を合わせない。校舎のあちこちから、聞こえよがしな話し声、笑い声が聞こえてくる。俺たちは面白い話をしていますよ、私たちは友達と仲良く充実した学校生活を過ごしていますよ、そう見せつけるかのように。彼ら、彼女らは不安なのだろう。常に誰かの輪に入っていないと、「ぼっち」「ハブられた」と思われる。そう、僕のようにね。
教室に入る。みんな席を立ち、いつものメンバーで固まってしゃべっている。僕の席の近くで、野球部の男子三人が、昨日観たテレビ番組の話をしていた。そのうちの一人、小倉という男と一瞬目が合った。心臓が、ふっ、と持ち上がる。しかし、小倉はすぐに目をそらし、他の二人との会話に戻っていった。
そんな感じで、久しぶりに登校した僕は、ほとんど誰とも関わることなく、一日を終えた。
その日の部活は無断欠席した。今日は雨だから、室内で筋トレなどの自主練をすることになる。どうせ顧問の澤江は来ないから、ただみんなでサボって。時間をつぶすだけになる。僕は、どうせ、そこにいるだけになる。
次の日から、また僕は学校へ行かなくなる。
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