CASE.42 何もできることなくて船長の威厳が無くなりつつあるんだけど、この絶体絶命の状況で船長室の椅子に踏ん反り返っていたらマジでお飾りの船長になっちまうじゃねぇか!? by.ティーチ

 「ジーベック号mark.Ⅱ」はアダマース王国の上空に突如出現した《嫉妬の大罪レヴィアタン・シン》と、《嫉妬の大罪レヴィアタン・シン》から発生する濃厚な混沌の魔力から産み落とされたメガロシャードンと戦いを繰り広げていた。


 「ジーベック号mark.Ⅱ」に搭載された物理障壁と魔法障壁の二つにより、「ジーベック号mark.Ⅱ」は現在まで破損せずに済んでいる。

 しかし、真っ赤に染まった深淵の捕食者メガロシャードンが『喰ワセロ、喰ワセロー!』と地獄から響くような声と共に捨て身覚悟で放ってくる突撃攻撃は一撃一撃が強固な物理障壁と魔法障壁を幾度となく崩壊寸前に追い込み、障壁の貼り直しが幾度となく求められた。


 《嫉妬の大罪レヴィアタン・シン》は周囲に特殊は水槽を作り上げ、その中を泳ぐようにして空中を泳いでいる。その内部では深淵の捕食者メガロシャードン以外にも深淵の使徒サファギンが産み落とされ、自ら水槽を作り上げる力の無い深淵の使徒サファギンは水槽の外に出ると同時に地上に落下し、地上の兵士達と死闘を繰り広げ始める。


「赤い鮫と巨大鯨への光学兵器レーザーの着弾を命中。鮫には大きなダメージを与えられたようですが、巨大鯨はほぼ無傷ですね。あっ、修復されました。魔導収束連砲魔力充填九十七パーセント、百二十パーセント充填確認後に巨大鯨に向けて発射します」


「……村木さん、この船の船長って俺だよな? なんで、コントロールパネルを村木さんが操作してんだ?」


「防御システムの方は海賊さん達にお任せした筈ですが?」


「……それが、船員の奴らに持っていかれて、俺の仕事がねぇんだよ! ってか、それ俺にも撃たせてくれよ! 浪漫しかねえじゃねぇか!」


「船長にはその立派な剣があるじゃないですか。その剣に火魔法纏わせて炎の殺戮剣ジェノサイド撃って鮫屠ってください」


「どう考えてもあの魔力でできた水に防がれるのがオチだろ! 俺、何もできること無いんだけど!? 船長の威厳が皆無じゃん」


「それなら、船長室の椅子に踏ん反り返っていれば良いんじゃないですか?」


「おいおい、それだと俺がまるでお飾りみたいじゃねぇか?」


「そうなんじゃないですかね?」


「否定してくれよ!?」


 村木はティーチとの不毛なコントを続けながら、更にコントロールパネルを操作していく。


「宇宙エネルギーの捕獲並びにタキオン粒子への変換を確認。超重力場形成による船の固定及び、防御システム並びに反動消滅機能フル稼働。荷電粒子砲並びに太陽光収束レーザー発射準備完了」


「おい、なんか聞いたことがねぇ機能が増えてんじゃねぇか! 船長にも船員にも説明無しかよ!?」


「仲良くなったアンさんとメアリさんには説明しておきましたが、報告されませんでした?」


「聞いてねぇよ!? 船長に報告怠るってどういうことだよ!? ってか、二人とも下ろしちまったじゃねぇか!?」


「いや、楽しそうなことしとりますね」


 ナチュラルに会話に入ってきた「影道化ジョーカー」にツッコミを入れる者は最早この船には居ない。


「アンさんとメアリさんから報告受けて手伝いに来ましてんけど、どうやら《嫉妬の大罪レヴィアタン・シン》はそっちで何とかできそうやね。まだ後六体復活しとるようやし、自分はもう行きますわ」


「ちょっと待ってください!? まさかコイツ《嫉妬の大罪レヴィアタン・シン》なんですか!? ってか、心配ないってどう考えても勝ち目無いでしょう!? ……って、もう居ないし」


「良かったですね、ティーチ船長。お仕事ですよ? このコントロールパネルの発射ボタンを押せば、先程準備した武装が発射されるので、私があの空に浮く水槽を壊したら遠慮なくぶっ放してください」


「やった、遂に船長らしい仕事だぜ!? って、あの水槽をぶっ飛ばすだと!? どうやって……」


「こうするんです」


 村木は一丁の黒光した拳銃を取り出し、一方通行の障壁から手を出して水槽群の一角に向けて構えた。


「風の魔力の収束を確認。性質変化――震衝弾」


 村木の拳銃から風の魔力の弾丸が放たれる。「なるほど、風の魔力を弾丸にして放つのか。それなら鉛玉は必要ないな」程度の感心しか抱いていなかったティーチは、弾丸を受けた大気にヒビが入った瞬間を目撃して目を疑った。


 ヒビ割れと同時に水槽が一斉に弾け飛ぶ。押し寄せた衝撃波は深淵の捕食者メガロシャードンや水槽内部にいた深淵の使徒サファギンを一撃で粉砕し、更に《嫉妬の大罪レヴィアタン・シン》にも無数の傷を刻んだ。


「風の魔力を収束すると性質が変化して衝撃をもたらすようです。実験して分かったことですが、今の一撃で大地に巨大な地割れを発生させ、余波で地震を引き起こすことが可能だと確認されております」


「あー、そういや少し前に大きな地震があったな……アダマース王国って地震がなかなか起こらない国なんだがと思っていたが、もしかして犯人お前?」


「さあ、存じ上げません」


「絶対そうだろ! 分かり切ったことをポーカーフェイスで否定するのやめろ!」


「そんなことより、水槽が無いうちにとっととあの《嫉妬の大罪レヴィアタン・シン》でしたっけ? 巨大鯨とっとと沈めてください」


「絶対にそんなことで片付けちゃいけねぇだろ!? 全武装発射!」


 魔導収束連砲、荷電粒子砲、太陽光収束レーザー、波動砲が同時に命中し、危険を察知して三体に分身した《嫉妬の大罪レヴィアタン・シン》と衝撃で死亡した深淵の捕食者メガロシャードン深淵の使徒サファギンの残骸を十把一絡げに消し飛ばした。



 ◆◇◆◇◆



「さて、《嫉妬の大罪レヴィアタン・シン》の方は大丈夫だし、《色欲の大罪アスモデウス・シン》と《怠惰の大罪ベルフェゴール・シン》はデルフィニウムさんが対処してくれている……《憤怒の大罪シャイターン・シン》と《強欲の大罪マモン・シン》のことは月村さん達に任せて私は《傲慢の大罪ルシファー・シン》と《暴食の大罪バアルゼブル・シン》の方を片付けますか」


 エーデンベルクの麓、ロベリアとの思い出のある山小屋にも危険が及ぶ可能性の高い地点に出現した漆黒に染まった鷲獅子グリフォン三頭犬ケルベロスにユウリは視線を向ける。


 空中に蜘蛛の巣を張るように糸を張り巡らせてその上に立つユウリを見つけ、鷲獅子グリフォン三頭犬ケルベロスは一瞬にして標的を定めると、鷲獅子グリフォンは堕天した際に黒く染まった光条を、三頭犬ケルベロスは一咆えすると同時に豪雨を伴った暴風――嵐を発生させる。


「なかなかの力だね、七罪魔天。でも、そんな攻撃じゃ私は殺せないよ?」


 ユウリが展開した無数の切断の概念そのものの糸が光条と嵐を切り刻み、一瞬にして四散させてしまう。


「魔力解放――闇系統環境変化魔法【夜】」


 ユウリの魔力がアダマース王国側のエーデンベルク山付近の空に溶け込み、太陽を遮ることで局所的な極夜を発生させる。

 闇属性魔法の覚醒者アウェイカーてあるユウリの【夜】には【夜】の世界に存在するあらゆる光を弱体化させる効果がある。その光は神聖魔法の輝きや堕ちた光も例外ではなく、中途半端な光では【夜】の力に抗えず、短時間で消滅してしまう。


 再び《傲慢の大罪ルシファー・シン》が放った黒く染まった光条がユウリに着弾する前に【夜】の闇に溶けるように消えていった。


「さて……一気に仕留めさせてもらいますか。魔力解放――闇魔法性質変化魔法【極黒球】」


 ユウリの手に小さな黒い球が生成される。この高密度のエネルギー体は闇の性質変化である重量操作に作られた擬似的なブラックホールである。

 極小で周囲のものを強引に吸収するほどの力はないが光を寄せ付けないほどの圧倒的な吸引力を誇る。

 そのマイクロブラックホールをユウリは自分の目の前に設置した。


千絲万光ストリングス・ヘブン


 そして、ユウリの手から大量の切断の糸が放たれ、《傲慢の大罪ルシファー・シン》と《暴食の大罪バアルゼブル・シン》の身体を切り刻む。

 小さなサイコロ状にまで切り刻まれた《傲慢の大罪ルシファー・シン》と《暴食の大罪バアルゼブル・シン》は混沌の魔力を伸ばして体組織の回復を図るが、ユウリは完全復活の余裕など与えず間髪入れずに次の攻撃を仕掛ける。


「魔力解放――闇魔法性質変化魔法【神羅天引】」


 小さなサイコロ状になった二体の七罪魔天の身体が超強力な引力に引っ張られ、再生する間も無くマイクロブラックホールの方へと飛ばされていく。

 その強大な力に抗えぬまま、二体の七罪魔天はマイクロブラックホールに吸い込まれ……その強大な重力に押し潰されてマイクロブラックホールの一部と化した。


 そのマイクロブラックホールもユウリが魔法を解除すると同時に消滅し、《傲慢の大罪ルシファー・シン》と《暴食の大罪バアルゼブル・シン》は世界から跡形もなく姿を消した。


「さて、月村さん達の様子を見に行こうかな? ……とその前に」


 エーデンベルク付近に湧き出た全ての魔物を文字通り細切れにしたユウリは「神出鬼没で望む場所に好きな時に現れることができる」転生特典を発動してエーデンベルクから目的地に転移する。

 ユウリの去ると同時にエーデンベルクの夜が明け、ロベリアとユウリの思い出の詰まった秘密の隠れ家を含む一帯に平穏な日常が戻った。

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