39話・繋がった
ブゥン
小さく何かが揺れる。これは、スマホの……。
私は、動かなくなったスマホを手に取り画面を見た。つかなくなったと思っていた画面に光が灯る。
「何で――?」
圏外表示でもない。何が起こったの?
私は勢いよく起き上がり、通話アプリを起動する。
繋がらないとわかっている。だってここは――。
「カナ」
「タツミ……」
繋がった? この声はタツミだ。タツミだ!
「タツミ! ごめんなさい! 私、私!」
「カ……まって…………、聞きと…………」
声が途切れ途切れだ。せっかく繋がったのにこれじゃあ……。メッセージの方がいい? でも、通話を切ってしまったら――。
「カナ……わ…………お……い……」
ブツンと切れる音がした。
「タツミ……」
何で繋がったの? 私にまた絶望しろとでも言いたいの?
「くくく、そうだよぉ」
嬉しそうに笑う男の子の声がする。
「また、あなたなの……」
「面白かった?」
私はこの子に遊ばれているんだろうか。
「ありがとう。少しだけでも彼の声が聞けて良かったわ」
「じゃあ、この世界を終わらせようよ。オカアサンは向こうに戻るんでしょ?」
「カナ」
ライトの呼ぶ声がする。
「大丈夫。何でもないわ。ライト」
「もうすぐ戻ってくるはずだ」
「本当!?」
先ほどの声は止まり、いまはライトの次の言葉しか聞こえない。
だって、リサさんが戻ってくるって!
「話が正しければ明日の夕方になるだろう」
「それは予言?」
「いや、違う……」
なんだっていい。私はやっと帰れるんだ。明日。明後日?どっちだっていい。やっとやっと。
画面がまた真っ暗になったスマホをぎゅっと握って私は夜が明けるのを待った。
ーーー
何で……。
朝がきて、外が明るい。準備をしないと、と思っているのに。
口が動かない。意識だけがはっきりしているのに、体がついてこない。私はいったいどうなってしまったの?
「はぁー、長かった。でもボク、もうすぐ産まれるよ」
嬉しそうに、男の子が囁く。
「どっちが勝つかな? ねぇ、オカアサン」
ーーー
あの子が勝手に私の体を動かし、カトルのもとに連れていく。扉をノックすると、すぐにカトルがでてきて部屋の中へと迎え入れられた。
「カナ、本当か……」
「はい、私決めました」
私じゃないのに、口が勝手に動き話している。
やめて、私はそんなこと望んでいない。
「カトルとともにこの世界で生きていきます」
私がカトルに抱き締められる。それを私はガラス越しで見ているような状態だ。
リードがカトルの後ろから私をじっと見ているのが見えた。
(違う……、やめて……私は)
「カナ」
とても嬉しそうなカトルの顔が見える。
何で? 今日、リサさんが帰ってくるのに、お願いやめて、こんなことしないで。
私はなんとか体を取り戻そうと必死にもがいた。絶対に諦めたくない。
「カナ! 僕の名前を呼べ」
ライトの声が聞こえる。名前――。手を伸ばし彼の名前を呼ぶ。
お願い、助けて!
(ライト!!)
暖かい光が私を包んだ。
ーーー
どうなったんだろう?
変わらずに私の意思で体は動かせない。糸が切れたマリオネットのよう。ただ、あの子の気配がなくなった。
「カナ、カナ?」
カトルが、声をかけているけれど私の声は出てこない。
(ライト。どうなったの?)
「
(ライト?)
「僕もカナのように意思を乗っ取られるかもしれないな――」
(そんな……)
「リサが、間に合えばいいけれど。それまでに僕の方がやられるんだろうね」
諦めたように話すライト。もしかして、未来を知っているの?
「知っているというよりは、聞かされた――かな」
そう言ったあと、ライトは喋らなくなった。
夕方まであと数時間。私はこのまま何も出来ずに、何も話せずに……。
カトルに違うとも、帰りたいとも、言えない。リサさんが戻ってきても、二度と会いたくないって言ってしまっているのに――。
私は一人絶望の箱の中に閉じ込められてしまった。
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