40話・失いたくないもの(カトル視点)

「カナ、カナ!?」


 何度呼び掛けても、カナは反応しない。

 やっと君から愛していると聞けたのに。


「殿下、カナ様は魔法で操られているのでは――」

「違う、確かにさきほどまで動いていたじゃないか」

「しかし、このように寝間着で、その……」

「カナは私に急ぎ伝えたかっただけなんだ――」


 確かに驚いた。このような姿のまま、誰も止めなかったのかと。

 だが――。やっと、私の腕の中に来てくれたのだ。

 他の誰でもない。私を選んでくれたのだ……。だというのに、運命の悪戯なのか? 私がいったい何をしたというのだ?


「カトル様――」


 懐かしい声が私を呼んでいる。


「カトル様――」


 だけど、私は君を知らない。

 私の最愛の人は、今目の前にいる小さなこの少女だ。この国を救い、私とともに歩んでいく、運命の相手。


「殿下、カナ様をお部屋までお連れしましょう。様子がおかしいです」

「――わかっている」


 彼女を抱き抱え、部屋へと連れていく。部屋の前では付けていたはずの侍女が倒れていた。

 リードが、侍女を確認し一緒に来ていた兵が連れていく。


「この部屋では危険だ。私の部屋に」

「わかりました」


 私は踵を返して自室へとカナを連れていった。

 そっとソファーに座らせ、語りかけたが、反応はない。


「息もしている。瞬きも。なのに何故、話してくれない? 笑ってくれないんだ? カナ」

「殿下、侍女が参りました。着替え等は彼女達に任せて」

「あぁ……」


 私は立ち上がり、部屋を出る。すれ違った侍女達に、言ってしまった。


「カナに何かあれば、お前達覚悟をしろ」


 侍女達が、青い顔をして頷き部屋の中へと入っていく。

 私は、こんな風だったか? 彼女のことになると歯止めがきかない――。自分が自分でなくなっていく。

 私は、けれど私は――、二度と失いたくないのだ。


 二度と? いったい、誰を――?

 カナは今ここにいる。失ってなどいないというのに。

 違うな、彼女を失うわけにはいかないんだ。


 私は自問自答をしながら、侍女達がカナの仕度を終えるのを待った。

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