38話・猫屋敷とソーイ
「カナねーちゃん」
「カナお姉さん」
久しぶりにきた猫屋敷。横にはリードがついてきている。
屋敷のまわりでは相変わらず、たくさんの猫が優雅に日向ぼっこしている。
にゃおんと鳴きながらエメラルドという名前の猫がすりすりとよってきた。
喉と耳の後ろ、背中を撫でてあげると満足そうに猫は日向ぼっこができそうな場所へと戻っていった。
私もあんな風にごろごろしたいな、なんて思っているとミュカとキーヒが何かを言いたそうにしていた。
私は彼らに視線を合わせるためにしゃがんだ。
「どうしたの?」
「あの――」
言いかけては引っ込める。なんだか言いにくそうだ。リードがいるからなのかな。
「大丈夫だから、言っていいよ」
そう言うと、キーヒの方が口を開いた。耳に近付いてきて小さな声で言う。
「ソーイ兄さんに魔法をかけてもらえませんか?」
私も彼に合わせて小さな声で答えた。
「魔法って癒しの?」
彼はこくんと頷く。
ソーイさんに何があったのだろうか。私はソーイさんのいる場所を聞いて、猫屋敷の中に入った。
ーーー
「カナ様、何故ここに」
ソーイさんは調べ物でもしていたのか、大量の本に囲まれていた。
「あ、えっと、お願いされまして……」
見たところ、特にいつもと何か違うような気はしないけれどキーヒがお願いしてきたのだから、もしかしたらと私は彼に魔法をかける。
ソーイさんを癒して。
「ライト」
光が彼を包み込むと、背中のあたりに光が集まった。
「背中、何かあったんですか?」
光が消えて、魔法が終わったことを確認し私は彼に聞いた。
ソーイさん、寝癖のような髪の毛のハネがなぜか一本増えて、後ろにいたリードをじっと見ていた。ふぅとため息をつくと本を置き、私の方を向いてお辞儀してきた。
「ありがとうございます。カナ様。ただ、これは何でもないただの私の不注意でして、わざわざこんなことに魔法を使わせてしまい申し訳ありません」
「そんな、ミュカ君もキーヒ君も心配していたので、こちらこそすみません。勝手に魔法をかけてしまって……。頭を上げてください」
私がそう言うと、彼は頭をあげて片眼鏡の位置を指で直していた。
「カナ様、私はまだ仕事がありまして……」
「あ、邪魔してごめんなさい。私、外に戻っています」
ぺこりとお辞儀して、私はソーイさんのいる部屋から出た。
「カナ様――」
リードに声をかけられたが、私は歩みを止めず考えていた。
ソーイさんは
私がここにくれば、彼らに迷惑がかかるのかもしれない……。
私は、外にいるミュカとキーヒに魔法をかけたことを報告した。
二人はありがとうと言って笑っていた。
自分のことだけ考えていたら、誰かを巻き込んでいることに気がつかないかもしれない。
もう、ここにはこない方がいいのかもしれない……。
「じゃあね」
そう言って、私は手を振り猫屋敷を後にする。
「カナお姉さん」
「カナねーちゃん」
二人も手を振って答えてくれた。
「またな」「また来て下さい」
二人の言葉に私は胸を締め付けられる。
――そうだ、まだ予言の魔物も生きている。彼らを守るためには、私は気をつけなければいけない。
この結界がとけてしまえば、彼らが巻き込まれて――。
「居場所なんてないよね? この世界なんていらないよね?」
居場所はない、けど守ってくれる人達を見捨てたりなんてしたくない。
私は、誰ともわからない声に心の中で答えた。
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