27話・猫と少年

 リサさんがいなくなって、私は少しだけ自由になった。

「私がいない時は、あまり出歩かないで欲しい」とカトルに言われていたのがなくなったから、中庭やお城の中なら散歩が出来るようになった。

 いつも誰か、お供をつけているんだろうけど今日はライトにお願いして、少し足止めしてきた。


 リサさんがいた場所の近くには行ったことがなくて、歩いてみたくなったから――。


 にゃぉん


 猫の鳴き声がした。ここ、猫がいるの?


「こぉらぁー! まてぇぇーー! エメラルド」


 続いて、男の子らしき声も響いていた。


「わぁー、ルビーー! 止まってーーー!」


 もう一人、別の男の子の声。

 視界に二匹の猫が走っていく姿が見えた。


(ライト、あの子達を捕まえてあげて)


「ライト!」


 私は二匹の猫達を結界の中に捕らえる。結界にぶつかっちゃったからあとで癒しの魔法もかけなくちゃ。

 猫達を追いかけて、二人の男の子が走ってきた。


「ありがとうございます!」

「これ、姉ちゃんと同じ魔法だ」

「え……?」


 光の結界を見たことがあるの? もしかして、この子達はリサさんの知り合い?


「じゃあ、姉ちゃんが聖女様か!」

「お姉さんが聖女様ですか?」


 二人に同時に、質問されて、じーっと見られた。


「あの、私……」

「友達になろうぜ」

「え……?」

「僕達、お姉さんに頼まれてるんだ。仲良くしてねって」


 ーーー


「ここは?」

「猫耳兄ちゃんの猫屋敷だ」


 二人に連れてこられた先は、たくさん猫がいるところ。猫耳ということは、第二王子のお屋敷なのかな?

 それにしてもすごい数。いったい何匹いるんだろう?


「普段はあんまり遠くにでないのに、まったく」

「どうしてだろうね」


 二人は二匹の猫をそっと敷地におろした。


 にゃぁぁん

 にゃーん


「あれ、何?」


 二匹は、私にすりすりと頭を擦り付ける。


「遊んで欲しいの?」


 私はしゃがみこんで、二匹を撫でてあげた。すると、ゴロゴロとのどをならしてから満足げに二匹は戻っていった。


「オレ達の時と反応が違いすぎる!」

「さすが聖女様」


 そんな事を言う二人。最初、彼らはどんな風だったんだろう。猫にゴロゴロいわせるだけで聖女って…………。


「ぷっ――、あはは」


 私は久しぶりに、心から笑った。

 何で笑ってるのかわからない二人は少し首を傾げたあとに、私が笑ってる姿を見てニコッと笑っていた。


 彼らに会えて良かった。何だか、私の心が少し軽くなった気がした。


 ーーー


「聖女カナ様」


 緑色の髪の男の人が声をかけてきた。片眼鏡をかけてて、すごく執事っぽい格好。


「ソーイ兄ちゃん」

「ソーイ兄さん」


 二人のお兄さんなのかな? あまり似ていないような。


「申し訳ございません。二人が何かご迷惑を」


 急いで謝ってこられたので私も慌てて否定する。


「あ、違います。迷惑なんて、私が二人に友達になってもらったんです」

「そうだぜー、姉ちゃんの言い付け通りにしただけなんだからな」


 ふんっと大きく鼻息をして、男の子が言う。あ、そうだった。まだ二人の名前を聞いていなかったことに気がつく。


「あの、名前まだ聞いてなかったよね」


 二人はきょとんとした顔をしてから、そうだったとあわてて教えてくれた。


「オレはミュカ」

「僕はキーヒ、ミュカ兄さんの弟です」

「あれ? ソーイさんは」

「私はこの二人をアリスト様からお預かりしているだけです」


 この人は、カトルのところで見たことがないから第二王子アリスト側の人なのかな。


「そっか、二人が兄弟なんだね」

「そうだぜ」「はい」


 堅苦しくない二人との会話はすごく楽しい。もっとここにいたいなぁ。そう思った私は思いきって聞いてみた。


「ここ、遊びに来てもかまいませんか?」


 二人はすぐに頷いてくれたけれど、ソーイさんは頷いてくれない。


「駄目ですか?」

「いえ、ですがきちんと許可をとってきていただかないと」


 そう言って後ろを指差す。


「カナ様ー!」


 誰かが私を探してるみたい。


「わかりました。今度はきちんと許可を貰ってくるね」

「おう、いつでもきていーぞ」

「貴方の屋敷ではないでしょう」


 ミュカはこつんと頭を叩かれていた。


「ソーイ兄ちゃん、いてぇ」

「はぁ、はやく言葉も直さないとですね」


 片眼鏡を押さえながら、ソーイさんはため息をついていた。そのやり取りが本当の兄弟みたいで面白くて、私はまた笑ってしまった。

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