28話・ティータイム
「時間がかかって申し訳ございません」
「いえ、本当に来てくれてありがとうございます」
「約束ですもの」
紫色の瞳がやわらかく微笑む。この前の約束通りにメリエルがお茶をしに来てくれた。
「女同士のお茶の時間に無粋ですけれど、カトル様がリードをつけなければ許可しないと――」
横にはリードが控えている。まるでカトルに見張られているみたい。息がつまりそう。
私が少し嫌な顔をしたからだろうか、メリエルがリードを少し下がらせる。
「カトル様ももう少し柔軟になっていただきたいですわ。女の子を、ずっと城に閉じ込めておくなんて、女心の「お」もわかっていないご様子で……」
彼女はふぅとため息をつく。
「あの、メリエルさんとカトルはどんな関係なんですか?」
先ほどからズバズバとカトルの事を言うから、それなりの関係なのでは? と、気になって聞いてみた。
彼女は、眉尻を下げて少し悲しげに答えた。
「カトル様の婚約者ですわ。まだ――」
その言葉を聞いて、私は背筋が寒くなった。
婚約者って、どういうこと? カトルはこんなきれいな人がいるのに私に結婚しようと言ってきているの?
ううん、それよりもこの人は、婚約者を奪おうとしている人のところに来ているということ?
もしかして、この紅茶に…………。
私の指が震えているのを見て、彼女は小さく首を振った。
「カナ様の事を憎く思ってはいませんわ。だって、この国の予言のせいで呼ばれてしまったんですもの。ただ、ただしょうがなかったことですわ」
彼女は、長い睫毛をゆっくりとふせる。
「それに――」
何かを言おうとして、彼女は一度止まり、リードを呼んだ。
「少しだけ、二人の話をしてもいいですか? カナ様の秘密のことなので……」
「――わかりました」
そう言って、リードは扉の向こうに出た。
「リードもルードも私の部下だとわかってカトル様は――」
「あの、私の秘密って」
「あぁ、リサ様にうかがったのですが、カナ様にはもう愛を誓われた方が元の世界にいらっしゃると」
「あの、愛を誓ったというか、彼氏なんですが」
「恋仲なのでしょう?」
「――はい」
戻れない、けど会いたい。タツミに会いたい。
「ですから私は、リサ様から頼まれていますの。帰る方法を探してくるから全力で、カナ様を守ってあげてと。要はカトル様をおさえておけということですわね」
彼女は困ったように笑う。
「私に、カトル様に嫌われる役をしろと。出会ったばかりの私に言うのですよ。リサ様は、少し天然な方みたいですわねぇ」
ふふふと、困った顔のまま、彼女は笑っている。
リサさんは、彼女にそんなことをお願いしていたの。本当に、あの人は――。
「カナ様、――カトル様を恨まないであげてください。あの方は――」
急に、真剣な顔になったメリエルは私に告げた。
「大切なものを二回失って、迷い子のようになってしまったのです」
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