26話・リード

「今日から私が担当します」

「よろしくお願いします」


 ルードが出掛けたので私の魔法練習をリードが見てくれる事になった。

 もう必要ないだろうとカトルが言っていたけれど、めるわけにはいかない。だって、本当の予言の魔物はまだ倒していないから……。本物が何時いつ来てもいいように、強くならなきゃ。

 それに、何かしていないとすぐ暗いことばかり考えてしまう。

 返事を待つカトルがそばにくるかもしれない。そんな風に考えなくてすむから続けたいと私は伝えた。


ルードから聞いていましたが、素晴らしいですね。発動も速く正確。結界強度も――」

「ありがとうございます。リードも、そんなに魔法が使えたんですね」


 剣ばかり使って、魔法を使う姿を見たことがなかったけど、リードはルードよりも使える魔法が多才だし、威力もたぶんだけど――凄い気がする。


「何でそれだけ魔法が出来るのに、リードは剣を使うの?」


 私は気になって、彼に聞いてみた。すると、感情をあまり外に出さなさそうな無表情ポーカーフェイスの多い彼が少し困った顔をしていた。


「弟が、私に……劣等感を抱かないように」

「ルードが?」

「色々とありまして――」


 あまり、話したくない事情でもあるのか、彼は言葉を濁す。


「話したくない事って色々ありますよね。私も、兄が羨ましいとか兄ばかりずるいっていっぱいありましたし」

「カナ様にもご兄弟きょうだいが?」

「はい、兄が一人。とても優しくて、でもアホでバカで」


 ポロリと涙が一粒こぼれる。私は急いで目をこすった。


「私のこと、小さい時からずっと面倒みてくれてて、いっぱい心配かけてて」

「会いたいですか?」


 急に問われて、私はびくりとした。けれど、年が近いからなのか、なんだか素直に気持ちを吐き出せた。


「皆に会いたい。会いたいです――」


 吐き出した気持ちと一緒にポロポロと、涙が勝手に溢れてしまう。


「いいお兄様なのですね」


 そう言って、ソッとハンカチを渡された。


「ごめんなさい、泣いてしまって――」

「いえ、ご家族に会いたいという気持ちを、こちらの都合で……申し訳ございません」

「リードのせいじゃ――」

「私はカトル殿下に、この国に忠誠を誓う身ですから」


 貸してもらったハンカチで涙を拭いて、私はもう一度彼を見た。

 いつもの顔に戻った彼は、城へと戻る準備を始めていた。


「ルードと、何があったかはわかりませんが仲良くしてくださいね」


 そう言うと、ほんの少しだけ笑いながら彼は「――はい」と答えてくれた。

 ハンカチ、……洗って返さなきゃ。

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