23話・私じゃない誰か

「会いたくない?」

「はい。ライトに聞いたんです。彼女の力は危険だって。私の力を奪っているかもしれないと」


 嘘なんてつきたくないのに……。


「わかった。その様に動こう。光の精霊と大事な話があったからあの場所にいたんだね。すまない、気が動転してしまった。急がないから、考えてくれないか――」


 カトルはそう言って、じっと私を見つめる。この時、初めて気がついた。彼の瞳は、私じゃない誰かを見ていることに。


「時間を……下さい」

「あぁ、私は話をしてくる。今日はゆっくり休んでくれ」


 カトルが部屋を出ていくと、ライトが話しかけてきた。


「リサにも、説明をしてきた。大丈夫だ、彼女はきっと動いてくれる」


 あんなこと言ったのに……。やっぱり、彼女が本当の聖女だよ。私より強くて、優しくて。何で私が呼ばれたんだろう。

 ちくりと身体に小さな小さな痛みが走った。


「カナ、あまり悪く考えるな――。孵化がはやまる」


 わかってる。リサさんが帰ってくるまで、私は負けられない。

 彼女が、唯一の希望だから。


 ーーー


「カナ様、カトル様からの伝言です」

「はい」

「リサという人間が近づかないようにした。ただこれだけでいいのか? 捕まえて断罪しなくてもいいのか、と」

「聖女である私がそんなこと望みません。ただ、近くにいなければ大丈夫なんです」

「はい、わかりました。伝えてきます」


 さっきの声は、リード? ルード? どっちだったのかな。扉の向こうからじゃわからない。声はよく似ているから。


 断罪なんて――。カトルは何をそんなに恐れているの?

 私が聖女じゃなくて、リサさんが聖女だったら、何かあるのかな。彼女を、守ってもらう人をつけなきゃ、命が危ない?

 でも、私の知り合いなんて…………。


 ーーー


 カツカツカツバーーーン!


 あの、えっと誰ですか?

 夕刻近く、知らない女の人が部屋に入ってきた。濃い紫色の長い髪、紫の瞳のきれいな人。


わたくし、メリエルと申します。貴女とお友だちになりに参りましたわ」


 彼女の後ろで、片方の目が青い、ルードがあたふたしていた。


「友達……?」

「そうですわ! とあるお方から、お願いされましたの!」

「メリエル様! あまり時間は――」

「わかっております」


 メリエル? ルードの知り合いなのかな? どう言えばいいんだろう。


「カナ」


 ライト?


「その女に、頼め。リサのことを――」


 え?


「今日はご挨拶だけ! それではまた」

「待って下さい」


 帰ろうとする彼女を私は急いで引きとめた。


「あの――」


 何て言えばいいのかわからなくて、私は言葉に詰まってしまう。それを見た彼女はルードを外に出させてからゆっくりとこちらに振り返った。


「何かお急ぎですの?」

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