17話・何が起こったの?

「昼からは、もう一人の女性に――」


 ルードは、そう言っていた。

 私は昼からの魔法の練習から解放されたみたいだ。


「もう一人の女性は、魔力があるのよね……」


 私と違って、ルードが教えたことをすぐに実践できるんだろうな。映画みたいにかっこよく炎の魔法とか、水の魔法とか使えるのかな。

 それが羨ましくはないけれど、不安に思う事がある。

 私と違って、この国に居続けるつもりなのだろうということ、第二王子様の婚約者であること、魔法が使えて、もしかしたら私は偽物で、もう一人の人が本物で――。

 帰りたいと言っている私より、大事にされるかもしれない。だって、魔法の練習ももう始めるって――。


「どうしよう……」


 私、ここから追い出されてしまうのかな。

 もしそうなったら、どうやって知らない場所で生きていこう。

 いやだ、死にたくない。帰りたい。タツミのところに――。

 また、悲しみの感情が顔を覗かせる。


「オイデ」


 誰?


「ココニカエル場所ガアルヨ」


 何処?


「オイデ」


 知らない声だけが響く。


「帰りたい。帰りたい!」


 私は大きな声で叫んでしまった。

 暗い声がケタケタと笑い声をあげる。


「カナシミトゼツボウヲノセル夢ノ牢獄ヘ」


「カナ様、いかがなさいました!?」


 コンコンと扉を叩く音と女の人の声がする。


 私は、違う、そんな場所じゃない! もとの世界に……。


「カナ――」

「ライト……」


 急な眠気に襲われて、私はたぶん、倒れたんだと思う。


 ーーー


 真っ暗……。


「カナ」

「タツミ?!」


 タツミの声だ! どこ? どこにいるの?!


「カナ」


 ぼぅっとした光の中にタツミの姿が浮かぶ。


「タツミ!」


 その横には、知らない女の人がしなだれかかっている。


「その女の人、誰――?」

「カナが、言っていたじゃないか。その人と付き合えばって――」

「それは!」

「カナよりずっと素直で、気が楽だ」


 やめて。


「喧嘩なんてしないしな」


 やめて!!


「カナが居なくなってよか――」


 やめてぇぇぇぇぇぇ!!!!

 私は見たくないからと、目と耳をぎゅっと押さえた。

 そして、叫んだ。


「本気じゃなかった、本気でそんなこと言ってない! いやだ、いやだよ」


 暗闇の中、私は後悔し続ける。

 言ってはいけない言葉を、口にしてしまったんだ……。


 ーーー


「カナ、カナ!」


 ライト――――?

 遠くで、呼ばれている気がするけれど私は目の前の二人を見ることが怖くて、目をふさぎ続けた。


 ーーー


 どれくらいの時間がたったのかな……。

 遠くで誰かの声がする。誰かが私を撫でる。

 誰? でも、この手は――。

 タツミの手じゃないということが悲しかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る