16話・第二王子アリスト

「カナ、もう一人の女性は、この国の第二王子、弟のアリストと婚約した」

「え?」


 喚ばれてすぐに、何で?

 もしかして、待っている人がいなかったの?

 私と違って……。


 昨日の知らせから、急にそんな事になったなんて。もう一人の女性は、期待しても無駄なのかもしれない。この世界で生きていくつもりなのだろうか。


「王子様の婚約者だったら、もう怪しい人ではないのですよね? まだ会えないのですか?」


 カトルはふるふると首を横に振ると、まっすぐにこちらを見て言った。


「兄弟と言っても、彼と私は母親が違う。それに彼は、この国では加護が薄い、たった一人だけの猫の獣人だ」

「獣人?」

「あぁ、両の耳が猫のもので尻尾もついている」


 猫の耳と尻尾がついた人間ってこと?

 名前がアリストって……。

 まるでタツミが拾ってきた猫のアリスみたい。

 私はまた、あのケンカを思い出してしまい謝らなきゃと思っていた――。


「私を蹴落とせば、この国の王になれる位置にいる人間が、魔力の強い彼女を引き入れたんだ。もし、転覆を企てるようなことがあれば、次はカナが狙われるかもしれない」


 私は、この国の玩具じゃない……。謀略? 策略? 知らないよ、そんな事――。


 私の世界に戻る方法は、自分で探すしかないか……。


 ーーー


「カナ様、魔法がとてもはやく発動出来るようになりましたね」


 ルードが魔法を見てくれる。

 ここは、いつも使う魔法の練習場。お城から少し離れた場所にある。


「今日は、少し外を回りながら帰っても宜しいですか?」

「何かあるの?」

「はい、アリスト様がカナ様の結界の端がある場所で何かをしているそうなので、その調査に」


 馬車が、いつもとは違う場所へと向かう。


「少しだけ、お待ち下さい。この一ヵ所が終わればあとは、城に戻ってからでも――」


 そう言って、ルードは近くに池のある森へと入っていった。


 私は外の空気が吸いたくて、馬車から降り池の縁に立った。


 カサッ


 何かが、風と共に動いた気がしたけれど、何も見当たらないので、私はゆっくりと池の水が風で揺れるのを眺めていた。

 少し時間がたつと、ルードが戻ってきた。


「カナ様、終わりました」

「はい」

「森には魔物がいることもあります。あまり外に出られない方が――」

「結界をはっているのに?」

「すでに中に居たものは一緒に閉じ込められていますからね」

「そうなんだ」


 ガタガタと馬車に揺られながら、私達は城に戻った。


 ルードが言っているアリスト様って、第二王子よね?

 そんなに、悪い人なのかしら――。

 何か細工をするつもりなら、王子が直接動くなんて、おかしい気がするけど。


 カトルは、怯えすぎているんじゃないかな。

 それとも、平和ボケしている私にはわからない何かがあるのかな……。

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