9話・古の契約


「よくきたな、契約の乙女」


 低い男の人の声が響く。


「我が名はライト。お主の名は?」

「カナよ!」

「そうか、カナよ。お主には古の契約を結ぶ覚悟はあるのか?」


 聖女になるってことでしょ? 何度も確認ばっかり。嫌になりながら私は答える。


「えぇ、あるわ!」

「……、そうかならばその石碑に左手をのせてくれ」


 ポォっと淡い光が石碑に灯る。

 何か書いているけれど、読めない。

 手をそっと置くと、光が強くなった。


「我が名と、お主の決意を口にするがよい」


「……ライト、私は聖女になる!」


 急に目の前が眩しい光に包まれた。真っ白な光はだんだん小さくなって左手の薬指に集束する。


「指輪……?」


 私の薬指にぴったりと小さな指輪がはまっていた。さっき見た淡い光と同じ光をたたえた小さな石が一粒ついていた。


「それは契約の証だ」


 ライトが続ける。


「時がくれば、魔法の使い方を教えてやる」


 時がくれば?

 待ってなんていられないわよ!


「今すぐ教えて!」


 …………。返事が途切れた。声だけしか聞こえないから、表情なんて読めないし、ライトがここにいるのかどうかもわからない。


 数十秒の間のあと、ライトの声が聞こえた。


「じゃあ、僕達の名前を呼んで、何かしてほしいことを願うといい。光の魔法は守護と癒しに特化しているから、カナならすぐに使えると思うよ」


 そういったあと、ライトの声は聞こえなくなった。なんだか急にしゃべり方が変わった気がしたけど、なんだったんだろう。それに僕達って? ライトのことよね?


 心配そうな顔をしている、カトルのところに戻り、指輪を見せ先ほどのことを報告する。

 聖女の契約を終えたのに彼は喜ばず、辛そうな顔をしていた。

 それが何故なのか私には、わからなかった。

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