第5話 願いは


 更に一週間が過ぎ、凛の命はわずかになる。


 それでも凛は白い飯をふりかけだけでガツガツと食べる。


 やれやれ、悩みなど無い感じであった。


「凛、美味しい?」

「はい、夕菜様」


 凛は語った、これまで幾度となく、生贄になり、災いから人々を守り、これからも転生して生贄になるはずであったと。


 過去や未来、並行世界までこの世界の凛が救うのである。わたしは疑問に思った。災いは消えるのであろうかと。


「きっと、消えませんね」


 凛は苦笑いをして言葉を選んでいた。しかし、凛の瞳は輝いていた。それは希望に満ちた輝きであった。


 わたしは思う、災いを感じなくなるのだと。夕暮れの外に出て庭に水を撒く。

世界は平和そのものである。凛とのお別れが近いと感じて、わたしは凛に甘えてしまう。そして、何故、この世界の凛だけ特別なのであろうかと思うのであった。


「夕菜様、わたしはどの世界でも特別です。ただ、違うのは夕菜様です」


 凛を永遠に続く、人柱から開放したいと思ったのは、わたしだけらしい。歯痒い目で凛がこちらを見ている。庭の水撒きが終わる頃には蝉の鳴き声も止まっていた。


「凛、線香花火でもしよう」

「わたしがコンビニまで買いに行くのですか?」

「一緒に歩こう」


 凛は少し照れて、一緒に歩き出す。

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