第4話 凛が……。
「夕菜様、失うのは命だけです。わたしが代わりに、長い眠りにつきます」
わたしは死を目の前にして、凛がわたしの代わりに生贄になると言うのです。
「凛、何故、死を求めるのです?わたしがその命を捧げればこの村は救われます」
「いいえ、わたしの方が永遠に人柱になる存在なのです」
清き瞳の凛はわたしを試したそうです。死を恐れない存在が必要で、その輝きが凛を召喚することが必要だったのです。
……。
あれ……?前世の記憶だ。今まで途切れていた部分だ。朝の微睡の中で感じた記憶である。わたしはベッドの隣で寝ている凛を起こす。凛は眠っていなくて、薄っすらと天井を眺めていた。
「本当は凛の方が生贄なのでは?」
その問いに凛は小さく頷く。わたしは凛を失って生き続けるのか……?
「孤独なわたしを一人にするの?」
それは本名すらどうでもいい、友人Aと友人Bしかいない人生で初めて素直になれたのが凛であった。
「はるか昔の夕菜様も似たようなことを言っていました」
「違う、わたしの言っているのは今の凛だ」
凛は下を向いて沈黙する。たった数日でかけがえのない人になった凛を失うのか。あの秘書の黒メガネは知っていたのか、大地震とはいえ、一個人にそこまで頼るはずがない。凛が生贄でわたしはその凛を召喚する存在であったのか。わたしは約束の日までの日数を数える。
……何も出来ないのか。
わたしは隣の神社の神主のおじさんに話を聞くことにした。
「何故、わたしに生贄になった記憶があるのですか?」
神主のおじさんは真剣な面持ちで話し始める。
「時間軸のすれ違いです」
わたしは大きく首を傾げる。
「昔の夕菜さんが生贄になった時間軸と凛が生贄になった二つの時間軸があり。凛が生贄になった時間軸がこの世界で子孫である夕菜さんが存在するのです。多分、昔の夕菜さんが生贄になった時間軸が近すぎた為に夕菜さんに生贄になった記憶が残ったのでしょう」
あん?
理解できない……。
SF用語の時間軸とか意味不明だし。
「ここで大切なのは今回も二人のうちどちらが生贄になるか不確定なのです」
つまりは、まだ、わたしが生贄になることがあると言うのか……。
それだけは理解できた。さて困ったぞ、わたしが逝く展開もあるのか。秘書の黒メガネは嘘かホントなのか不明だが麻酔で気持ちよく逝けるとか言ってたな。
そもそも、誰に決定権があるのだ?やはり、凛か……。わたしは自室に戻り凛に逝きたいか聞いてみた。
「わたしは永遠に生と死を繰り返すのです。この世界で生き延びても、また、死が待っています」
あ、そう……。
なら死んでもらうか。
違う、違う、違う、いくらB級小説でも凛を死の輪廻から解放する方法を探さないと!!!
わたしは難しい事を無い頭で考えてみる。
そうだ!!!
すべての凛を開放する願いをかけて、わたしが生贄になればいいのだ。
凛は驚いていた。その願いが叶うかと言うよりも、自分の為に死んでくれる存在がいることである。
「そうね……逆にしましょう。この凛であるわたしが、すべての凛を救うと願いましょう」
……。
決意表明か……わたしの負けだ、この世界の凛は最後の生贄になるのだと思うのであった。
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