第13話

部長はいつも以上に厳しく、朝から絶好調だった。

そう、俺もいつも以上に叱られた。


「やり直し。詰めが甘いんじゃないか、朝比奈」

「すみません…」


一蹴され、書類を突き返される。厳し過ぎる視線を見れない。やっぱこの人、俺のこと嫌いだよな?


「うわーー…朝比奈、大丈夫?部長めっちゃ苛ついてんね」

「ドンマイドンマイ」

「ははは、大丈夫だよ」


同僚の心配する声も俺には届かない。いつもの貼り付けた営業スマイルで、これ以上突っ込むな、と釘を刺す。まあ同僚には伝わらないかもだけど。



「少し席を外すが、無駄口は叩かないように」

「「は、はい…」」


ほらみたことか。余計なこと言うから地雷踏み鳴らすんだぞお前らは。と気遣ってくれた同僚にも俺は心の中で毒を吐く。まあいい性格してるのは自覚済みだ。


部長はデスクから席を外し、書類を持って行ってしまった。

ふと思いついた俺は、部長の後を追った。




「清水部長」

「…なんだ、朝比奈」


部長は同じフロアの倉庫から書類を探しているところだった。部長はまさか俺がここに来ると思っていなかったのか、目を丸くして驚いていた。

珍しく素直な反応に、俺は少し鼓動が早くなる気がした。

むくむくと好奇心が育ってゆく。

ガチャリ、後手に簡易的に鍵をかける。

わざとらしく音を立てて鍵を閉めれば、部長は訝しげに俺をみた。


「どうした、朝比奈。なんだ」

「部長…昨日の夜、俺何かしましたか」

「……どういう意味だ?」

「…わかってるでしょう。明らかに態度変わったじゃないですか」


じりじりと倉庫の棚の端に部長を追いやる。

少し焦ったような顔がもっとみたくて、もっといじめたくなる。俺ってこんな性癖だったのかな、新発見だ、とどこか冷静な俺が考える。

部長が俺を押しやってここから逃れようとするが、腕をとっさに掴んだ。


「部長が…抜いてくれるんでしょ?」

「は?」

「朝…言いました。朝だけじゃなく、この前あなたを抱いたときにまた今度、って…ね?」

「…っ、なっ」


腕を引き寄せて、吐息まじりにわざとらしく耳元で話すと分かりやすく部長は動揺したようだった。

うん、いいなぁ、その顔。


「部長、たまらないです。俺のこと、嫌いでもいいから、抜いてくれません?あ、ちなみに今は朝みたく勃ってないんで、部長が勃たせてくださいね?得意でしょ?」

「き、貴様…調子に乗るな…っ」

「すみません、後で殴っていいですから」


なぜそんなふうに言ったのか、でも目の前の人に俺を見てもらいたくて、わざと煽るように言い放ち、俺は彼の渇いた唇に口付けた。

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俺の清水部長が可愛くて仕方ない @mochikov

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