第9話
今日は清水部長と2人っきりで飲む予定だったのに…なぜこんなことになってるんだ。
「雅己ちゃん、いつも眉間にシワあるでしょ、もっとふにゃ〜って顔してたらいいのにさ〜入社した時から気を引き締めないとっていつも言っててね」
「…へーそうなんですね〜」
「上原………お前…朝比奈、聞かなくていいからな」
聞いてもないのにペラペラと清水部長の過去話を聞かせてくれるのだ。いや、まあ、照れる部長可愛すぎるんだけど、俺には知らないことがほとんどで…というか厳しすぎる部長と、エロい部長くらいしかわからない俺の貧困なイメージでは上原部長には敵わない。
「それでさ〜新人の時に社員旅行があって」
「上原!!」
「え、なんですかそれ」
「あれ?知らない??伝説の社員旅行なんて言われてね〜」
急に声を張り上げた清水部長に俺は驚いた。見るとこれまでにないほど眉間にシワが寄っている。その顔は耳まで真っ赤だ。しかし上原部長の言う伝説…っていうのが気になりすぎる。
「写真あるよ〜ん」
「見せてください」
「朝比奈!!なにを言ってる!上原いい加減に」
俺は即答だった。だってこんなに焦ってる清水部長見たことない。今の今まで上原部長が正直邪魔だったが、この嫌がり方はなにかおかしい。
素早く上原部長がスマホの画面を見せてくれた。
その画面には眼鏡をかけた黒髪ロングの女性と、茶髪のパーマでロングヘアの女性が写っていた。
「え、ふたりともすげぇ美人…レベル高……黒髪の人特に綺麗ですね…顔立ち好みかも…誰ですか」
「…あ、朝比奈…」
「んふふ〜朝比奈ちゃんお目がたかーい!なんとなんと?これは俺と雅己ちゃんなのでーす!」
「馬鹿!上原!!」
「へ」
上原部長の言葉に、俺は画面を二度見し、2人と画面の中の美女を見比べた。
え?ええ??
よくよく見ると目鼻立ちが2人に似ているし、上原部長の垂れ目と黒子の位置も茶髪の女性と同じだ。黒髪ロングの女性は照れたように画面を見ているが、この眼鏡をかけた彼女は、清水部長に似ている…
驚いて清水部長を見ると俺から目を逸らして耳まで真っ赤にしていた。
「部長…美人ですね…」
「うるさい!!上原お前許さないからな」
「うわ〜こわ!宴会の余興でやったんだけど、もう社員みんなに超絶うけたんだよね〜俺はノリノリだったんだけど、雅己ちゃんが最後まで抵抗しててね。でも当時の部長から有名店のチョコレートもらえるってのと、女子社員にゴリ押しされて、最終的には宴会が盛り上がるなら、っていう社畜精神でオッケーしてくれたんだから惚れちゃうよね〜雅己ちゃんさすが〜」
「チョコレート…」
「朝比奈、今の画像は忘れろ、そのエピソードも上原の嘘っぱちだから忘れろ、記憶から抹消しろ」
「はあ…」
チョコレートに釣られる成人男性…それで女装をする清水部長が普段からは考えられなくて思わず吹き出しそうになった。
いや、実際はにやけて仕方ない。いや、可愛すぎでしょ……
「部長…甘いものお好きなんですね…」
「記憶から抹消しろと言っただろうが!上原余計なこと言うな、お前の恋愛遍歴を社員メールでばら撒いてやるぞ」
「あはは、雅己ちゃんたまにえげつない発想するね!それはまじ勘弁して、ごめんって!」
「ここの料金お前持ちにするからな」
今度部長になにか甘いものでもお土産で渡そうかな、と思い、先程の写真をデータでなんとかもらえないか、と上原部長に掛け合いたいと思う俺なのであった。
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