第8話

上原部長…噂には聞いていたけどめっちゃくちゃ美形だな…清水部長は美人だけれど近寄りがたい雰囲気があるが、彼はその真逆。少し緩くパーマがかった暗めの茶髪がその雰囲気を柔和させており、少し垂れ目の奥二重はそれだけで人を惹きつける。色気もあるし完璧な色男だとわかる。


「上原、お前…」

「あ、この子は?」

「あ、営業部の上原部長ですよね、初めまして、清水部長の部下の朝比奈尊と申します」

「あー!雅己ちゃんの後輩なんだね。どもども、上原優也です。よろしくね、朝比奈ちゃん」

「え」


とりあえず自己紹介をしておくが、いきなりあだ名?のような呼び名で呼ばれた。にっこりと爽やかな王子様然とした笑みを添えて。あー、これ、女の子ならきっとイチコロなんだろうな、と。

「ねーねー、俺も混ぜてよ!久しぶりにみずっちと飲みたいし後輩誘うみずっちなんて超レアじゃん〜超お気に入りなの?この子」

「うるさい、だいたいお前連れはいないのか」

「あ〜いたような、いなかったような?なんかさっきまで知らない子たちに絡まれてたんだけど、まじでうざかったから、あえて俺がえげつない飲み方して下ネタ言ったら引いちゃってさ、王子様みたいだと思ってたのに!とか言ってさ〜。心外だよね、この見た目で中身がこうであれっていうの、押しつけがましくない?まあそれでこうやってみずっちたちと飲めるから感謝しなきゃね〜!ね、朝比奈ちゃんもそう思うよね?」

「へ?は、はあ…」


ここまでノンブレス。

やばい、やばめの陽キャだ…俺もそつなく交友関係は広いつもりだが、なかなか出会ったことのない人種でどうしたらいいのか、呆気に取られる。

店員さんに声をかけて隣の席をくっつけてもらい、あっという間に3人での飲み会が開始された。

てかさっきからみずっち、みずっちって…肩組んで近いんですけど…


「上原、朝比奈を困らせるな」

「うわ!雅己ちゃんさすが〜かっこいいね!よっぽど朝比奈ちゃんのこと気に入ってんだね」

「……まあ、根性のある奴だが、まだまだだ」

「…ぶ、部長…」

ふい、と俺から目をそらして烏龍茶をぐいっと飲む部長。また褒めてくれた。なんだか俺、部長のこと少しずつわかってきたかも。今のはきっと照れているんだ。じわじわと胸が熱くなる。


「雅己ちゃん照れてんの?」

「照れてなどいない」

「へ〜〜雅己ちゃんもそんな顔するんだ、かわいい」

「うるさい黙れ、酒でも飲んでろ」

「え〜なんか冷たくない?いつもはもっと優しいじゃん」

「お前に優しくしてなんの得がある」

「ん〜ないね!」

ゲラゲラと笑う上原部長に清水部長は頭を抱えてため息をついている。俺が完全に置いてけぼりだし二人のイチャイチャを見せつけられて気分が悪い。上原部長はきっと悪い人でないのは分かるのだが、いかんせん俺の機嫌は急降下だ。


「あの、上原部長は清水部長とは同期なんですよね。正直お二人は性格的に合いそうにないと思うんですが、仲良いんですか」


やべ、仮にも他部署の上司に明らかに余計なこと言ったわ、俺。敵意丸出しです、といったような口ぶりだ。


俺の言葉に上原部長、清水部長の二人は目を丸くした。そんな清水部長の表情すら可愛く見える俺はおかしくなったのかもしれない。


「朝比奈ちゃんは、雅己ちゃんのナイト様なんだね〜」

「上原!」

「な、ナイト?なんですかそれ」

「自覚ないならいいや。ほんと面白いね、君!結構結構!」

「あの、俺のこと馬鹿にしてますよね」

「ごめんごめん、からかっちゃ悪いよね。俺、君のこと気に入っちゃった。今更だけど名刺ね、どぞ」

「は、はぁ…ありがとうございます…?」


全くもってこの人の真意がわからないが、その柔和でふにゃりとした笑顔に毒牙を抜かれてしまった。なんだか俺、めちゃダサくないか?なんか、二人が仲良いことに嫉妬してキャンキャン吠えただけのような。

ん?嫉妬?嫉妬って…なにに?


俺と清水部長は2人してこの状況にため息をつくのだった。

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