眠れぬ夜に

江田・K

眠れなくて、眠れない。

 金曜の夜。

 リビングで流れていた金曜ロードショーを見るともなしに見ていた。

 全然ストーリーが頭に入ってこない。

 つまらないわけじゃなくて。

 私の頭にこれ以上なにも詰まらない状態だから。


 母が私に「もう寝なさい」と言った。

「はあい」と返事をする。


 眠れそうな気はしない。


 ベッドに入って目を瞑っても、眠気は全くやってこない。

 それはそうだ。

 


 ――好きな人に告白した夜に、すぐに眠れるわけがない。



 しかも返事は週明けって!

 どんな気持ちで土日を過ごせばいいの。

 誰にも言えない想いと言葉で溺れてしまいそうになる。


 胸が苦しい、なんてことはなく、胃が痛い。

 父さんに胃薬を貰おうかと考えたほど。


 明日も、明後日も、眠れないんだろうなあ。

 月曜の朝、寝不足と胃痛の酷い顔で、告白の返事を聞くことになるのかあ。

 百年の恋も醒めるような酷い顔で彼の前に立つのかあ。

 それはやだなあ。


 言葉と文字に溺れながらでも胃を鷲掴みにされながらでも、眠るしかない。

 と、まさに決意した瞬間。


 ポコン、とスマホに通知。

 LINE。

 彼からだ。


 LINEでお断りだと凹むなあ、と思って片目を閉じながら恐る恐る文面を見る。


「明日遊びに行こう」


 え?


 ポコン。

「少しでも知ってから、答えを出したい」


 はい?


 ポコン。

「時間、ある? 嫌だったら断ってくれていいけど」


 あるけどない。

 服を選ぶ時間も、おめかしする時間も。


 何より睡眠時間が、全然足りない!!!


「なんだよもうー」


 私はベッドでじたばたしながら、


「行く。集合はお昼ごろでいい?」


 と少しでも時間を稼ごうと返信。即既読がつく。嬉しい。


 ポコン、ポコン。

「朝からじゃ駄目?」

「なるべく早く会いたいんだけど」


 そんなの読んだら余計眠れなくなる。

 今は、顔が熱くて、胸が苦しい。


 ああ、もう。とにかく寝よう。早く寝よう。眠れる気は一切しないけれど。

 

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眠れぬ夜に 江田・K @kouda-kei

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