⑯地球……滅亡

 数十分後──魔王真緒は、やっとワスレナ・ミソラがいる地の巨人の場所に到着した。

 真緒は『灰鷹満丸』を介抱するような形で、ゆっくり歩いて推しアニメの垂れ幕が下がった、ビルの前までやってきた。

 気分が悪そうに口元を押さえた、満丸が言った。

「ごめん、真緒くん……回りすぎて酔った」

「ボクの方こそ、ムリさせちゃってごめん……狐狸姫の垂れ幕を見た途端にテンション上がっちゃって……ほら、見てごらん満丸くん。ボクたちが見たかった狐狸姫の垂れ幕だよ」

 まるで名画でも観るように目を輝かせて、アニメ垂れ幕を見上げる二人。


 そんな、二人を見てミソラは頭を掻きながら言った。

「これが、魔王真緒? こんなヤツにリグレットは腑抜けにされたのか?」

 真緒は、相変わらずの、緊張感か無いのほほんとした口調でミソラに訊ねる。

「君、誰?」

「宇宙邪神ワスレナ・ミソラ」

「君がテラ美さんが話していた、はじめまして」

「本当に調子が狂うヤツだな……これから、この星が滅ぶって時に」

「滅ぶの? この星が?」


 真緒は、地面に倒れているビスマスとバラバラになって転がっている。

 オレ・グロイゼと河骨に、この時初めて気づいた。

「ビスマスさん? オレ・グロイゼ? 河骨……さん」


 さらには、地の巨人に握られている暗闇果実の姿を見た。

 握られて少しグッタリとした様子の果実が、真緒を見て言った。

「遅すぎだよ、真緒……今日だけは、現実逃避やめて現状を把握して」


 建物の壁には、傷つき片腕を失って背もたれて座り込んだ、海斗の姿があった。

「よっ、マオマオ……あの宇宙邪神強いぞ。到着して数秒でこの有り様だ……満丸、おまえも戦闘員見習いの本気出せ」

 海斗の言葉に、満丸の表情がキリッと凛々しい表情になる。

 普段とは違う雰囲気で満丸が言った。

「離れていて真緒くん……ボクが一生に一度しか使えない必殺技で、真緒くんを守る」

 丸くなって高速回転をする灰鷹満丸。

「戦闘員長の、とーちゃん直伝!【満丸爆裂球】!」

 炎球となった満丸が、ミソラに突進する。

 広げた手の平をミソラが満丸に向けると、数メートル手前で、それ以上満丸は進めなくなって……爆発して消えた。


「満丸くん!?」

 うなだれて地面に座り込む、魔王真緒の目からアニメを観る時以外では、一度も見せたコトがない涙がこぼれる。

「こんなのイヤだよ……夢だよね、これ夢だよね」

 立ち上がった海斗が、片腕で真緒の胸ぐらをつかんで立たせて言った。 


「これは、夢じゃねぇ! おまえがやりなきゃならない現実なんだよ! 魔王の息子の、おまえが守っていかなきゃならない世界に起こっている現実なんだよ!」


 つかんでいた手を離した海斗が、落ち着いた口調で言った。

「荒船さんから聞いているよ……この世界を引き継いでいかなきゃならない、真緒は圧し潰されそうな重圧プレッシャーに毎日耐えているって……だから、好きな推しアニメに没頭して悲しみや辛さを他人に見せないようにしているって」


 さらに海斗は、話し続ける。

「この世界は、おまえの親父の魔王ダゾさまが、真緒のために作ってくれた世界なんだよ……ヒーローもデュランも、どちらも存在するコトが許された。

大人が本気でヒーローごっことか、巨大ロボットで遊べる世界なんだよ!

おまえは親父さんが作ってくれたこの世界を、守っていかなきゃいけないんだよ!」

 真緒に背を向けた海斗が、両腕が電動工具のミツクリザメ怪人に完全変身する。

 海斗が言った。

「オレだったら、そんな重圧プレッシャー耐えられない……やっぱり、おまえスゴいよ、真緒」

 海斗のサメ体が巨大化する。

「うちの親父から、未熟なおまえは、怪人最後の選択肢の巨大化だけはするなと言われていた禁忌きんきを……今、破る。あばよ、真緒」

 巨大怪人になって、地の巨人と宇宙邪神に向かっていった海斗の体は、地の巨人の空いている方の腕が変形したマグマの剣で貫かれ……怪人の本望、爆発して死んだ。

「海斗ぅぅぅぅぅぅ!」



 次々と死んでいく仲間たち──真緒は唇を噛み締めて、拳を握りしめる。

 そんな真緒を見て、ミソラが冷ややかな口調で言った。

「まだ、本気の怒りを圧し殺すつもりか……それなら、これならどうだ」

 地の巨人の胸部に、牢獄のような空間が現れ。その中に、読書をしている婦人の姿があった。

「母さん!?」

「あら、真緒くん……このホテル、少し熱いコトを除けば快適よ」

 真緒以上にマイペースな真緒の母親だった。

 地の巨人は、胸の空間から真緒の母親を引っ張り出して握り締める。

「ちょっと何を……苦しいです」

 意識を失う母親。ミソラが左右の手に握られている、暗闇果実と真緒の母親を指差して言った。

「好きな方を選べ、おまえが選んだ方を助けてやる」

 残酷な二択だった。

「そんなの選べないよ! 果実と母さんのどっちかを選ぶなんて、ボクにはできない!」

「選ばないと、両方握り潰すぞ」

 真緒の母親と、果実が苦痛に顔を歪める。

 涙を流して絶叫する真緒。

「やめてぇぇぇぇ!」

 横目で崩れた建物の陰を見ていた果実が、何かを理解したようにうなづいてから、不思議な笑みを浮かべながら真緒に言った。

「真緒、お母さんを選びなよ。お母さん、久しぶりに帰ってきたんでしょう」

 ミソラを睨みつける果実。

「おいっ、腐れ邪神! 握り潰すなら、あたしを方を握り潰せ! 真緒、あんたは口出しするな。これは、あたしの決断だ」

「いい覚悟だ」


 地の巨人の手が握っていた母親を放り投げ、果実を握り潰す──果実の体は巨人の拳の中で炎に包まれた。

「果実うぅぅぅ!」


 放り投げられ落下してきた真緒の母親の体は、大ウナギの『インカニヤンバ』や、空中生物の『クリッター』や『サスカッチ』に無傷で助けられた。

 無事な母親の姿を確認して、ミソラを怒りに震えながら睨みつける魔王真緒。


「果実……ごめん助けられなかった、母さんと同時には助けられなかった……好きだ果実」

 真緒の背後で、フランボワーズの声が聞こえてきた。

「バ、バカ……なに恥ずかしい告白しているのよ、こんな時に……残念なイケメンのくせに」

 振り返って二頭身の美少女を見る真緒。

「もしかして、果実? それじゃあ巨人に握り潰されたのは?」

「あたしと、肉体と魂を入れ換えた学園長、この体だと戦えないから、あたしは離脱。学園長はこの世界が何回も再構築されているコトを知っていたから。真緒に託した……あたしが許す激怒しろマオマオ! そして必ず宇宙邪神を倒せ!」

 そう言い残して、気絶して優魔に介抱されている真緒の母親と一緒に二頭身の内面果実は魔王城へと、走り去って行った。


 立ち上がりミソラを怒りの目で睨みつける真緒。

「いい目だ、その目を待っていた」

 その時──突然艦首ドリルを回転させて、地面から飛び出してきた。

 酔っぱらい親父の赤い顔が艦首についた地中戦艦『呑龍』と。

 呑龍に乗った地中海賊『キャプテン・レグホーン』


 艦橋で、ツナギ姿のレグホーンが叫ぶ。

「今こそ地中人の意地を見せる時、地の巨人に風穴開けてやれ! ケチャで士気を高めろ、五人囃子ごにんばやし!」

 地の巨人は、体に突き刺さって回転しているドリルを呑龍ごと引き抜くと、パイルドライバーの要領で呑龍を地面に逆さに突き刺した。

 ドリルが地面に垂直に刺さった呑龍は、そのまま地中に潜っていき、地面の下で爆発炎上した。


 地面に開いた地中戦艦の穴から、立ち上る黒煙を見ながらミソラが言った。

「とんだ邪魔が入ったな……怒りが冷めたか魔王真緒、それならこれならどうだ」

 ミソラが手を横に動かすと、閃光王女狐狸姫の垂れ幕が真っ二つになった。


 真緒の両目から炎が噴き出して怒りに燃える。

「うおぉぉぉぉぉぉ! よくも、よくもぅぅ狐狸姫をぉ!」

 真緒の頭に後ろに伸びるヤギ角が生え、竜の尻尾が生える。

 全身から地獄の業火が噴き出して、真緒の姿が巨大な火炎竜に変貌した。恒星に匹敵する惑星を呑み込む業火。

 無限に巨大化していく火炎竜から繋がる、様々な種類の竜〔龍〕やドラゴンが炎の形で現れる。


 日本のヤマタノオロチ。

 インドのナーガ。

 イランのアジ・ダカーハ。

 トルコのイルルヤンカシュ。

 ヨーロッパのヴィーヴル。

 イタリアのギーブル。

 イギリスのスマウグ。

 北欧のニーズヘッダ。

 南米のケツァルコアトルなどなど、数えきれないほどの竜が炎となって世界を呑み込んでいく光景の中で、ワスレナ・ミソラの楽しげな笑い声が響く。

「これだよ、退屈していたオレが見たかった光景は! 最高だよ! 魔王真緒、あははははははっ」

 そして、炎の巨大な竜となった真緒は、裏地球に巻きつき。巨大な口を広げて星を呑み込み……消滅させた。

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