⑮マオマオの苦悩

 そらの巨人と対決していたのは、暁のビネガロンと姉の緑嬢ライムだった。

 ライムの肩に立ち、ホチキスの針のような金属ハシゴを片手でつかんだ、ロボット使いのデスミントが電磁ムチを振って宙巨人をムチ打つ。

 ライムに攻撃指示を出す、デスミント。

「伸ばしたハンマーアームで巨人を連続強打」

「はい! デスミントさん」

 ライムの伸ばしたハンマーアームが、横殴りに巨人をぶっ叩く。

 倒された巨人に向かって、ビネガロンが呼び寄せた妖刀ビル風を振り下ろす。

 妖刀ビル風は、宙の巨人の体に弾かれて刀身が真っ二つに折れた。

「なんて固い体をしてやがる」


 フワッと空中に浮かび上がった宙の巨人から、超重力波がビネガロンとライムに浴びせられる。

「ぐわぁぁぁぁぁぁ!」

「きゃあぁぁぁぁぁ!」

 地面に片ヒザをつく、とんがり帽子のドリル頭で、強固なカプセルタンク胴体の緑嬢ライム。


(こんな超重力を、生身で浴びせられたら……)

 ライムは肩にいる、デスミントこと、斧石ピンクに視線を移して気遣う。

「大丈夫ですか?」

 ライムの肩にデスミントの姿はなく、血が付着しているだけだった。

 視線を地面に移すと、そこには変わり果てた斧石ピンクの姿があった。


 大地がクレーター状に陥没する。

 ビネガロンの首が胴体に半分めり込み、宙の巨人から変形して伸びてきた平らな蛇帯状の腕が、合体ロボット・ビネガロンを強制分離させる。

「や、やめろう! うわぁぁぁぁぁぁ!」

 三機のビネマシンにもどされた、ビネガロンの機体が超重力波で押し潰され、暁のビネガロンは沈黙した。


 ライムの体に重力波の影響で亀裂が入りはじめた時──咆哮が聞こえた。

「オレ、グロイゼェェェ!」

 オレ・グロイゼから発射された、ワイヤーが繋がる鋭い爪手が宙の巨人の首を切断して、宙の巨人の体は発生したブラックホールのような空間に吸い込まれて消える。


 宙の巨人が黒い空間に吸い込まれて消える時、広がった空間は、緑嬢ライムの上半身もえぐるように吸収して……消滅した。

 機械友・緑嬢ライムは、曲断面から内部メカを露出したまま……機能停止した。



 片ヒザ座りをした天の巨人の青賀エルに切断された翼が、再生して元にもどりはじめていた。

 まだ、アンバランスな大きさで飛び立つには、まだ少し時間を必用とした。

 天の巨人の近くには、切断されたシアンとラッコ美の体が転がる。

 瓦礫だらけの道を歩いてきた、作業服姿の男性──怪獣ブリーダーの『紫獣』が、亡くなった怪獣を見て呟く。

「安らかに眠ってくれ……天の巨人は、おまえたちに代わってオレが始末する」

 サングラスを外す紫獣。

「本来の姿にもどったら、二度と人間の姿にはもどれないがな……人の姿での生活は楽しかったな、真緒さまお元気で」

 紫獣の背中が開き、虫の脚のようなモノが出てきた。

 虫の脚に続いて不定形な紫色をしたアメーバか、白血球のような生物が脱皮をするように現れた。

 虫の脚を生やした、不定形な宇宙生物『画皮』が、天の巨人を包み込むように襲いかかる。

 包まれて捕食される、天の巨人……画皮は、巨人を消化しながら自らの体も自己捕食していった。



 ある場所では、怪人ヒーローの『モリブテン』と、カプセル怪人第一号の『オレンジ・ペコ』が、謎のウサギ耳少女と戦っていた。

 きねを振り下ろす少女が、モリブテンに恨みをぶちまける。

「なんで、異空間に捨てた! なんで放置した! ずっと寂しかったんだぞ!」

 バニーガール姿のカプセル怪人……本来は第ニ号怪人になるはずだった『ロゼ』が振るう杵が当たった物体がモチのように軟質化する。

 ロゼに詫び続ける、モリブテン。

「すまなかった! うっかり四次元空間にカプセルごと、投げてしまってすまなかった」


 残るは地の巨人一体──ビルの壁に吊られた『閃光王女狐狸姫』の垂れ幕が見える遠方、崩れた建物の壁に背もたれて、仮眠をしていた『銀鮫海斗』は目が覚めた。

 近くに立って背中からコウモリの羽を出して、腕組みをして垂れ幕を眺めていた『暗闇果実』が海斗に言った。

「体力回復した?」

 果実は、背中コウモリ羽と腕コウモリ羽の二種類を、状況で使い分けるコトができる。

 シュモクザメ〔ハンマーヘッドシャーク〕の頭に変わった海斗が、返答する。

 海斗は、様々なサメの特徴を持ったサメ怪人に変化できる。

「あぁ、悪かったな……やっと夢の中に現れていた、シャドー・リザードマンが出てこなくなって、ぐっすり眠れた」

 海斗が、遠方に見える。狐狸姫の垂れ幕にタメ息を漏らす。

「あれは、虫が引き寄せられるように。真緒を誘き寄せるキャンプの炎だよな……敵は真緒の弱点を知っている」


 海斗は果実と一緒に、地の巨人がいる地点に向かう途中に、シャドー・リザードマンとの続く戦いに疲れ仮眠休憩した。

 眠りの中でも覚めた現実でも、シャドー・リザードマンは存在していた。

「あの、ウジャウジャいた黒いのはどうした?」

「数十分前に急に消えた」

「そうか、悪夢のシャドー・リザードマンも急に出てこなくなって、安眠できた……なぁ、果実ひとつ聞いてもいいか?」

「なに?」

「おまえ前にチラッと『また、真緒が地球作った』って漏らしたの聞いたけれど……アレ、どういう意味だ?」

 少し考えてから果実が答える。

「その質問、何回もしているよ……どうせ、話しても海斗は忘れちゃうだろうけれど」

 果実は、自分たちが住んでいる裏地球が何度も魔王真緒の、しょーもない理由の気まぐれで壊され。

 そのたびに、再構築されて再生されていると伝えた。

「このコトに気づいているのは一部の裏地球住人だけ。ラグナ六区学園の『フランボワーズ』学園長も、その一人」

「あいつ、そんなとんでもないコトやっていたのか」

 海斗は、片手を電動ノコギリに変化させると、地の巨人が立っている方向を見て言った。

「とにかく、真緒を護衛する怪人衆として、あの巨人と宇宙邪神はなんとかしないとな……行くぞ」

 海斗の言葉に、暗闇果実は背中のコウモリ羽を羽ばたかせて、空中に浮かび上がった。

 この時、海斗と果実のやり取りを物陰から見ていた、フードマントで顔隠した二頭身の大正時代の女学生姿をした学園長『フランボワーズ』がいた。

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