⑬マオマオへの撒き餌
地の巨人の近くで、半壊で残る建物の屋上に立つ、ミソラとリグレット。
ミソラが言った。
「立派な移動ホテルができた……さて、どうやって魔王真緒を、この地の巨人の元に呼び寄せるかな……ん? これは?」
ミソラは、建物の側面の壁に公開するために、屋上に巻かれて置かれていた新作映画の垂れ幕に気づく。
横十メートルを越える巨大な宣伝垂れ幕で、隕石落下当日に壁に吊り下げる予定で、準備されていたモノらしい。
ミソラは、吊り下げる垂れ幕の内容が書かれた、プラスチックの連絡板を見る。
「こりゃいい、この垂れ幕を魔王真緒を誘き寄せる餌に利用させてもらおう……この大きさなら、遠方からも見えるからな」
ミソラは、真緒の母親が親しげに話していた。魔王真緒が一番好きなモノが描かれた垂れ幕を、縛っていたロープを手刀で切断する。
勢いよくビルの壁に広がった垂れ幕には、『閃光王女狐狸姫』の新作劇場版アニメ映画の告知が、イラスト付きで描かれていた。
「さあ、早く来い! 魔王真緒!」
【天龍空彦たちが戦っていた倒壊した病院】──黒い球体の中から女性の声が響く。
「邪眼厄災! ビック金ダライ!」
巨大な金ダライが、空から落下してきて黒い球体を粉砕する。
中から片目をつむり、全身切り傷だらけの、百々目一色が現れた。
閉じた方の目も刃物で切られている。
一色は離れた場所で蠢いている、宇宙植物を見て呟く。
「助けないと……真緒さまをお助けしないと」
瓦礫につまずき、倒れそうになった一色の体を、横から支えてくれた人物がいた。
「無理しないで、傷ついた体を休めるのも大事だぞ」
懐かしい声……百々目一色は自分の体を横から支えてくれた、バックパッカーの顔を見て、思わず涙が溢れる。
「あぁあぁ……魔王さま、お帰りなさい」
そこには、真緒の父親で水牛の角を生やしたバックパッカー姿の『魔王・ダゾ』が微笑んでいた。
魔王の背後には、ショッキング・バパの妻のショッキング・ママとパワー・グリンの飼い主が立っている。
黒い宇宙植物に視線を移して魔王が言った。
「いつも、息子の真緒を見守ってくれてありがとう……迷惑をかけたな」
「迷惑だなんてそんな、真緒さまは見た目よりも、しっかりとしたお方です」
「そうか、後はわたしに任せて休んでくれ……さてと、久しぶりに、魔王ダゾとしての役目を果たすか」
そう呟いた魔王は、竜の首を蠢かしている宇宙植物に向かって歩きはじめた。
別々の場所に出現した
四体の巨人を横一列に並んで、睨みつけている巨大ロボットと怪獣がいた。
巨大ロボット五体。
『暁のビネガロン』
『紺碧のテイルレス』
『緑嬢ライム』
『
『オレ・グロイゼ&河骨』
怪獣二体。
『ウツボギラス・シアン』
『ラッコゴン・マゼンタのラッコ美』
ビネガロンが言った。
「派手に出てきやがったな、四体の巨人か」
テイルレスが言った。
「コ・コアの仇を討つ」
緑嬢ライムが肩に乗っている、デスミントに言った。
「スカルオカンさんの、残された子供たちのためにも、この戦い負けられません」
ラッコゴンのラッコ美が言った。
「怪獣天国から見守っていてください、黒井キングさん、白銀クィーンさん」
白骨機体が吠える。
「オレ! グロイゼェェェェ!」
ビネガロンに搭乗している女性パイロットの『
「山吹と新橋博士の仇討ちをしないと……はぁはぁはぁ、男同士であんなコトや、こんなコトを……はぁはぁ」
BL同人誌好きの東雲は、恐怖に打ち勝つためにBL妄想を続けていた。
ビネガロンに搭乗している男性パイロットの『国防』は、また一時的に悪いクセが出て操縦席で騒ぎまくっていた。
「出せぇ! この狭い空間から出せぇ! ボルトがナットが笑っている、オレに迫ってくる! うわあぁぁぁぁっ!」
恐怖の臨界点を越えた、国防の姿が赤いシャドー・リザードマンに変貌する。
ビネガロンは無言で、操縦席の扉を自動で開けると、国防が変化した赤いシャドー・リザードマンを指でつまんで引っ張り出すと……遠くに放り投げた。
ビネガロンの行動に驚いた声を発する東雲。
「うわっ、国防! ビネガロンあんた、なんてコトを! ひっ!」
東雲の操縦席の扉も自動で開き、ビネガロンに指でつままれた東雲は外に放り出された。
ビネガロンが言った。
「自立型人工知能ロボットに、搭乗者は単なる飾り……パイロットは邪魔なんだよ、行くぞみんな!」
横一列に、巨人に向かって進む巨大ロボットと怪獣たち。
並び歩むテイルレスが、横にいるオイルを目から流しているビネガロンに言った。
「素直にパイロットを、危険な目に合わせたくないって言えばいいのに」
「うるせぇ」
「目からオイルの涙が垂れているよ」
「これは、涙じゃねぇ心の汗だ!」
学ラン姿の、ビスマスが内部回線で、こっそり操縦席にいる『茶釜団十郎』と会話する。
「息子さんに挨拶しなくて良かったんですか?」
アロハシャツ姿で腹巻きを巻いた、ラフな格好をした団十郎が答える。
「ああっ、もう何年も会っていないからな……別に挨拶する必要もない……それに」
団十郎は、苦笑いをしながら言った。
「あいつは、母方の名字を名のっているからな……オレが名付けた名前が、よほど気に入らないんだろうよ」
「お子さんに、どんな名前を付けたんですか?」
「ポチだ……『茶釜ポチ』……『国防ポチ』、子供の名前を決める時に女房と大喧嘩をしてな、それ以来別居生活だ……オレは、ポチかコロに決めていたのに、女房はショコラとかフワを主張していた、男にショコラとかフワなんて変だろう」
「そ……そうですね」
ビスマスは内心。
(そんな、名前を付けられた、ビネガロンのパイロットに同情する)
そう思った。
巨大ロボットと怪獣たちは、それぞれが対戦を決めていた巨人に向かって分散した。
【真緒の母親とミソラが会話した丘】──春髷市全体を見渡せる丘にいる『色即のリグレット』は四体の巨人を同時操作していた。
主人であるミソラの命令に逆らうコトはできずに、悲しみの中で巨人を遠隔操作していた。
操作と言っても、リグレットは巨人が動けるようにパワーを送っているだけで、実質巨人の行動を操っているのはミソラだった──リグレットは巨人の原動力になる、乾電池みたいな役割だった。
一体に集中してパワーを送ると、残りの三体は弱体化した。
開いた手の片腕を巨人たちに向けてパワーを送り続けている、首から下がヒューマノイド体のリグレットの近くの地面に。
空中から発射されたワイヤーが繋がった
ドローンを装着した、メイド服の瑠璃子が空から降りてきて、リグレットの前でホバーリングする。
リグレットを見て瑠璃子が言った。
「あなたは、いつも城にお花を届けてくれる……どうして、こんな所に? 高エネルギー反応はあなた?」
瑠璃子は、リグレットの腹部に組み込まれたクリアーパーツの中に、四つの宝珠があるコトに気づき、直感的にリグレットにヒップを向ける。
「理由はさっぱり、わからないけれど。あの巨人たちと関連しているのは間違いなさそうね……このままにはしておけない、あたしの一発で眠れ」
瑠璃子の屁は、種類によってドーム型の爆発屁になったり、キノコ雲が昇る屁になったり、霧状に漂う屁になったりする。
フサ尾を持ち上げた瑠璃子の、ヒップから放屁がリグレットに向かって発射される。
ヒューマノイドのリグレットは、人間ではないので瑠璃子の必殺屁は効かない。
反対に、リグレットの意思に関係なく自己防衛回路が作動して、リグレットの両目から瑠璃子のヒップに向かって発射されたレーザー光線が、瑠璃子の体を貫き……光線で串刺しにされた瑠璃子は絶命した。
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