滅亡の宴

⑫滅亡の宴・第二幕

【避難シェルター前の小広間】──若者姿の勇者メッキと、石柱を抱えたバイオレット・フィズがシャドー・リザードマンを相手に戦っていた。

 メッキが振る、モーニングスター【苦ヨモギ】に触れたシャドー・リザードマンが塵と化して消えていく、

 メッキが銀色に輝く、苦ヨモギを眺めて呟く。

「こいつぁ、すげぇ武器だな……一撃で倍以上の敵を倒せる……こりゃいい」

 石柱でシャドー・リザードマンを押し潰している、バイオレット・フィズが言った。

「まさか、クソ勇者のあんたと、こんな形で一緒に戦う日が来るなんてね……想像もしていなかった」

「クソだけ余計だ」


 避難シェルターの隅では、マンドラゴラ村長の鉢植えを抱えた、青賀エルが消沈した顔で体育座りをしていた。

 エルは何気なく、植えられている村長をヒョイと引き抜いてみる。

 頭から下の切断面から、小さな毛根体が生えているだけだった。

 顔を赤らめた村長が言った。

「こら、引き抜くな、まだ早い」

 エルは、村長を元の鉢にもどす。

 村長がエルに問う。

「おまえは、どうしたい? 天使なら成すべきコト、今やらなければならないコトは、わかっているはずじゃろうが」

 村長の鉢植えを床に置いた、鎖ビキニアーマーの天使・青賀エルは、立ち上がるとシェルターの出入り口へと向かった。



【魔王城の室内キャンプ部屋】──桜菓の召喚に応じて、毛皮付きのブーツを履いた女の白い足が召喚扉の中から現れ。声が聞こえてきた。

「突然、書斎に現れた扉を開けたら、奇妙な場所に来てしまった……ペン」

 現れたのは雪の結晶の飾りが付いた、錫杖しゃくじょうを持った上品そうな女性だった。

 異世界の女性は、部屋の中を見回すと、少し思案してから言った。


「わたしが今までに書籍で得てきた知識を参考に、この状況を分析すると……わたしの力を必要とする別世界の者が異世界召喚のようなモノを行い、わたしが元の世界に帰るためには。

魔女皇女の力を必要とする事柄を、解決しなければならないというコトですかペン」


 変な語尾をつけてしゃべる、やたらと理解力が高い魔女皇女が目前の魔法円の中にいる桜菓に質問する。

「あなたが召喚者ですかペン……で、わたしは何をすればいいのでペン」

「まずは、群れになっているシャドー・リザードマンを倒す手伝いを少しして欲しい……この部屋に結界を張るために……召喚した本題はそれから」

「シャドー・リザードマン?」

 桜菓は、金城ミノスと飴姫が戦っている、シャドー・リザードマンを指差した。

「あの黒いヤツ、赤いのは人間が変化したモノだから、傷つけちゃダメ」

「了解ペン」


 魔女皇女が持っている錫杖から、冷気が放出されピンポイントで赤いシャドー・リザードマンだけを凍らせる。

 魔女皇女が、頭に鳥が巣を作ったミノスと飴姫に言った。

「そこのミイラを振り回している人と、幽霊の人……離れてこっちに来て欲しいペン。その位置にいると超振動波の巻き添えを食うペン」


 ミノスと飴姫が言われた通りに、飛び下がると魔女皇女は錫杖から高周波振動をシャドー・リザードマンに向けて発射した。

 塵になって拡散していく黒いシャドー・リザードマン……赤いリザードマンは、氷が砕けると人間の姿にもどってその場に倒れた。

「これでいいペンか、召喚した本題は?」

「この装置が動くように直してもらいたい」

 桜菓は、防衛障壁シールド発生装置の、エネルギー供給回路が破損した箇所にバツ印が引かれた設計図を見せた。

「この機械がある場所への移動が、少し大変だけれど」


 受け取った設計図のコピーを見ていた、魔女皇女が言った。

「これなら、この部屋からの遠隔でもなんとかなるペン」

 そう言うと魔女皇女は、錫杖の下部を抜いて室内キャンプ室の地面に突き刺す。

 突き刺した錫杖の一部から、枝のようなアンテナが出てきた。


「これを、中継器にして破損した供給回路を、応急措置で繋げたペン……応急措置だから、十五時間が限度だペン」

「それだけ時間があれば十分……ありがとう、スゴい魔法だね」

「これは、超科学だペン……帰る道が開いたみたいだペン」

「お礼に、この部屋にある好きなモノを持っていっていいよ」

「それじゃあ……あそこに転がっている」

 魔女皇女はテントの中にあった、ロボットの玩具を拾い上げる。

「この人形をもらうペン、あっ! この人形、変形するペン。スゴい技術だペン……今、構想を練っている移動式書庫のアイデアに使えそうだペン」

 そう言い残して異世界の魔女皇女は、去っていった。



【春髷市・ハルマゲの地】──市内を見下ろす少し小高い丘に立った、ワスレナ・ミソラと色即のリグレットは、巨大な黒い多頭竜の首のような枝を伸ばして大地に根を張っている宇宙植物と、その周辺の破壊された建造物を眺めていた。

 ミソラが呟く。

「いい具合に仕上がってきた……そろそろ、四凶巨人を出現させて。宴の第二幕をはじめるか」

 そんなミソラに背後から、おっとりとした口調で話しかけてきた人物がいた。

「あのぅ……すいません、これはどんな状況なのか説明してもらえませんか?」 

 ミソラとリグレットが振り返ると、そこに白いツバ広の帽子をかぶり、車輪付きの旅行カバンを引いた女性が立っていた。

 いきなり、背後に現れた女性の顔を凝視していたリグレットは、驚きで口元を両手で押さえる。

 女性は、未確認生物を魔王城の優魔の森で保護をするために、一年を通して世界中を飛び回っている。

 魔王真緒の母親だった。真緒の母親が、のほほんとした笑顔でミソラに訊ねる。

「息子の真緒が、誕生日パーティーを開いてくれるというので、少し早めに帰ってましたのに……魔王城への道はどこも通行止めで、どこか休憩や宿泊するホテルは近くにありませんかしら?」

 にっこりと、微笑みながらミソラが真緒の母親に言った。

「泊まるホテルなら、すぐに作ってあげられますよ」


 小一時間後──リグレットの元素固定能力が、四大宝珠のパワーを使って四凶の巨人を生み出した。


 海面が盛りあがり、水で作られたような『海の巨人』が、海中から上体を持ち上げる。

 渦巻く水の口が洞窟のような海の巨人の体内には、クラゲとアンモナイトを合成させたような古代生物が泳いでいた。


 大地が盛りあがり、岩石とマグマで出来たような、燃える目の『地の巨人』が立つ。


 雲が集結して誕生した、鳥頭の白い『天の巨人』が翼を羽ばたかせる。


 そして最後に、横長の楕円形頭で、銀色をした体の一部が割れていて、宇宙空間が覗く『そらの巨人』が、空飛ぶ円盤のように頭を回転させて、ゆっくりと地上に降りてきた。


 別々の場所に現れた巨人たち、黒い宇宙植物、シャドー・リザードマンの群れ。

 恐怖の臨界点を越えてしまい、赤いシャドー・リザードマンに突然変貌する人々。

 滅亡の宴、第二幕がはじまった。

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