⑪異世界よりの臨時の助っ人

【廃棄地下鉄路線ネズミ天国の研究室】──地下にある研究所分室で、天才ハムスター王女の『鉛谷ズ子』は、タブレット端末で地上の様子を見ていた。

 廃棄車両を利用した研究所には、ズ子の他にケットシーの貧相王子『フレッシュ三世』と、座席に座って海外新聞を読んでいる、黒猫ケットシーで前衛芸術家の『白夜』がいた。

 ズ子が地上の悲惨な状況を、タブレットのニュースを見ながら呟く。

「ここに居れば安全でチュ……地上は危険でチュ、わざわざ地上にいるヤツはパカでチュ」

 なぜか、この廃棄された路線区域には、宇宙植物も根を張らず。

 シャドー・リザードマンも現れなかった。


「どうやら、宇宙植物とシャドー・リザードマンが苦手な物質がここにはあるみたいでチュね……地下鉄の壁や天井に塗られた何かでチュか?」

 ズ子はチラッと、車両の中に置いてある。瑠璃子の体型に合わせた調整が終わった【装着型ドローン】を見る。

 魔王城のメイド長『瑠璃子』から頼まれて製作して、細かい要望を受けていたモノだった。


「試作飛行で体に装着した瑠璃子が要望した、細かい調整も終わったでチュ……ワイヤー発射装置付きのもりなんて何に使うつもりでチュか? 飛びながら魚でも獲るつもりでチュか?」


 ズ子は、瑠璃子からの追加要望をわざわざ伝えに来た、ヒトデ型の青い悪魔のコトを考えていた。

(もしかしたら、亜区野組織は早い段階で隕石の接近を知っていたんでチュか? それで、悪魔インディゴに逃げる口実を与えるために、瑠璃子は悪魔に口頭の使いを?)


 少し考えていたズ子が言った。

「安全なこの場所から、危険な地上に出るなんてアポがやるコトでチュ……でも、偉大なズ子さまの発明が活躍できないのも、くやしいでチュね」

 意を決したズ子が、フレッシュ三世に言った。

「フレッシュ、装着式ドローンを瑠璃子に届けるでチュ」

 うなづいた、フレッシュが特殊なネコ缶を食べて、マッチョ筋肉ネコに変わる。

 

 ズ子が指笛を鳴らすと、ネズミの心を移植された人間の男女数名が現れ、ドローンを分解して背負った。


 白夜も、戦闘正装に着替える。羽根飾りが付いたツバ広の帽子、革の手袋と革のブーツ、腰の剣帯には細いレイピア剣が吊られている。

 革のブーツを履いたネコになった、白夜が言った。

「このスタイルになるのも久しぶりだにゃ」



魔王城マオーガの室内キャンプ部屋】──魔王城の少し奥にある室内キャンプ部屋で、魔女『桜菓』は床に描いた魔法円の中央に立ち。

 開いた両開き扉の向こう側に向かって。

 竜の首隕石落下の衝撃で破損して停止したシールド発生装置一基を再稼動させられる、適材な者を呼び寄せる召喚の儀式を行っていた。

 開いた扉の向こう側には、数種類の色が前衛アートのように渦巻く不思議な空間があった。

 

 魔王城の数基ある防衛障壁シールド発生装置一基の、エネルギー供給回路が破損しているために。

 城の無防備な箇所から宇宙植物の地下根とシャドー・リザードマンが侵入してきていた。

 桜菓の、額に貼られた無限中華呪符が、処術の風で少しめくれる。

(魔王城をシールドで守るのに、適材な人材が最低一人は必要)


『暗闇果実』『銀鮫海斗』は市内で無事が確認された、真緒と満丸の元へ向かっている。


 城の避難シェルター内には、片腕に包帯を巻かれた『青潮シャコ』や、優魔の森から鉢植えに植えられたマンドラゴラ村長の鉢を抱えて、意気消沈の顔で体育座りをしている『青賀エル』の姿があった。


 召喚術中の桜菓を、サポートして守っているのが、地中に埋もれているモノならなんでも引き抜いて、剣に変えられる能力を持つ『金城ミノス』と。

 真緒の学校の女子更衣室に住む、巨乳女武者幽霊の『飴姫』と船幽霊たち。


 避難シェルターの方には、若い勇者メッキと怪人ヒーロー『モリブデン』のカプセル怪人二号『ヴァイオレット・フィズ』が、シャドー・リザードマンと戦っていた。


 城の中庭では、執事でナゲナワグモ怪人の『荒船・ガーネット』と、メイド長でオナラ怪人の『瑠璃子』が、侵入してくる宇宙植物の根やシャドー・リザードマンを蹴散らしていた。


 桜菓は、さまざまな異世界に召喚術のネットワークを広げて、その世界にいる召喚術を使える者との連携で、必要な能力の助っ人に来てもらおうとしていた。

 処術中の魔法円から移動するコトができない桜菓が、チラッと横目で部屋の隅に置いてある、室内キャンプ道具を見る。

 テントの中には、暁のビネガロンの玩具が無造作に転がっていた。

(キャンプで、なんであんなモノが?)


 頭に鳥が巣を作りヒナ鳥が鳴いている金城ミノスは、折れた大根剣を捨てると。一部がキャンプ用の土床になっている床に半分埋めてあった。包帯グルグル巻きのミイラの首を引き抜く。

 ミイラの体の中から金属の剣刃が現れる。

「まあまあの剣ね、頭を持って振り回すのは面倒だけれど」

 ミノスが振り回すミイラ剣が次々と、シャドー・リザードマンを切り裂き、黒い塵に変えていく。


 胴鎧と肩当てと腰当てを装着した、飴姫は竹槍でシャドー・リザードマンを退けている。

 生前は『三国一の槍姫』と称された飴姫だった。

 斜めに切った竹槍の中には、小さなかぐや姫が入っていて、飴姫が竹槍で敵を突くのと同時に手にしたミニチュア槍で「えいっ! やぁ!」と同時に突いていた。

 船幽霊たちも底が抜けた柄杓ひしゃくで、シャドー・リザードマンをポコポコと叩いている。


 召喚扉のランダムな渦巻き模様が、真ん中に集まり渦を巻きはじめる。

 桜菓が言った。

「来た! 異世界から助っ人が」

 扉の向こう側から、冷気が流れ込んできた。



【魔王城中庭】──怪人姿になった、荒船・ガーネットは十文字槍でシャドー・リザードマンを倒し、瑠璃子はメイド姿のままでケモ耳と尻尾だけゾリラ怪人の部分獣化した姿で、やや控えめなオナラをシャドー・リザードマンに浴びせていた。

 十文字槍を振り回す荒船が言った。

「これでは、キリがありませんな」

 中庭に、ズ子たちの集団が飛び込んできた、

「瑠璃子、要望通りに改良を加えた装着型ドローンを持ってきたでチュ」

 ズ子は、高速で分解して運んできたドローンを組み立てる。

「ぶっつけ本番で、装着して空飛ぶでチュ。あのワイヤー銛はなんのため……」

 ズ子が言い終わる前に、横から飛んできた宇宙植物の毛根がズ子に激突して、小さな体をふっ飛ばす……両目を見開いたまま、地面に落ちたズ子は……即死していた。

 突然、死んだズ子の姿に泣きながら咆哮する、フレッシュ三世。

「うおぉぉぉぉぉぉ!」

 マッチョな筋肉体で、ズ子を殺した毛根に突進する。

 毛根に一撃を与える前に、特殊ネコ缶の効力が切れて貧相な体にもどったフレッシュの首に毛根が巻きつき、フレッシュの首を締め付ける。

「ぐはっ!」

 口から泡が吹き出して、首の関節が折れる嫌な音が聞こえた。

 ネコ王子フレッシュ三世の首は、信じられない方向に曲がった。


 怒りに燃える白夜が、剣と鋼鉄のネコ爪で、シャドー・リザードマンや根を切り裂く。

「よくも、ネコ王子とネズミ王女を!」

 その時、中庭に必殺技の声が聞こえた。

「マリンスノー! ガラクティカ!」

 シャコの左手のパンチを受けて、粉砕されるシャドー・リザードマン。

 

 海水で満たされたクリアーな球体カプセルをかぶり、背中に海水ボンベを背負った青潮シャコが、片腕を三角巾で吊られた状態で左手のグローブを誇示しながら。

 荒船と瑠璃子に言った。

「ここは、あたしたちに任せて早くダーリンのところに行って、力になってあげて……こんなヤツら片手だけで十分」

 ケットシーの白夜も目で二人に行くように促すと、尻尾をベキッベキッと二分割して、ネコマタ化する。


 瑠璃子は、ドローンを装着して空中に浮かび。

 荒船は、クモ糸を飛ばして……二人は真緒の元に向かった。

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