⑩それぞれの想い、それぞれの思惑、それぞれの最後

 朱蘭が、チョ・コレートと死闘をしていたのと同時刻──別の場所では、宇宙邪神に金銭で雇われた者たちと、この世界を守ろうとする者たちの戦いが行われていた。

 負傷者が収容された病院の前で、この世界を守る意思がある者たち『百々目一色』と『天龍空彦』が。カネで雇われた『戦慄戦隊・ジャアクマン』と交戦していた。


 百々目一色の邪眼が降らせた金ダライと一斗缶が、大食漢のジャアク・コックローチと。ドラキュラ姿のジャアク・モスキートの頭に金属の激突音を響かせる。

「邪眼! 厄災! 金ダライ&一斗缶……ついでに、こむら返り」

「ぎゃあぁ!」

 頭に一斗缶がぶつかった、モスキートとコックローチは筋肉がつった足を押さえて転がり、もがき苦しむ。


 迷彩姿のジャアクマン・マダニが大地に放った『ネジ巻き式コショウ爆弾』の群れが、チックタックと歩いてくるのを。空彦がエアー能力で作り出した、エアー四製獣の青龍・朱雀・白虎・玄武が粉砕する。

 自分の前に涙目で両腕を広げた、エアー彼女を出現させた空彦が言った。

「妹の未完が治療を受けている病院の敷地には、一歩も入れさせねぇ!」


『天龍未完』は、アニメのアフレコ中に竜の首が落下時の衝撃で破損して飛んできた。ラスの破片で負傷して、野戦病院のように並べられたベット部屋で治療を受けていた。


 未完が治療を受けている病院には『水浅木音恩』も、集中治療室のベットで酸素吸入をされていた。


 小柄な忍者姿で分身をはじめたジャアク・コバエが、毒々しい蛾の羽を背中から出して静観を続けている、ニューハーフのジャアク・ドクガに言った。

「おまえも戦え」

 女顔のドクガが、アクビをする。

「ふぁ~っ、なんか、やる気でないなぁ……もう少ししたら、戦う」

「勝手にしろ」

 増殖するコバエ。

 苦戦する空彦のエアー四聖獣。

 その時──金属車輪がきしむ音が聞こえ、同時に咆哮も聞こえた。

「オレ! グロイゼェェェェ!」

「あ″あ″あ″あ″あ″あ″あ″」

 腰から下を自走メカの『河骨こうぼね』と合体した。

 ジャアクマンの専用巨大ロボット、白骨機体『オレ・グロイゼ』だった。


 オレグロイゼの外見は、とても正義のロボットとは思えない外見をしていた。

 一角が生えたユニコーン頭蓋骨の頭、ヘビのように動く長い骨首、鋭い爪が生えた地面まで届く腕、長いワニ骨尻尾、肋骨胴体の中にはコードやパイプが丸見えで真黒な球体のコア操縦席【ハラ・グロイゼ】がある。

 腕や肋骨胴にも血管のようなパイプが巻きつき、足部は河骨と合体しているので今は確認できないが、戦車のような無限軌道と虫の足が複合したような形になっている。


 河骨の方も走行してくれば、その姿に幼児が泣き叫ぶ不気味な妖怪機体の外見をしていて。

 ガシャドクロの頭にオトロシの長髪、車輪は白骨化した輪入道で、おぼろ車の胴体をしていた。


 マダニがオレ・グロイゼを見て言った。

「来たか、オレ・グロイゼ! 河骨! さあ、邪魔なアイツらを蹴散らせ!」

 それまで静観を続けていたドクガが、蛾羽を羽ばたかせて一色たちの方へ近づくと、クルッと方向転換してジャアクマンの方を向いて言った。

「こっちにおいで、オレ・グロイゼ……河骨」

 白骨機体たちも、一色の方へ移動してクルッと向きを変える。


 それを見て怒鳴る、コックローチ。

「裏切ったな!」

 鼻で笑うドクガ。

「最初から、金銭で邪神に従うコトが気に入らなかっただけだ……悪いが今回は、敵対させてもらう。昨日の仲間は今日の敵、昨日の敵は今日の友……オレ・グロイゼやっちゃって」

「オレ! グロイゼェェェェ!」

 オレ・グロイゼの長い腕で払いなぎ飛ばされた、害虫たちはどこかにふっ飛んでいった。


 唖然とドクガの仲間への裏切り行為を見ていた、空彦の呟く声が聞こえた。

「やっぱり、人間は醜い……嫌いだ」

 そんな中、よろめきながら病院に向かって歩いてくる、女子高校生の姿が空彦の目に留まる。片足を負傷していて半壊した建物の壁を伝わり歩いてくる女子高校生の姿に負傷した妹の姿を重ねて、思わずエアー獣に飛び乗って駆け寄る天龍空彦。

「大丈夫か?」

 空彦に抱えられ、介抱されている人間の女子高校生は目に涙を浮かべながら、空彦の顔を恐怖に満ちた表情で震え見る。

「お母さんが……お母さんが家の下敷きに……あぁぁぁ、怖い、怖い、怖い、女の子が突然爆発して……あぁぁぁぁぁっ」

 女子高校生は、ミソラが爆死させた、白玉栗夢の現場に居合わせた女子生徒だった。

 ミソラが記憶操作をして一時的に封印していた、栗夢が爆発する悪夢のシーンが、母親が家の下敷きになった悲劇と重なって再生される。


「ひっ、怖いぃぃ! あぁぁぁぁぁぁぁ!」

 絶叫して体を痙攣させる女子高校生に、異変を感じた一色が叫ぶ。

「その子、なんか変? 離れて!」


 直後に、恐怖心の臨界点を越えた女子高校生の肉体が、精神から崩壊して。

 夢の領域で増殖していた黒いシャドー・リザードマンと、感応した少女の肉体が変貌する。

「…………!?」

 赤いシャドー・リザードマンに変わってしまった少女に頭部を、喰い千切られた天龍空彦は……絶命した。


 空彦が絶命したのと同時に、地中から出現した宇宙植物【ヘキサゴン・デミウルゴス】の黒い根が、竜の尻尾のようにうごめき。

 数珠関節の三脚生物、黒いシャドー・リザードマンが次々と根から出現する。


 一色が邪眼攻撃をするより早く、シャドー・リザードマンたちは、百々目一色を取り囲むように集結して、百々目一色を球体状に包み込む。

「えっ? なにこれ? 邪眼厄……ぎゃあぁ!」

 暗闇の球体内部で、光る一色の邪眼百目は、シャドー・リザードマンが持つ刀剣で次々と潰され……闇の中、百々目一色は邪眼を潰され続けた。


 宇宙植物の根が生き物のように地上で蠢く、ジャアク・ドクガがオレ・グロイゼと河骨に言った。

「ここは、あたしに任せて逃げなさい。あなたちの力を必要としている人は必ずいるから、早く逃げて!」

 痺れ鱗粉でシャドー・リザードマンを食い止めるドクガ、オレ・グロイゼたちが無事に逃げたのを確認して自分も、この場から離れようとしたドクガの手足に絡みつく、宇宙植物の根。


 手足をXの字に広げられ、空中に吊られたドクガの背中側から根の突端がドクガの体を貫く。

「うぐッ……ぐぇ」

 はりつけに吊られたドクガの体から力が失われ……ジャアク・ドクガは死亡した。


 ドクガの体を貫いた宇宙植物の根は、そのまま音恩と未完が収容されている病院施設を、ドクガの体ごと叩きつけて破壊した。

 全壊した病院の瓦礫がれきに埋もれて……水浅木音恩と天龍未完は……死んだ。



【地中国】──地下にも竜の首隕石落下の被害は及んでいた。

 地中海賊『キャブテン・レグホーン』は、壊れた建物を横目に『京紫の君』を探して、地中の都を走り回っていた。


 隕石の衝撃後に、三層の岩盤障壁が地中国の天井を覆い、宇宙植物の地下根の本格侵入を防いでいる。

(辛うじて、寸断された地下根が一本だけ、地下街に落下しただけで済んでいるが……岩盤障壁もいつまで、持つやら)


 寸断されて落下した、短い根から、今は少数で弱いシャドー・リザードマンが現れ。

 碁盤の目のような都の通りを、うろついているシャドー・リザードマンを、地中の都を護衛する役人が道に掘った落とし穴にシャドー・リザードマンを落として埋めて、退治をしていた。


 レグホーンは隕石落下前に「スッポンドンが心配だから見てくるのじゃ」と言い残して、地中を泳いで移動していった京紫が居るはずのエリアへと足早に向かう。


 京紫がいるはずの地下エリアは、天井に生じた亀裂から高温の熱エネルギーが侵入して、全体が焼け焦げた酷い有り様になっていた。

 そんな中、レグホーンは乾いた泥人形のようになって、しゃがみ死んでいる黄色い地中怪獣『スッポンドン』を発見する。

「京紫の君は? 姫っ! いたら返事をしてください! キャブテン・レグホーンです」

 泥人形化したスッポンドンの中から、子供の手が突き破って出てきた。

 そして、京紫の君が姿を現す。

「無事でしたか、姫」

 京紫の君は、いきなりレグホーンに抱きついて泣き出した。

「スッポンドンが、わらわを体の中に入れて助けてくれたのじゃ……でも、スッポンドンは、スッポンドンは……うわぁぁぁ」

 キャブテーン・レグホーンはこの時、他意の無い、純粋な慰める気持ちで幼い京紫の君の体を抱き締めた。

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