⑧そして宇宙の宝珠……色即のリグレット覚醒

【春髷市】雷太がテント生活をしている公園──魔王真緒は、満丸玉を転がしてテラ美がいるテントまでやって来た。

 満丸は、回転に酔って公園のトイレでリバース真っ最中だった。

 テントに入った真緒は、体を奇妙なシミに侵食されて横たわるテラ美を見た。

 真緒が言った。

「救急車呼ぼうか?」

「病院に行ってもムダなのはわかっているから……それよりも伝えたいコトがあるから、近くに来て」

 上体を起こしたテラ美が、近寄ってきた真緒に言った。


「今、この春髷市には宇宙邪神『ワスレナ・ミソラ』が侵入して大変なコトが起こっている」

「宇宙邪神? 神さまなの?」

「かなり全能の邪悪な神、善神でも悪神でも神さまは、神さま……人間にも善人と悪人がいるから、それと同じ……話しを元にもどすよ、全能と言ってもワスレナ・ミソラにも出来ないコトがある……【創造神じゃないから、星に命を生み出すコトはできない】生き物を殺戮さつりくする能力にはミソラは特化しているけれど」

 テラ美はさらに邪神は【時間は操れないコト】と【世界の再構築は出来ないコト】を真緒に伝えた。


「臓器に手を加えて、別の臓器を作り出す能力はあるみたいだけれど……それは、生物を作り出しているワケじゃない。記憶も臓器に蓄積されているモノだから、少人数を短期間の記憶操作くらいならできるみたいだけれど……うッ」

 テラ美の体のシミが広がる。苦しそうな表情をする蒼窮テラ美。

「もう時間がない、マオマオくんにはミソラにはない【世界を再構築できる】力がある……その力が、邪神に対抗できる唯一の力……もう少し近くに来て、そうそこに立って」


 テラ美が真緒を回す。

 真緒の体がコマのように、クルクルと回転する。はしゃぐマオマオ。

「わーい、回る回る♪」

「マオマオくん、裏地球に回される……なーんてね、何回もぶっ壊されて再構築された、お返し」

「気づいていたの?」

「当たり前じゃない、裏地球の子だもん。何回もぶち壊されるたびにムッとしたけれどね……こうして、再構築してくれて……なぜか人格が芽生えて……擬人化して会話ができるようになって楽しかった……マオマオくん、ミソラに負けないで。マオマオくんが倒されたら、あたしも復活できないから……うッうッ」

 テラ美の首筋に、宇宙模様のシミが現れ広がっていく。

「ついに、そらの宝珠までも奪われた……破滅の四大巨人が現れる、マオマオくん」


 テラ美は、いきなりマオマオにキスをした。

 セカンドキスに、キョトンとする魔王真緒。

「テラ美……さん?」

「惑星サイズの勝利のおまじない、大丈夫また会えるよ……信じているからね、マオマオくんが裏地球を再構築してくれるコトを……それまで、さようなら」

 蒼窮テラ美の体は、光りの粒子になって拡散して消えた。



【春髷市の河原にある小さな児童公園】──テラ美が光りになって消滅する少し前、児童公園の遊具で遊んでいる柿茸螺魅らみは、ワスレナ・ミソラと遭遇していた。

 遊具で遊んでいる螺魅にミソラが、再度質問する。

「もう一度聞く、【宙の宝珠】を素直に渡す気はないか?」

「渡さないよ……友だちもできたから、渡したら大変なコトになるから」

 少し高い遊具の上から螺魅が、ミソラに質問する。

「どうして、宇宙植物竜のお父さんを殺したの?」

「邪神の従属の立場を忘れて、逆らったから」

「そっか……じゃあ、なおさら渡せない」

 遊具から降りた螺魅の足元から、キノコやカビの胞子のようなモノが生える。


 急速成長した巨大なキノコやカビの胞子をバックに、螺魅は前髪から覗いている片目でミソラを睨みつけて言った。

「なんか、この星……今は滅ぼす気にならないから守るよ」

「父親と同様に、邪神に逆らうか」

 ミソラの指先が軽く動く、螺魅の体に数ヵ所の切り傷が生じる。

 ミソラが言った。

「次は胴体を真っ二つにして、宝珠を取り出す」


 螺魅とミソラが対峙している場に──四つ足走行してきた雷太が、葦の茂みの中から現れた。

「なんだぁ、河を渡って近道したら変な場面に遭遇しちまったな」

 雷太が背負っていた、自作で『コンダラ』と命名した重い棍棒を構えながらミソラに言った。

「見かけねぇヤツだな……可愛い女の子を襲っているように見えるから、きっと、悪いヤツにちがいねぇ」

 可愛いと言われた、螺魅の前髪が跳ね上がり、両目が露出した顔がほんのり桜色に染まる。


 腰に巻いていた草木の腰ミノが河で流され、大きな葉っぱを股間に貼っただけの雷太に、ミソラが質問する。

「一応、名前だけは聞いておこう……裸族男、名前は?」

「聞いて驚け、見て驚け! オレの名前は『灼熱雷太』いずれは、父親の跡を継いで、悪の大首領になる熱い男だぁ!」

「知らない名前だな、そんなに熱い男なら心臓のビートを高めてやろう」

 ミソラが雷太に広げた手の平を向ける、途端に、雷太の心臓は狂ったように高速で鼓動を刻みはじめた。

 ガクッガクッと全身が小刻みに震える雷太、激しい動悸、頭の中が真っ白になる。

「おっおっおっ!? おがぁぉぁ!」

 雷太の心臓は悲鳴をあげながら、数十年分の鼓動を一気に刻む。

 雷太の心臓を操るミソラが呟く。

「丈夫な心臓だ……なかなか壊れないな、こうなったら止まるまで動かしてみるか」

 雷太の毛穴から血が汗のように流れ、灼熱雷太は仰向けに倒れて……絶命した。


 雷太が倒れたのを見て驚いている螺魅の腹部に、突き刺さるミソラの手刀。

 苦痛に顔を歪める螺魅、腹部から血は流れない。

「ぐッ!」

 ミソラが突き刺した手を引き抜くと、その手にはそらの宝珠が握られていた。

 腹部に穴を開けられた、柿茸螺魅はうつ伏せで倒れ……息絶えた。

 ミソラの手の上に、宙の宝珠・天の宝珠・海の宝珠・地の宝珠が周回を描いて浮かぶ。

「これで、四つの宝珠が揃った。あとは相棒の『色即のリグレット』を宝珠で覚醒させるだけだ……破滅の宴がはじまる」



【夢平原】──夢太郎たちは、大地から次々と沸き上がってくる、不気味な黒いモノと戦っていた。

 それは、影のように真っ黒で赤い目が光る、リザードマンとかげ男だった。

 ただ、普通のリザードマンとは異なり、下半身は三本脚の数珠玉関節になっていて、自在の方向に曲がる足だった。

 シャドー・リザードマンの武器も、剣から火器とさまざまだった。

 背中の羊毛をカブトムシの羽のように広げて、低空飛行でシャドー・リザードマンを粉砕しているブラック・サンが愚痴を漏らす。

「倒しても倒してもキリがねぇ! いったいコイツらなんなんだ?」


 変化させた巨大な鬼の手と、天狗の葉ウチワで、シャドー・リザードマンを粉砕している鬼天河血姫きてんがわちひめにも疲労が現れていた。


 両手をX字に組んで、なぎ払うように夢の光線でシャドー・リザードマンを次々と消滅させている、夢太郎もじりじりと後退している。


 自棄やけになったブラック・サンが空中で分身する。

「こうなったら、分身して一気にカタをつける!」

 数百匹、数千匹、数万匹に、分身を繰り返して向かっていくブラック・サン。

 本体のブラック・サンが砲撃で爆発すると、誘爆で次々と分身した、ブラック・サンが爆発していく。

 最後の一匹が爆発して地面に落ちたところで、ブラック・サンの体は早戻しするように誘爆前の状況にもどった。


「こうなったら、分身して一気にカタをつける!」──それは夢の住人が、もっとも怖れる死、リピート夢の死だった。

 夢を見ている人間なら、繰り返される多重夢も目覚めれば終わる……だが、夢世界の住人は、永遠の死を繰り返す。

 原因となった、シャドー・リザードマンが消滅しない限り。

 夢太郎が叫ぶ。

「撤退だ! 夢霧谷の向こうに撤退だ!」

 撤退の途中、鬼天河血姫は、背後から鋭角な数本の投げ槍で体を貫かれ。リピート夢の死に陥った。

「やだぁ、こんな死はいやだぁ! 誰か助けて!」

 何度もリピートされる、夢死の恐怖に血姫は囚われた。

「やだぁ、こんな死はいやだぁ! 誰か助けて!」



【春髷市の花屋の店先】──鉢植えの花に霧吹きで水を吹きかけている、リグレットにワスレナ・ミソラが近づく。

「やあ、リグレット久しぶりだね」

 ミソラの顔を見た途端に、小さな悲鳴を発して逃げ出そうとするリグレット。

「ひっ!」

 リグレットの手首をつかむミソラ。

「なぜ逃げる、主人がわざわざ来てやったのに……魔王真緒から何をされた? どうして、こんなに腑抜けになった……二人で数々の星を滅ぼしてきたのに」


 リグレットの額をわしづかみにした、ミソラは目を閉じてリグレットの記憶を探る。

「オレは四つの宝珠を、リグレットに渡して。この星の滅亡と、邪魔な存在の魔王真緒の抹殺を命じたはずだ……

なるほど、魔王真緒と接触して人の心が目覚めたか……平和な生き方を求めて、宝珠をそれぞれの場所に放って隠したと……くだらない」


 ミソラの手の上に四つの宝珠が現れて周回する。

 首を幾度も横に振って拒絶を示す、色即のリグレット。

「覚醒して本来のヒューマノイドの心を取り戻せ! 色即のリグレット!」

 ミソラは嫌がるリグレットの胸部に、四つの宝珠を埋め込んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る