⑥天の宝珠・地の宝珠
地上で鉄塔に登って春髷市を眺めていた、裏地球の子『
「海の宝珠が奪われた……このままだと、あたし……消える」
【魔王城・優魔の森】──村の畑で、しゃがんで農作業をしていた。地上に降りた天使『青賀エル』のところに、全長三メートルを越える巨大陸ガメが、ノソノソとラグナ六区学園の双子の女子生徒を口にくわえて運んできた。
巨大陸ガメは、ぐったりとした双子姉妹を、エルの近くに置く。
鎖ビキニアーマー姿のエルは、お尻の丘に付着していた土を手で払って立ち上がると、巨大
陸ガメが運んできたモノを眺める。
「これ、人間の体を借りて地上に降りた天使じゃないの? 長期間は借りた人間の肉体に負担がかかるから、地上に留まるコトはムリだけれど…肉体に入っている天使は『ニゲカエル』と『ウロタエル』?」
意識を取りもどしたニゲカエルとウロタエルは、エルに宝珠を渡そうと握った手を伸ばす。
「大神さまからの伝言です、天の宝珠を青賀エルに渡すように……天界はもうダメです……ガクッ」
「大神さまは、青賀エルに宝珠を守るか、敵に奪われそうなら宝珠を破壊するように言われて……ガクッ」
肉体を借りている双子女子高校生が読んでいるマンガの影響で、ニゲカエルとウロタエルの言葉には擬音が入る。
宝珠を受け取ったエルが、ニゲカエルとウロタエルに訊ねた。
「何事も控え目なヒカエルは? 気前が良すぎるワケアタエルは? 考えすぎて行動できないカンガエル、甘ったれのアマエル、何でも目についたモノを持って帰るモチカエルはどうなったの? そもそも天界を襲ったのは誰?」
「大神さまや天使や女神さまたちは……」
ニゲカエルとウロタエルが答えようとした、その時──畑に落雷して、ワスレナ・ミソラが現れた。
ニゲカエルとウロタエルの魂は、落雷のショックで完全消滅した。
古代陸ガメは、仰向けにひっくり返って甲羅を下に感電死していた。
瞬時に極彩色の翼と飾り尾羽を突出させて、空中に逃れた青賀エルは、村の共同畑近くにある顔面巨石の上に着地する。
ミソラがエルに言った。
「天の宝珠をよこせ」
エルと肉体を共有している肉食カエルの本能が、ミソラに対して危険を察知してエルの両足は、無意識に恐怖で震えていた。
カエルのような姿勢になった青賀エルは、天の宝珠をミソラの方に放り投げると。
「ゲコッ、ゲコッ」鳴きながら、カエル跳びで逃げて行った。
歩いて畑に落ちた天の宝珠をミソラが拾い上げると。
土の中に潜んでいた優魔の『マンドラゴラ村長』が地中から勢いよく飛び出して、持っていた杖でミソラの足をつつきながら言った。
「不届き者が! 村の共同畑から出ていけ! おまえが歩いて踏みつけたのは【人面米】の苗だぞ! もう少しで、苗が地面から自力で抜けて、水田に移動を開始する時期じゃたのに!」
【人面スマイル米】──米粒ひとつ、ひとつにアニメ的な笑い顔が模様として浮かぶ優魔森のブランド米。食べた人はハッピーな気分になれる。
マンドラゴラ村長は、ミソラの足を続けて杖で叩く。
「このバチ当たりがぁ!」
ミソラは、村長を空中へと蹴りあげる。村長の体は空中で調理で下ごしらえされた野菜のように等分に切断されて、地面で急速乾燥して……ドライ・マンドラゴラに変わった村長は動かなくなった。
畑の隅で怯えている、楕円形のウォーターメロンのような縦長頭に、丸い目が二つ付いただけの細い手足で。
ストローハットとオーバーオールの農作業優魔のドーバーデーモン家族を横目に、天の宝珠を手にしたミソラは跳躍して姿を消した。
【春髷市内】──壁伝いに住宅街を歩いていた、蒼窮テラ美は苦しそうに転倒する。
テラ美は青空と白い雲のようなシミが浮かび出てきた手の平を眺める。
テラ美の脇腹には、透き通る青い海のようなシミも現れ、広がりつつあった。
青空シミには渡り鳥の群れが、海洋シミには魚群が見えた。
「早く、マオマオくんに会って伝えないと……あたしの体が完全に宇宙邪神に汚される前に……伝えておかないと」
壁に寄りかかったテラ美は、公園内にある『灼熱雷太』のテントを発見して、体を休めるために向かった。
散らかったテント中でテラ美が休んでいると、上半身裸で腰に草木のミノを巻いた、原始人のような灼熱雷太が猟から帰ってきて。
テントの中で横たわっているテラ美を見て驚く。
「うわっ! ビックリした! 演劇部部長の蒼窮テラ美か……こんなところで何している?」
「ちょっと、休憩している」
「そうか、大丈夫か? 体に変なタトゥーみたいなモノが現れているぞ」
「気にしないで」
「じゃあ気にしない……オレはメシを喰うから」
テントの外で、テラ美に背を向けた雷太は、原始人のように火を起こすと、棒に刺した生ハムの塊を火で炙りはじめた。
焼いた生ハムにかぶりついている雷太にテラ美が言った。
「あなた、ますますワケがわからない存在になってきたわね……頼みたいコトがあるんだけれど、もう一歩も動けそうにないから、ココにマオマオくんを探して連れてきてくれない?」
「オレも、マオマオも携帯電話持っていないけれど?」
「君なら野生の本能で探し出せる!」
「そうだったのか!? オレには野生の本能があるのか!」
焼き生ハムを食べ終わった雷太は、自作の棍棒を背負うと。
地面に鼻を近づけて匂いを嗅いでから。
動物のように四足走行で走っていった。
雷太の姿が見えなくなると、苦しそうな表情でテラ美は太モモに浮かびはじめた、溶岩のヒビ割れシミを触りながら呟いた。
「早くマオマオくんを連れてきて……地の宝珠にも宇宙邪神が」
【春髷市の空き地】──地中人のミミズ帝から、娘の京紫の帰りが遅いから地上に出て、様子を見てきてくれと言われた『キャプテン・レグホーン』は、地上でいつも京紫の君が遊んでいる空き地で、倒れている京紫と、その近くでホワイトサーベルタイガーの冷凍怪人化して泣きじゃくっている『黄昏冷奈』の姿を発見した。
京紫と冷奈から、少し離れた場所に老人姿の『勇者メッキ』が白目で棒を握って倒れていた。
レグホーンは、京紫を介抱しながら冷奈に何があったのか訊ねる。
たくましい大人体型の怪人化した、冷奈は嗚咽を漏らしながら答える。
「ぐすっ、京紫ちゃんと遊んでいたら、いきなり怖いお兄さんが現れて……京紫ちゃんの首に掛かっていた宝珠を奪って」
レグホーンは、いつも京紫の君の首に掛かっていた地の宝珠が、無くなっているコトに気づく。
京紫の君を介抱して抱えているレグホーンの隣には、黒豚妖怪の『ムイティチゴロ』がレグホーンと同じポーズをとっていた。
冷奈が続けて言った。
「あたしも、怪人化して京紫ちゃんを守ろうとしたけれど、怖くて動けなくなって」
「あの、勇者の老人はどうしたんだ?」
「なんだか、わからないけれど通りかかって……京紫ちゃんの宝珠を奪ったお兄ちゃんに、木の棒で向かっていったら睨まれただけで……死んじゃった」
「ショック死か? いずれにしても、おいたわしや京紫の君……せめて、お別れの
タコのように口をすぼめて、顔を近づけてきたレグホーンに、パチッと両目を開けた京紫の君は、痛烈な平手打ちをレグホーンの頬にして怒鳴った。
「死んではおらぬ! 仮眠していただけじゃ! キモい顔を近づけるでない!」
京紫は、冷奈に言った。
「地上は危険じゃ、わらわたちと一緒に地下に避難するのじゃ」
黄昏冷奈が、うなづき地中人と冷奈が地中に姿を消すと。
しばらくして、一つ目ヒトデの悪魔『インディゴ』が現れて、倒れているメッキの近くに立った。
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