②異変は少しづつ……日常の片隅から
回想から現実にもどってきた、斧石ピンクが職員室でミニクラゲのフリッターを口に運んでいると。
職員室のドアが勢いよく開いて、双子の女子生徒が飛び込んできて言った。
「この中に『青賀エル』はいませんか?」
沈黙する職員室、最初に口を開いたのは、斧石ピンクだった。
「青賀エルなら、魔王城内の優魔森にいるはずだけれど」
「魔王城? それどこにあるんですか?」
双子の一人は、落ち着きがなく。
もう一人は、気弱そうでオドオドしている。
魔王城【マオーガ】の場所をピンクから聞いた、双子は頭を下げると背中から白い翼を出して急ぎ足で去っていった。
廊下から双子の声が聞こえてきた。
「早く、青賀エルを見つけて〝天の宝珠〟を渡さないと。天界の神殿を襲った宇宙邪神もすぐに地上に来る……急いで、ウロタエル」
「待ってよう、ニゲカエル」
斧石ピンクは、焼きウニの具を箸の先でほじくり出しながら。
「人間の肉体を借りて、地上に降りてきた天界の天使か」
と、呟いた。
天界──数十分前まで荘厳な建造物だった神殿は、見るも無惨な残骸に変わっていた。
柱は鋭利な刃物で斜めに切断されたようにズレ、神殿の屋根は傾いている。
天界の雲の大地に立つ、宇宙邪神ワスレナ・ミソラはアホ毛のようなアンテナ髪を動かしながら言った。
「すでに、天の宝珠は地上に移動したか……まぁいい、奪う順番は前後しても。最終的にオレの手元にくれば」
ミソラの頭上には
磔にされている天使に混じって、大神や女神の姿も確認できた。
ミソラが指を鳴らすと、連なった爆竹花火のように天使や神が次々と弾けて黒い
雲の端まで歩いてきたミソラは、下界を見下ろして言った。
「やっぱり、金欲で動く人間の従属者も少しは必要だな……同じ人間に絶望を与える人間同士の潰し合いは、見ていて面白いから」
ミソラが下界を指差すと、海岸沿いの道を走っていた現金輸送車の、前方にブラックホールのような空間が現れ。
現金輸送車はそのまま
漆黒の闇の中へ疾走して消えた。
雲の端から下界に降りようと、していたミソラは、ふっと思い出す。
「そう言えば『極神狂介によろしくと伝えてくれ』って頼まれていたな……
ワスレナ・ミソラは雲から飛び降りて地上へと落下していった。
そして、その日──世界各国の銀行から、大量の紙幣が忽然と消えた。
春髷市【緋色軒】──
極神狂介と、パートナーの緋色はヒマしていた。
椅子に座って、だらけている狂介が言った。
「ヒマだな」
雑誌を読んでいる、緋色が答える。
「ヒマだね」
「今日は珍しく、お客来ないな」
「来ないね」
その時、店の入り口から宇宙邪神、ワスレナ・ミソラが入ってきた。
笑顔で椅子から立ち上がる緋色。
「いらっしゃいませ」
店内を見回しながらミソラが言った。
「ドリャーから、狂介って人に伝えてもらいたいコトがあるから、来たんだけれど」
残念そうな表情の、極神狂介が言った。
「なんだ、客じゃねぇのか……ドリャーからの伝言ってなんだい?」
「その前に、あなたが本当に極神狂介かどうか確認したいんだけれど……この店を教えてくれたダンゴムシ怪人の人も、極神狂介は頭を叩いてみればわかるって言ってあたから……ちょっと、叩かせて」
「勝手に叩きな、それで気が済むなら……まったく、どいつもこいつもオレの頭はスイカじゃねぇぞ」
ミソラは軽く狂介の頭を手で叩く……そう、軽く叩いたようにしか見えなかった。
ミソラに叩かれた狂介の頭は、衝撃で頭蓋骨が砕け
ミソラの顔や体が飛び散った血の飛沫で汚れる、頭を失った狂介の胴体がドッと前のめりに、椅子から倒れる。
「狂介!? ひッ!」
悲鳴を発して、咄嗟に太モモのガンホルスターから、宇宙銃を引き抜き。ミソラに銃口を向ける銀河探偵助手。
ミソラの目に捕らえられた緋色の宇宙銃を持つ手が、関節に関係なくグニュと緋色の方に曲がる。
「ひッ!?」
緋色の指は、緋色の意思に関係なく銃のトリガーを引いた。
閃光が緋色の顔面を吹き飛ばし、膝から崩れる形で血まみれの緋色の体は床に倒れる。
数分前までの日常は、一瞬で惨状に変わった。
しゃがみ込んだミソラが、首が無くなった狂介に話しかける。
「極神狂介に間違いないようだね……ドリャーからの伝言『狂介によろしく』……もしもーし、聞こえていますかぁ」
ミソラは飛び散った、狂介の脳を広い集めると、粘土でもこねるように形成をはじめた。
「どうせだから、再利用して有効活用させてもらうよ」
狂介の脳をお花畑のようなミニ脳に変えた、宇宙邪神はヘキサゴン・デミウルゴスの、ミニチュアサイズの種子のようなモノをお花畑脳に埋め込む……ドクン、ドクンと鼓動を刻みはじめたミニ脳を、厨房のホコリがつもった棚の奥に隠したミソラが呟く。
「この星に夢は必要ないね……夢の世界でも〝シャドー・リザードマン〟の悪夢を見せてあげるよ……寝ても覚めても、シャドー・リザードマンに怯えるんだ……さてと、次は何をやったらいいのかな」
ミソラは緋色軒を出ると、その足でダンゴムシ怪人から聞いた『色即のリグレット』探しに向かった。
緋色軒から少し離れた薄暗い、路地裏ではみたらし団子の甘いタレがかかった、ダンゴムシ怪人のバラバラになった遺体が黒アリにたかられていた。
ラグナ六区商店街外れ──一軒の花屋の店先で、性別不明の人物が注文があった観葉植物の植木鉢を、ライトバンの後部に乗せていた。
腰までの長髪で、スラックスを穿いた女性にも、男性にも見える不思議な人物──『色即のリグレット』が、ライトバンに配達する生花を積んでいるとジョギングスタイルで走ってきた。
ラグナ六区学園の生徒、今は人間形態のナメクジ怪人、東名ナメ子が足踏みをしながら店の前に止まって、リグレットに話しかけてきた。
「こんにちは、リグレットさん……これから配達?」
うなづく、リグレット。
「そう頑張ってね」
口から炎と溶解液を、呼吸を整えるように軽く吐いてから。
走り去っていくナメ子に、手を振るリグレットは。
〔今日は学校、午前中だけ?〕と、心の中でナメ子に問いかけた。
数分後──花屋からさほど離れていない、曲がり角の建物の壁に背もたれ座るような格好で、炭化してチロチロと炎がくすぶって死亡している。
東名ナメ子の遺体があった。
ナメ子の遺体が近くには、狂介の血で汚れたミソラが立って、炭になったナメ子の遺体を見下ろしていた。
「いきなり、姿を見るなり火を吐いてくるんだからビックリしちゃったよ……あっ、この血だらけの姿がいけなかったのか」
ミソラが、手で撫でた血痕が消える。
「これで、OK……さてと、リグレットの姿だけ確認するかな」
炭化したナメ子の遺体をまたいで、曲がり角から花屋の方を見たミソラは、走り去るライトバンを運転するリグレットの後姿だけを見た。
呟くミソラ。
「すっかり、
日常の片隅から異変は確実に、進行していた。
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