①宇宙邪神……襲来

 蒼い裏地球を望む宇宙空間──小惑星の上に立った宇宙邪神『ワスレナ・ミソラ』は、裏地球へ赴く準備運動をはじめた。

 上体をひねっているミソラに、宇宙植物竜『ドリャー』が言った。

「行くのかい」

「うんっ、滅ぼしてくる……惑星も生物も全部」

「そうか……裏地球へ行ったら、狂介によろしく伝えてくれ」

 両腕を回しながらミソラが聞き返す。

「顔知らないけれど……見分けるにはどうしたらいい?」

「頭を軽く叩いてみて、スカスカの音がしたら、それが狂介だ」

「わかった」

 屈伸運動をしている、邪神ミソラにドリャーが訊ねる。


「娘の螺魅からも、宝珠を奪うつもりか?」

「そのつもりだけれど……螺魅が人類を滅ぼさなかったから、オレが行って星を滅ぼしてくる」

「螺魅を殺すつもりか?」

「場合によってはね……手荒なコトも辞さない」

 ドリャーの目が赤く輝く、大きく旋回してミソラの前方に出る。

「させない……娘には手出しをさせない」

 準備運動の終わったミソラが、微笑しながらドリャーに言った。

「宇宙邪神の従属のクセに、オレに意見するの? 植物に勘違いの父性愛が目覚めたの?」

 友好な関係のように見えた、ドリャーとミソラの立場は対等では無かった。

 気まぐれな宇宙邪神が、フレンドリーな態度を楽しんで接しているだけだった。

 口を開けて宇宙邪神に襲いかかるドリャー、微笑むミソラの指が少しだけ動いた瞬間に、ドリャーの首は寸断された。

 宇宙空間に浮かぶ竜の

首に向かってミソラが言った。

「植物竜だから、再生するね」

 ミソラは、ドリャーの切断面に腕を突っ込んで、黒いラグビーボール状の物体を引っ張り出す。

「宇宙植物『ヘキサゴン・デミウルゴス』の種子もらうよ……裏地球を壊すのに必要だから」

 ミソラが、指先で軽くドリャーの首を押すと、宇宙植物竜の首はゆっくりと裏地球に向かって、慣性移動する。

「オレより、遅れて裏地球に落下してね。こっちにも時間の余裕が必要だから」

 立っていた小惑星を蹴って宇宙空間に飛び出した、ワスレナ・ミソラはドリャーの首を追い越して裏地球へ向かった。

 


 春髷市ラグナ六区にある、とある喫茶店──

「ん~ん、美味しい。コチ異世界の焼き菓子もいいけれど。この世界のケーキも最高ね」

 テラス席でお茶している、怪人ヒーロー『モリブデン』の第二カプセル怪人の『ヴァイオレット・フィズ』は、甘いケーキに舌鼓を打っていた。

 フィズと向かい合った席には、魔女『桜菓』が座り、額に貼られた中華の呪符を持ち上げて煎茶をすする。

 フィズがテラスのウッドデッキに置いた、鉄骨を足先でツンツンしながら桜菓がフィズに質問する。

「カプセル怪人って、そんなに自由なのか?」

「うん、モリブデンさん、レザリムス異世界のコチの世界との往復認めてくれているし……カプセル空間の中、意外と広い部屋が用意されているし……こうして、自由に春髷市で桜菓とお茶もできる」

「そんなに待遇が良かったら。あたしもカプセル怪人になろうかな」

 手を横に振るフィズ。

「今は空きカプセルないよ。この間『月白』って言う地中怪人が入ったから……ずいぶん前には、もう一体『ロゼ』って名前のカプセル怪人が入った四個目のカプセルがあったみたいだけど……異次元に投げて消えてしまったって、モリブデンさん嘆いていた」

「ふ~ん」



 マオマオが通っているラグナ六区学園の昼下がり──職員室で、持参した手作り弁当のフタを開けた、女性体育教師『斧石ピンク』こと、亜区野組織幹部『ロボット使いのデス・ミント』に同僚の女性教諭が話しかけてきた。

「それ、オカズも斧石先生のお手製ですか?」

「まさか、オカズは惣菜コーナーで買った夕食の残り物です」

 お弁当箱に入っているのは、ミニクラゲの揚げ物、ミニウニの焼き物、食用ヒトデを豚肉代わりに使った酢豚だった。

 ピンクは、ヒトデを箸でつまんで眺める。

(そう言えば、アイツはヒトデが入った酢豚……好きだったな)

 ピンクは、過去の戦隊所属だった、苦い想い出の時代へと回想で飛んだ。



 雷鳴の雨の中、稲妻が走る断崖の縁に必死につかまる、戦隊ピンクスーツの斧石ピンクの姿があった。

 足下は深い谷で、茶色の激流が倒木を押し流している。

 雨が強く当たる戦隊マスクの中から、斧石ピンクは、戦隊仲間を見上げていた。

 恋愛戦隊【シュラバ・イレブン】に所属する、シュラバ・ピンクの斧石ピンクの目に涙が浮かぶ。

「どうして……どうして、仲間にこんなコトを」

 数分前に、斧石ピンクを崖から突き落とした、戦隊ゴーグルマスクで表情がわからない、シュラバ・イレブンの一員の女性声がマスクの中から聞こえてきた。

「仲間? 笑わさないで、あたしはこれっぽっちも、あんたのコトは仲間だなんで思っちゃいないわ」

「そんな……」

 稲妻を背にしたシュラバ・イレブンの一人は、斧石ピンクの崖につかまっている指先を踏みつける。

「戦隊のピンクはいいわよねぇ……みんなから、ちやほらされて。あたしなんか黄土色オウカーよ……あんた、メンバー内の、あの色の男に色目使っていたでしょう」

「あの色の男? ち、ちがう! あたしはただ、食用ヒトデの酢豚が好きだっていうから……家で作って容器に入れてあげただけで」

「ふ~ん、ピンクはストームグレイ色が好きだったの……てっきり、ディープロイヤルパープル色の男の方だと思っていた……どちらにしても、十一人もメンバーがいるんだから、人間関係は女も男もグチャグチャのドロドロよ!」

 シュラバ・オウカーの足先に力がこもる。

「ピンク、あんた邪魔……地獄に堕ちろ!」

 シュラバ・オウカーに蹴り落とされた斧石ピンクは、濁流に呑まれて姿を消した。


 次に斧石ピンクが、意識をとりもどした時は、病室のベットの上で見知らぬ天井を見上げていた。

(ここ……どこ?)

 ベットで上体を起こしたピンクは、パジャマに着替えさせられ。

 頭と脇腹から胸にかけて包帯が巻かれ治療されていた。

 枕元の小さなテーブルの上には、たたまれたピンク色の戦隊スーツと、ゴーグル部分にヒビが入った戦隊マスクが置かれている。

(あたし……そうだ、仲間から谷に落とされて)

 その時、仕切られていた白いカーテンが引かれ、知らない女性が現れた。

 女性が言った。

「一色、この子、意識がもどったみたいよ」

 一色と呼ばれた、白衣コートの女性がベットに近づいてきて、ピンクを診察する。

「意識もしっかりしている、大丈夫みたいね……河原に流れ着いて倒れていたのを若い怪人たちが見つけて、このラグナ六区学園の保健室に連れてくるの大変だったんだから……あなた、丸三日間、昏睡していたわよ」


 百々目一色が、ヒビが入った戦隊マスクを撫でながら言った。

「戦隊スーツの生命維持装置の性能に感謝しなさい。

相当の上流から流されてきたみたいね、岩か流木に顔面が激突したみたいだから、 一般人なら死んでいてもおかしくない状況だったわよ……

丈夫にできているわよねぇ戦隊スーツって……自己紹介が遅れたけれど、あたしは『百々目一色』亜区野組織の科学者と、ラグナ六区学園の保健室の先生を……」

 そこまで一色が言った瞬間、戦隊ピンクの脊髄反射的なパンチが一色の頬にめり込む。

 三流の正義のヒーローやヒロインの多くは、反射的に悪に攻撃するように、脊髄に刷り込まれている。


 瞬時に軟体生物と妖怪百々目鬼の体質に変化させて、斧石ピンクのパンチを顔で受け止めた。

 顔面を目だらけにした、百々目一色が微笑む。

「それだけ、元気があれば大丈夫ね……あなた、恋愛戦隊シュラバ・トゥエンティーのメンバーよね、戦隊マスクの形状を見ればわかる……いったい何があったの?」

「トゥエンティーじゃありません、今は人数も減ってイレブン……いいえ、シュラバ・テンです」


 一色の顔から拳を抜いたピンクは、嫉妬した仲間から谷底に落とされたコトを一色に語った。

 語った後に、ピンクはタメ息をもらした。

「もう、あんな人間関係がドロドロした戦隊に、もどりたくない」

 少し考えていた一色が、片手をプラナリアのマペットに変化させて言った。

「ねぇ、良かったら亜区野組織に来てみない……」

 一色は、最初にカーテンを開けてベットを覗き込んだ女性を、プラナリアのマペットで示す。

「彼女、亜区野組織で『ロボット使いのデス・ミント』って幹部やっているんだけれど……今月いっぱいで、組織を寿で辞めちゃうの」

 一色から紹介された女性は、下腹部をさすりながら微笑む。


「〝できちゃった婚〟で、お腹の中に怪人の彼氏と人間のハーフの子がいるの……この子のためにも、巨大ロボットの肩に立つのは危険だから……後継者を探していたの、良かったら二代目『ロボット使いのデス・ミント』を襲名してくれないかな」

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