第五章・美味しそうなカニ宇宙人の姉妹と知的な青い雨怪獣と秘密すぎる食物組織
①昼型の妹と夜型の姉
夜……両側が高いコンクリートの壁に挟まれた足首くらいまでの浅い川を、シースルーのネグリジェ姿のガニィ星人『藍』がナニかから逃げていた。
(伝えないと……このコトを今、活動している『藍』と『茜』に……この真実を伝えないと)
逃げる藍の目前の、影になった闇の中から声が聞こえてきた。
「どこに逃げるつもりですか……いい加減に諦めて、食材星人としての運命を受け入れては?」
「うるさい! 誰がおまえの思い通りになるか!」
藍の片腕が、毛ガニの腕に変わる。
前方の暗闇の中から
「やれやれ」という声が聞こえ、闇の中からヘラのようなヒレ手が月明かりの中に見えた。
「大人しく、茹でられていれば良かったものを」
数分後──浅い川の中に散乱した、毛ガニの残骸があった。
闇の中から、毛ガニをバラバラにした者の声が聞こえてきた。
「一匹、ムダにしてしまいましたね……しかたがない」
声の主の気配が消え、月明かりの中には食べたら数百人分の毛ガニの死体が横たわっていた。
春髷市の、ガニィ星人姉妹が潜伏しているアパートの夕刻──夜型活動ガニィ星人の姉の『藍』が、昼型活動ガニィ星人の妹の『茜』に録画した番組を観せていた。
背後に滝が流れ落ちている、洞窟のような場所で撮影されたドキュメント番組──ヘルメットをかぶった、女性キャスターがマイクを片手にしゃべる。
画面下に表示されたテロップで、女性レポーターの名字が『志村』だとわかる。
《わたしは、謎の巨大生物【インカニヤンバ】が目撃された洞窟に来ています、ご覧ください見事な地下の大滝です……この場所で頻繁に大蛇のような未確認巨大生物が出没しているようです》
下着姿でシースルーのネグリジェ姿の夜型活動の元気な藍。
パジャマ姿で就寝前の眠そうな枕を抱えた茜。
スナック菓子をポリポリ食べながら、姉が妹に言った。
「ここからよ、画面よく見ていなさい」
「グーっ」
「寝るな!」
藍は半分眠っている妹の口に、眠気を吹っ飛ばす協力なドリンク剤を強引に飲ませる。
「げほっげほっ……お姉ちゃん、よくもぅ」
「寝かさないよ……この録画した番組を観終わるまでは」
茜は「なんで、あたしまで」と、ブツブツ文句を言いながら録画した番組を観る。
高揚した口調で、しゃべる志村レポーター。
《果たして、インカニヤンバの正体は? 巨大なヘビか? それとも未知の生物でしょうか?》
その時、レポーターの背後の滝を右から左に横切るように移動していく、巨大ウナギの姿があった。
スタッフらしい。
《志村、後ろ後ろ!》の声が聞こえ、画像は途切れた。
テレビのスイッチを切った姉の藍に、茜が不機嫌そうな顔で質問する。
「で……これが何か?」
「気づかなかったの? 画面にスポンサー名とスタッフ名のテロップが流れたじゃない、その中に魔王真緒のお母さんが番組構成の特別プロデューサーで参加していて、協力者名にあたしの名前が流れたの」
「そこっ? そんなしょーもない理由で、あたしを起こしたの」
「しょーもない理由って何よ! マオマオくんにはいつも世話になっているでしょうが……あの番組のスポンサーは、
「知るか!」
茜の姿が巨大なシャンハイガニの姿に変貌する。
藍も臨戦態勢に入る。
「ハサミケンカするなら相手になるわよ」
「お姉ちゃん、この際だから言わせてもらうけれど、お風呂のお湯に、いつも体毛が浮いているわよ……部屋の床にも時々、お姉ちゃんの毛が落ちているし……脱毛したら」
「しかたがないでしょう! そういう多毛種のガニィ星人なんだから!」
藍の姿が毛ガニの姿に変わる。
対峙する姉と妹、毛ガニとシャンハイガニ。
しばらくすると、どちらからともなく。
「やめよう……同じガニィ星人同士で、争いうコトは」
の声で人間形態にもどる藍と茜、ガニィ星人は いつも「やめよう……同じガニィ星人同士で」の定番セリフで星人同士の争いを回避していた。
藍が喉元を、平手で軽く連打しながら言った。
「人間など、我々ガニィ星人から見れば甲殻類のようなモノだ……また、地球侵略してみたいわね」
茜は内心。
(あんたは黙れ)
と、思った。
次の日の昼間──茜は半分眠っている藍を強引に引っ張って、アパート下の秘密基地に連れてきた。
「ねむ~い、寝た~い」
「もうちょっとだから、ほら到着した」
巨大な地下倉庫のような場所に入ると、夜型活動の藍の目が冴える。
地下の秘密基地には、昼でもなし、夜でもなし、朝でもなし、夕暮れでもない波長の光り満たされていた。
「ふぅ、ここに来ると夜型も昼型も関係ないわね」
藍は、通路の両側に並ぶ培養カプセルの中に浮かぶ。クローンの藍と茜を眺めた。
「ねぇ、なんかクローンのあたしたち、数が減っていない?」
「そうかな? 培養装置がメンテナンスでもしていたんじゃない」
藍と茜は、ガニィ母星からクローン体として地球侵略の尖兵として派遣されてきた。
「個体数が多少減っても、培養装置が自動でクローンを作るから。問題ないんじゃない……全部あたしたちなんだから、それよりも」
茜は、培養カプセルが並ぶ部屋の向かい側にある、円形台の中に置かれた巨大な卵か
巨大な卵は鎖で縛られていて『S級■■怪獣』の表示が、ガニィ星の文字でされている。
茜が言った。
「やっぱり、侵略を再開するなら。S級怪獣の『ウツボギラス・シアン』よね……休眠から目覚めさせるわよ、お姉ちゃん」
テーブルの上にある、ファイル棚の中から少しボロボロになった、記録ノートを引っ張り出して書かれている記録文章に目を通しながら藍が言った。
「前々から疑問なんだけれど……なんで前任者から受け継ぐ記録媒体が筆記のノートなの? 電子記録媒体じゃないの?」
「何か過去に不都合でもあったんじゃないの……停電で記録が読み出せなくなったとか、パスワードがわからなくなったとか」
「そうかなぁ? それにしては、この記録ノート変じゃない……ページを破った跡とか、文章を黒く塗りつぶした箇所もあるし……あたしが一番、気になっているのは、このページなんだけれど」
藍が開いて見せた、見開きページには血痕のようなシミが付着していて。
『あいつの前では決して背中を見せるな……』の文字だけが読み取れた。
「う~ん……そこの部分はあたしも気になるんだけれど、所々記憶が抜け落ちている箇所もあるし……S級■■怪獣の■■の塗りつぶしてある部分も気になるけれど……鎖で縛られているのは、それだけ強い怪獣って意味だと思うから……今回の侵略にはウツボギラス・シアンを使うよ」
藍と茜が怪獣復活の祈りの歌を歌うと、卵繭が割れて、中から青い雨天怪獣──ウツボと肉食恐竜を合わせたような、宇宙怪獣『ウツボギラス・シアン』が現れた。
藍と茜の背筋に、意味不明のゾッとする悪寒が走る。
シアンが、ガニィ星人姉妹を見下ろしながら言った。
「出撃ですか?」
「侵略開始よ! 人類を恐怖のズンズンドコに落として」
何かを思案している素振りをみせるシアン。
「他の侵略怪獣も、一緒でもいいですか? 用心棒怪獣の『黒井キング』と放電怪獣の『白銀クイーン』を誘いたいんですが」
「まぁ、別にいいけれど」
シアンは頭上にミニ雨雲を発生させると出撃した。
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