第四章・幼い皇女と結婚したい地中海賊とボールヘビ怪人の怪僧とバラの花の香りがする殺し屋ゾンビ

①生ヘビ坊主、バラの芳香がするアンデットを作る

 春髷市郊外にある山寺、通称『骸寺』もしくは『死人寺しびとでら』──その寺の本堂にある、ヘビの舌を出した黄金の御本尊仏像……仏像の背中に開いた地下室に繋がる階段。


 本堂の地下にある実験室では、中央が膨らんだ人間が丸ごと入りそうな、中空の培養カプセルを袈裟姿で眺める。

 怪僧『アカマタ』は、栄養ドリンクを飲みながら、何やら思案を続けていた。

「さてさて、どうしたらいいものやら」

 アカマタは、ニ本目の栄養ドリンクのキャップを開けて飲みながら、木製テーブルの上に広げられた錬金術の本を見る。

 開かれたページには、ホルムクルスの製造工程が図入りで書かれている。

(う~ん、普通のアンデットゾンビでは、あの異世界魔女が作るアンデットには、かないそうにないな)


 インターネットの配信動画で見た。額に中華呪符を貼った、とんがり帽子を被り、巫女のような服を着た。

 和洋中混合の奇妙な格好をした、異世界から来た魔女『桜菓』

 動画では、ジジィの勇者と一緒に様々な店で買ってきた、大量の骨つきフライドチキンや鶏肉料理を食べている光景が映っていた。


 山のように積まれていく鳥の骨、すべてのフライドチキンや鳥肉料理を食べ終わった魔女は、鳥の骨格を組み立てて一羽の骨格標本を完成させた。

 不気味だった……桜菓は額の無限呪符を一枚剥がすと、鳥の骨格標本に貼った。

 呪符が出現した魔法円と共に青白い炎を出して燃え消えて。

 骨になった鳥が動き出す。そして、老勇者が持った板をガイコツ鳥が蹴り割り、ついでに勇者に襲いかかるところで動画は終わっていた。


(くやしいが、あの魔女の術は高度な術だ……このままでは、太刀打ちできない。どうすれば)

 アカマタは、机の上に束ねて置いてあるドライフラワーを手にする。

 花の香りが残るドライフラワーから、インスピレーションを得たアカマタが作ろうと考えているのは。ゾンビ臭を排除した『バラの芳香がするゾンビ』だった。


「女性には腐敗臭は不評だからな……今まで、納豆臭やチーズ臭、キムチ臭やタクアン臭の発酵ゾンビを作ってみたが……今一つ人気は出なかったな」


 それでも、数年に一度の割合で開催される『世界アンデット&ゾンビ大会』では、アカマタが作るアンデットやゾンビは。上位成績で大会賞金を稼いで死人寺の補修費に充てるコトができたが。

 参加者が増えてレベルが上昇してきた近年の大会では、アカマタが作るアンデットで上位に食い込むコトは難しくなってきていた。


「今やアンデットも、総合評価が求められる時代だからな……甘い香りがするゾンビも作られはじめたし、モンブランゾンビとかバナナゾンビとか」

 次に作るアンデットは、バラの花から抽出したエキスに浸したゾンビにするコトは決まっていた……が。

(肝心の素体がなぁ……魂系から作る方が、死体を甦らせる生ゾンビよりも臭いが少なくて楽なんだが……筋肉質の男性ゾンビにするか、男性審査員受けがいい女性ゾンビにするか……悩む)

 製作するアンデットの外見を思案する、アカマタの周辺を、外から入ってきて飛び回っている人魂があった。


「なんだ? この、しつこい魂は?」

 虫のようにアカマタの周囲をフワフワ飛び回っている人魂を、虫取りアミで捕まえたアカマタはアミの中で暴れている人魂を観察する。

「やたらと元気がいい人魂だな……強い情念と、この世への強い未練を感じる?」

 アミの中でアカマタに押さえつけられた人魂は、鋭い尾の先で幾度もアカマタの手を刺そうとする。

「この尻尾、危ないな……抜いてしまおう」


 アカマタは、注意しながらアミの中で暴れている人魂の尾を、スポンと引き抜いた。

 尻尾を抜かれて球体になった人魂は、ぐったりと大人しくなり。

 抜いた尻尾の方は、ピクンッピクンッと蠢いていた。 

 本体の球体人魂は、虫カゴの中に摘まんで入れて。まだ蠢いている尻尾の方は標本びんの中に入れる。

 標本瓶の中で、動き回っている尻尾を眺めながらアカマタは、あるコトを思いつく。


(そうだ、この人魂の尻尾をベースに、アンデットを作ってみよう……容姿の記憶は残っているだろうから)

 アカマタは、培養カプセルの中をバラの花から抽出したエキスで満たすと、引き抜いた人魂の尻尾をチャポポンと投げ入れた。

 培養カプセルの真ん中辺りで、ピクピク浮き沈みを繰り返している人魂の尻尾を眺めながら、怪僧アカマタが呟く。

「さて、どんな姿になるのか楽しみだ」


 数週間後──人魂の尻尾は、培養カプセルの中で高校生くらいに見える、童顔の成人男性に成長した。

 魂が入っていない肉体だけの存在……バラの花の抽出エキスの中に、顔に斜めの縫合傷があり両目を閉じて裸で浮かぶ、アンデットを見てアカマタが言った。

「ほうっ、こうきたか……童顔で小柄だけれど、高校生じゃなさそうだな。それじゃ〝入魂〟するか」


 アカマタは、時々霧吹きで表面を湿らせてきた球体の本体の方を、虫カゴの中からつまみ出すと、まな板の上に置いた。

「だいぶ弱ってきてはいるが、間に合った」

 アカマタは包丁で人魂を二分割する。

「ここからは、時間との勝負だ……うげぇ」

 いきなり、アカマタは自分の魂を口から吐き出すと、同じように二つに切り割り。

 先に二分割した魂と切断面を合わせこねて、粘土細工のように二つの魂を癒着させた、合わせた表面はグラディーションになって馴染む。

「よし、上手くいった」

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