④ド・ヤガオ大佐を追っ払う三人娘(一匹ハムスター)ラスト

 螺魅の隕石が、博物館で一般公開される小一時間前──裏地球を望む宇宙空間に、別宇宙から一隻の中型宇宙戦艦がワープしてきた。

 艦橋に腕組みをして立ち、巨大モニターを不敵な笑みを浮かべながら眺めている、軍服姿の男がいた。

 別宇宙空間から、緊急の誤ワープで、この宇宙空間に中型宇宙戦艦一隻で迷い込んできた。

【サルパ帝国軍】の『ド・ヤガオ大佐』が部下の兵士に、ピンク色に青い虎縞模様が走るサルパ人顔で言った。

「慌ててワープして逃げたら、変な別宇宙に来てしまったな……本隊のいる空間にもどれそうか?」

 艦橋の座席に座っているオペレーター兵士が答える。

「座標は記録してありますから大丈夫ですよ……次にワープすれば本隊のいる『銀牙系』に行けます」

 ド・ヤガオ大佐は戦線で、一隻の宇宙戦艦空母『ナガト』にボッコボッコにされて、艦分隊から真っ先に逃げ出した。

 すでに、多くの艦本隊がナガトにこっぴどくやられ、別の宇宙へと逃げている。

 その銀牙系宇宙でなら、ナガトも居ないので楽に侵略できるだろうと……侵略開始前に、ド・ヤガオ大佐の艦だけが誤ワープで、この裏地球がある空間に来てしまった。


「青く美しい星だ……元の空間にもどる前の駄賃に、軽く脅して支配してしまおう……なぁに、我らサルパの科学力なら簡単なコトだ……ふははははっ、ドヤ!」

 ドヤ顔で笑う、ド・ヤガオ大佐とは対象的に、裏地球の様子を観察していたオペレーター兵士は、モニターに映し出されている怪獣や巨大ロボットの姿を見ながら。

「そう簡単に事が運べはいいんですけれどね」

 そう小声で呟く。

 ド・ヤガオ大佐が部下の兵士たちに命令する。

「全速前進! 目標前方の青い惑星!」

 そして、中型宇宙戦艦は、入道雲を抜けて螺魅たちがケンカをしている『春髷市』上空に現れた。


 テラ美、螺魅、未完、ズ子が見上げる中。

 ド・ヤガオ大佐が乗っている宇宙戦艦の砲身が動いて、春髷市に照準を合わせる。

 ド・ヤガオ大佐の声が、宇宙戦艦から聞こえてきた。

《おまえたち、無条件降服しろ! 二時間だけ待ってやる……降服しないと、サルパ砲でこの町を、跡形もなく吹っ飛ばすぞ……ふははははっ、ドヤ!》

 鼻で笑う陰キャラ三人娘。

「何か空でほざいているでチュ」

「アポは観察する価値もなし……きゃぴ」

「お父さんの尻尾の一振りなら……あの宇宙戦艦真っ二つになる」


 テラ美が三人に言った。

「あんたたち、協力して招かれざる客を追っ払いなさい」

「どうして、あたしたちが」

 テラ美が存在感を示す。

「や・り・な・さい」

 その圧倒的な、存在感に陰キャラガールズたちは。

(なんだか、わからないけれど……この人には逆らってはいけない)

 と、思った。


 風神姫に成りきった未完が、風の能力でみんなを宇宙戦艦まで運ぶ。

 戦艦上部に着地した雷太が、咆哮して振り上げた棍棒を幾度も戦艦の装甲目掛けて打ちつける。

「うほっうほっ、うきぃぃ!」

 戦艦の装甲に穴が開く。


 戦艦内に鳴り響く緊急を知らせるアラート。

 艦橋のオペレーター兵士がド・ヤガオに伝える。

「何者かが艦の上部を破壊して艦内に侵入!」

「なにぃ!?」

 艦内の各部署から、悲鳴が混じった報告が次々と艦橋に届く。

《こちら、機関室! 突如、等身のキノコやカビの胞子に埋め尽くされ! うわぁ! 菌糸が生き物のように広がって壁や天井にまで!》

《兵士居住区に原因不明の砂漠並みの熱風と、ツンドラ並みの凍風が発生! 艦内の随所が熱風で溶けたり、氷結したりしている! 熱い、寒い、熱い、寒い》

《艦内厨房に、腐敗臭が充満! うげぇぇ》

《艦内の通路で、棒を振り回す変なジジィと。棍棒を持った変態が暴れています!》 

《しゃべるネズミが目の前にいるでチュウ……変な光線を浴びせられたら、頭の中がチーズのコトしか考えられなくなったでチュ》


 次々と艦橋に入ってくる報告に、頭を抱えるド・ヤガオ大佐。

「いったい、この艦内で何が起こっているんだ?」

 その時、艦橋のドアを蹴破って、テラ美がつかつかとド・ヤガオに近づいてきて言った。

「さっさと、あたしたちの世界から出ていけ……そして、二度と手出しするな」

「なんだと! 小娘、オレはサルパ軍のド・ヤガオ……」

 テラ美のデコピンが、ド・ヤガオの額に炸裂する。鈍い衝撃音と同時にド・ヤガオの体が壁に吹っ飛ぶ。

 バキィィィィン!

「ぐわあっっ!」


 気絶したド・ヤガオを見た、オペレーター兵士が立ち上がってテラ美に敬礼する。

「この星の住人に敬礼! そして撤収! お疲れさまでしたぁ!」



 数分後──気絶したままのド・ヤガオ大佐を乗せて去っていく、宇宙戦艦を春髷市から見ながら、上がった前髪から両目が見える螺魅が明るい顔で呟く。

「なんか、スッキリした」

 未完も晴れ晴れとした表情で、スケッチブックに書いた文字を見せる。

[なんでケンカしていたのか、どうでも良くなった]

 雷太の頭に乗ったズ子が「チュウッ」と、鳴く。


 テラ美が、陰キャラガールズに言った。

「これからは、困ったコトがあったら魔王真緒のマオマオくんに……相談しなさい、マオマオくんだったら。解決したり相談に乗ってくれるから」

 螺魅。

「魔王真緒……興味ある」

 数枚のページをめくり、最後にデスボイスでしゃべる未完。

[ヲタクの人間観察していても変化ないから、つまらない……すでに自堕落状態だから……でも、まっいいか]

「あがぁぁ、風神姫の映画楽しみにじてぐれでいる……がんばれるぅ」

 ズ子。

「魔王の息子は、心を腐らせるリストからは外してあるでチュ……あんな、のほほんとした。脱力する笑顔のヤツは見たことがないでチュ」

 テラ美。

「あっ、また変なところが痒くなってきた」

 テラ美は、二人と一匹に背を向けると、デリケートな部分をコリコリ掻いた。



第三章・陰キャラの宇宙キノコ娘とデスボイスの風神姫と天才ハムスターの王女~おわり~

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