③螺魅……活動開始『菌活』
鉄塔の高い場所に座って、アイスキャンデーをナメながら。春髷市を眺めている裏地球の擬人化娘『
身体中に絆創膏を貼って、ショートパンツを穿いたテラ美が軽く咳き込む。
「けほっ、最近、大気の状態悪いなぁ……あっ、脇の下に線状降水帯が発生した。裏地球のどこかで洪水が……あっ、溶けたアイスの中からマンモス出てきたラッキー♪」
テラ美は、公園で棍棒素振りをしている雷太と、道路に寝そべって菓子を食べているメッキを眺めて微笑む。
「平和だなぁ……今のところは」
空を見上げたテラ美の視線は大気圏を抜けて、宇宙空間が見えていた。
裏地球から離れた空間に現れて、少しづつ近づいてくる。別宇宙から迷い込んできた中型宇宙戦艦がテラ美には見えていた。
「まったく、宇宙キノコ娘が落下してきて、あたしの皮膚の上で、ひと騒動起こりそうだっていうのに……これ以上、厄介ごと持ち込まないでよね別宇宙からのお客さん」
博物館で隕石の一般公開がはじまった。
来館者の列の中には、別々の位置に天龍未完と鉛谷ズ子の姿もあった。
人だかりがする、展示ケースの前でテレビレポーターの女性が実況をしていた。
「見てください、ヒマワリの種みたいな珍しい形の隕石を一目見ようと、開館と同時に多くの人が、博物館に押し寄せています」
カメラのフラッシュが一斉に隕石に向けられる、光りの中で隕石から声が聞こえた。
「眩しい……眠い……ふぁぁ、起きるか」
同時に隕石の表面に無数の亀裂が走り、水蒸気のようなモノが噴き出してきた。
悲鳴を発して逃げ出す一般の人間来館者、ケースに水蒸気が充満してヒビ割れる。
隕石の中から、欠片を押し退けて柿茸螺魅が現れた。
展示台から床に降りる螺魅。
「よいしょと……ここどこ? とりあえず外に出てみっか」
螺魅が歩いた後方に、小さなエノキ茸のようなモノが生えては枯れていく。
博物館を出た螺魅は、自分を恐れて逃げ惑う人間を見て……落ち込み陰に沈む。
「あっ、あたし避けられている」
その場に体育座りをした、螺魅の両目が前髪に隠れると、螺魅の周囲からカビの球状胞子やキノコのようなモノが、次々と生えてきて、周囲に広がっていく。
「人間なんか滅んじゃえ……キノコや菌胞子の星になっちゃえ」
ズズズズズッと広がっていく菌糸……その場に必死に留まった、テレビレポーターの女性と、頭がテレビカメラになった映画館から出入り禁止の怪人撮影マンが螺魅にインタビューを決行する。
「すみませーん、魔王城のマオーガテレビの者ですが、インタビューさせてください」
「なに? インタビュー? 別にいいけれど」
螺魅の片方の髪が上がり片目が現れると、キノコや胞子が枯れて消える。
「お名前は、どこから来たんですか? なにをしにこの星に?」
「名前は柿茸螺魅……外宇宙から来た。目的は……この星の住人の接し方次第で、菌類の星に変えて人間を滅ぼすかも」
「あたしたち滅ぼされちゃうんですか?」
「あたしを邪険に扱ったらね」
その時、天龍未完と鉛谷ズ子が現れ、螺魅に話しかけてきた。
[ちょっと、待ったぁ!]
「人間どもを勝手に滅ぼされたら、あたいの人間の心を腐らせる計画が台無しになるでチュ」
未完がアニメ声の、にこやかな笑顔でズ子に言った。
「クソネズミ、そんなことされたら。あたしの堕落していく人間を観察する楽しみが無くなっちゃうんだよ……きゃぴ」
未完はスケッチブックにサラサラと書いた文字を、螺魅に見せる。
[キノコ女も同じだ、人間を滅ぼしたらあたしの楽しみが消える]
螺魅の周囲に陰気が漂いキノコが生える。
「メチャクチャ、傷ついた……やっぱり人間、滅ぼす」
未完の体を悪臭の風が包み、未完の体が宙に浮く。
「やれるもんなら、やってみろ……きゃぴ」
ズ子も負けじと胸を張って言う。
「ネズミを怒らせると怖いでチュよ……その気になれば数千、数万匹の同胞をここに呼び寄せるコトもできるんでチュからね……でも、今日は同胞を危険な目に合わせたくないから。近くにいる人間のアポを呼び寄せて操るでチュ」
ズ子が『アポ人間操りホイッスル』を吹くと、ホイッスルの音色に操られた老人姿の勇者メッキと、自作棍棒を持った灼熱雷太が走ってきた。
「こんなのしかいなかったんでチュか……しょーがないでチュね」
ズ子と並び立つアポ二人。
三方向から、互いを威嚇して睨み合う三人の中央に突然、空から飛んできて着地した裏地球の子、
「痛い……」
「ぐぇ!?」
「チュウッ」
一人の姿にもどったテラ美が言った。
「あたしの本気のデコピンは、そんなもんじゃないからね……あんたたち、いい加減にしなさいよ、似た者同士でケンカして」
螺魅、未完、ズ子の三人が同時に否定する。
「似てない!」
「いいや、どことなくタイプが似ている……あんたたちは、いい友だちになれる……それと、あなた」
テラ美は、螺魅を指差す。
「変なキノコやカビの胞子みたいなの、大地に生やさないでよ……痒くなるから、あたし擬人化した裏地球だから」
「どの部分が痒くなる……ここで掻いてみせて」
赤面したテラ美が怒鳴る。
「できるか! 人前でデリケートな部分を掻いている姿なんて! とにかく今は争っている場合じゃないんだってば……別宇宙から招かれざる客が近づいて来ているんだってば……ほらっ、あそこ」
テラ美が指差した白い入道雲の中から、下部に巨大な砲身を装備した中型宇宙戦艦が現れた。
見たコトもない形の宇宙戦艦に、驚きの声を発するズ子。
「なんでチュか! あれは?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます