⑧【夢の世界】〔2〕ラスト

 ゾバットラは、真緒の腕を巻きつけた鼻で引っ張って、どこかに連れていこうとする。

「果実のところに案内してくれるの?」

 ゾバットラが頭で、通路の壁を押すとクルッと壁が回転して隠し部屋が現れた。

 部屋の中には、童話に出てくる姫のようなドレス姿で椅子に座った暗闇果実と。

 飲食をしてる鬼天河血姫の姿があった。

 いきなり壁から現れた真緒の姿に、飲んでいた飲料を勢いよく口から吹き出す血姫の本体。

「ぶはぁぁ!? 来るの早すぎるよぅ……なに? そんなところに隠し扉あったの?」

 真緒が血姫が食べている、食パンに挟んだ具について質問してみた。

「その食べているのナニ? 緑色をしたジャムみたいなのが。パンの間から見えるけれど」

「スライムサンド」

「おいしいの?」

「そこそこの食感」

 血姫はスライムを食パンに塗って挟んだ、スライムサンドの残りを口に放り込むと。

 鬼の金棒を手にマオマオに向かって、内股で構えた。

「よ、よくここまで来たな……か、かかってこい!」

 カッパの皿、鬼のツノ、カラス天狗の半面、背中にはカッパの甲羅と天狗の翼、鬼のトラ柄毛皮水着を着た血姫は震えている。

 真緒が血姫に言った。

「もしかして、怖いの?」

「バババババ、バカにするな! 夢太郎と真逆で現実世界でなら、そこそこに強いけれど……夢の世界ではワラジ虫にも負ける」

「どうして、現実世界のボクを倒して現実世界を支配しようと思ったの? 別に怒っているワケじゃないんだけれど、良かったら教えて」

 ラララ・ラーテルは内心。

(そこの部分は怒ってもいいんじゃないの?)

 そう思った。


 血姫がポツリと呟く。

「飽き、飽きしたから」

「何が?」

「寝ても覚めても夢の中だから……飽きた、現実世界ほどの面白さは夢の世界にはない」

「そうなんだ……空に浮かんでいる、目覚まし時計の長針と短針が重なったらどうなるの?」

「よくぞ聞いてくれた……針が重なって目覚まし時計のチャイムが鳴ったら、魔王真緒だけが目覚める……そうなったら、現実世界から夢の世界に来ている夢組は、永遠に目覚めない……ちなみに、チャイムの音声は狐狸姫の声優さんが、狐狸姫キャラで起こしてくれる」

「うわ♪ それは聞いてみたいな」

 ラララ・ラーテルが思わず、真緒にツッコミを入れる。

「状況を見失うな! チャイムが鳴ったら、あたしら夢の世界から出れなくなるんだぞ! ここで、血姫を倒す!」

 ラララ・ラーテルは、鼻の穴に大豆を詰める。

「今、やっとわかった……あたしが選ばれた理由が……ふんっ、鬼は外」

 鼻の穴から大豆を勢いよく飛ばすラララ・ラーテル。

 壁に穴が開く、青ざめる血姫。

「なにその、強力な鼻鉄砲!?」

「鬼は外、真緒は内、ふんっ、ふんっ」

 大豆以外の付着物も血姫に向かって飛ぶ。

「ぎゅあぁ! 痛いっ! 汚いっ! ぎゃあぁぁ」

「ふんっ、ふんっ、降参するか? 空の目覚まし時計を消すか……ふんっ、ふんっ」

 室内を逃げる血姫が悲鳴をあげる。

「降参する! 参ったから、頭の皿を狙うのはやめてぇ!」

 空に浮かんでいる、アナログ目覚まし時計の秒針が針が重なる数秒前で止まり、時計は雲になって拡散して消えた。


 床にグッタリと倒れた血姫の横を通って、真緒は頭にティアラをしたお姫さまドレスの果実に近づく。

 座った椅子の肘掛けで頬杖をしながら、不機嫌そうな表情で果実が真緒に言った。

「なにしに来たのよ」

「果実を助けるため……現実に帰ろう果実、ボクの世話がストレスになっていたなら謝る……だから」

「だから何? あたしがどれだけ、真緒のお世話で心身をすり減らしていたと思う」

「だから謝る……これからは気をつける。果実がいないと寂しいよ……お願いだから、現実にもどってきて」

 暗闇果実は、横目でチラッと真緒を見て苦笑した。

「しかたがないなぁ」

 椅子から立ち上がった、果実が真緒に近づくにつれて童話姫のドレスは普段着に変わっていく。

「今回は許してあげる」

 真緒の手を握る果実。


 床から伏せた上体を起こして血姫が言った。

「なにその甘ったるい展開の結末……バカバカしい、やめやめ、やってられない」

 拾い上げた金棒を担いで、ドアに向かって歩きながら血姫が言った。

「魔王真緒、果実に甘えすぎるんじゃないわよ、また、ストレスが蓄積して臨界を越えたら、夢の世界で今回みたいな騒ぎが発生するから……お帰りは、あちらのドアからどうぞ」

 そして、血姫は果実にも言った。

「たまにはグチも聞いてあげるから、気が向いたらお店に来なさいよ」

 血姫がドアを開けて退室するのと同時に、真緒とラララ・ラーテルが入ってきた隠し扉が開いて各ステージに残って真緒を先に行かせてくれた、満丸や夢太郎たちが。

「真緒くん、大丈夫? 血姫は?」

 そう言って部屋に飛び込んできた。



 翌週の休日、魔王城内中庭──真緒は果実と一緒に夢の世界へ一緒に行った、夢組の面々を招待したバーベキューパーティーの準備をしていた。

 中庭には巨大野菜を積んだトレーラー数台が停車していて、コンテナ横側のガルウィング扉が開くと、コンテナの中に積まれた大陸弾道ロケットサイズのトウモロコシや、大仏の頭サイズのタマネギがコンテナの中で転がらないように固定されているのが見えた。


 エプロン姿で、手刀で丸太を割って薪を作っている果実に、食材の下ごしらえをしている真緒が訊ねる。

「果実、食材の大きさは、こんなもんでいいかな?」

 直径四メートルほどで、厚さ一メートルほどの円柱に切られて積み上げられた謎の骨つき肉を見た果実が言った。

「いいんじゃない、野菜の方は、あたしが手刀とコウモリの超音波で切るから……それにしても」

 果実はゾウの鼻穴から火を吹いてバーベキューの火種を作っている、ゾバットラを見て言った。

「なんで、夢の魔獣がここにいるワケ?」


 その夜の夢世界のファストフード店では、制服姿の鬼天河血姫が、カウンターの中で。

「今夜はヒマねぇ」

 と、呟いていた。


 マオマオくんの世界は、今夜も変わらず平和です。


~第二章・マオマオくんの夢の世界の住人たちと人間嫌いな特殊異能力者

~おわり

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