⑥夢のステージ「仲間の屍を越えていけ」

 閃光王女狐狸姫が、崖の上から飛び降りてきて、満丸の近くに着地する。

 狐狸姫が明るい笑顔で言った。

「あたし、狐尾まどい。手品大好きな中学二年生……閃光王女狐狸姫やっていま~す」

 その言葉に真緒と満丸のテンションが、さらに上昇する。

「おぉ! 今のセリフはアニメのアバンタイトルで、普段着の狐尾まどいの言葉だ!」 

 腰に片手を当てた狐狸姫が、片目をつぶって満丸の方を指差して言った。

「満丸くん、挨拶は後だよ……邪悪な気配の悪い子は、木の葉に包んでポイッしちゃうぞ」

 満丸の興奮は続く。

「おぉぉ、今のセリフは劇場版・閃光王女狐狸姫ザ・ムービー『大きなお友だち』の中で、狐狸姫が一度だけ言った。レアなプレミアセリフ! 三十人以上の歴代狐狸姫が集結する、あの映画のクライマックスに発する言葉だぁ!」


 テンション昇りっぱなしの二人に、頭を掻く狐狸姫。

「なんかやりづらいな……ともかく今は」

 ワラワラと湧いてきた、黒夢羊ブラック・サンの方を眺める狐狸姫。

「満丸くん、この夢平原の悪い子ちゃんを浄化させるよ……君の力を、狐狸の力に」

 拳を握りしめた狐狸姫は、真緒の方を微笑み見て言った。

「ここは、あたしと満丸くんに任せて先へ進んで……あたしは、夢平原から他の場所へは行けないから。満丸くんは必ず後を追わせるから……真緒くん、新シリーズの閃光王女狐狸姫【カカト落とし】も、よろしく」


 満丸の体から、意味不明なテンションのオーラが沸き上がる。

「うおぉぉぉっ!」

 炎をまとった満丸の球体が、夢羊をボーリングのピンのように吹っ飛ばす。

 狐狸姫も、回し蹴りやカカト落としで夢羊たちを粉砕浄化していく。

 夢太郎がスレッジハンマーで、夢空間を割って次のステージへの道を作る。

 その道は満丸が、先へ進んだ真緒たちと合流できる道だった。

 夢太郎が真緒に言った。

「真緒くん、時計の針が進んでいる……ここは、満丸くんに任せて次の夢ステージに、早く!」

 回転しながら、満丸が真緒に言った。

「先に行って、真緒くん! ボクの屍を越えて! うおぉぉぉ! 狐狸姫萌えるぅぅ!」

「満丸くん、屍になったらダメだって」

 真緒たちは、夢太郎が砕いて開けた穴を通って次のステージに向かった。



 夢の海【難破海賊船】の甲板──真緒たち夢組は難破船のモノクロの甲板に空間の穴から出てきた。

 座礁して傾いた海賊船

の甲板には、海賊の格好をしたゾンビな黒夢羊が体を左右に揺らして。

 真緒たち、夢組を待ち構えていた。

 怖がりのビスマスは、骨が露出した海賊羊に震える。

 空に浮かぶ、アナログ目覚まし時計の長針が進む。

 ショッキング・パパとパワーグリーンが、真緒の前に進み出てきた言った。

「ここは、わたしたちに任せて先へ」

「イグッイグッ、ハヤク、イグッイグッ」

 黒夢羊たちに向かって、優しく両手を広げるショッキング・パパ。

「さあ、パパだよ……みんなおいで」

 羊たちの赤い吊り目が弧に歪み、嬉しそうにショッキング・パパに駆け寄る。

「パパぁぁ」

 走ってきた黒羊の力を、パワーグリンが相手よりも1・5倍の力で、ぶん殴って弾き飛ばす。

「イグッ! イグッ! イグッ! イグッ!」

 空中に弾き飛ばされ、甲板に落下して怒りに目を吊り上げるブラック・サンに向かって、ショッキング・パパが言った。

「さあ、パパが抱き締めてあげるよ」

 パパの言葉に怒りが消えて、赤い弧の目になった黒夢羊たちは。

「パパぁぁ」

 と、駆け寄りパワーグリンに、吹っ飛ばされるコトを繰り返していた。

 真緒たちは、ショッキング・パパとパワーグリンにこの場を任せて次に進む。



 夢の空、雲の浮島──次に真緒たちが到着した場所は、薄いピンク色の雲が空で大小の浮島になった場所だった。

 フワフワの雲の上に立った、天龍空彦が言った。

「空のステージか、オレにピッタリの場所だ」

 雲の中から、背中の羊毛を羽のように広げた黒夢羊が次々と現れる。

 夢羊の地肌には『空羊』の文字が浮かんでいた。

 空彦が真緒に言った。

「さっさと行け、見られていると気が散る」

「一人で大丈夫?」

「オレを誰だと思っている、天龍空彦さまだぞ……負けねぇよ」

 真緒たちが、次のステージへ向かったのを確認した空彦は、誰に聞かせるでもなく独り呟く。


「オレは人間が大っ嫌いだ! 誰でも根気よく話せば、相手がわかってくれて変わってくれるなんて夢にも思うんじゃねぇぞ! と、ここは夢の中か」


 苦笑した空彦が、空でホバーリングしている黒夢羊たちに向かって言った。

「かかってきな、最初に一発だけ殴らせてやるよ」

 空彦に向かって襲いかかる、夢羊ブラック・サン。

 夢羊たちは空彦の二メートル前で、なぜか空彦に近づくのをやめた。

 不敵に笑う、天龍空彦。

「殴れないだろう……見えるか、オレをかばって両腕を広げて涙目で立っている【エアー彼女】の姿が……今度はこちらから行くぞ【エアー四聖獣】!」

 空彦の周囲に、エアー玄武・エアー朱雀・エアー白虎が現れる。最後に雲の中から現れたエアー青龍の頭に空彦は乗って空中に浮かぶ。

 エアー四聖獣に命じる空彦。

「行け、四聖獣たち」

 玄武、白虎、朱雀が夢羊たちを次々と蹴散らしていく光景を見ながら空彦がポツリと言った。

「魔王真緒だけは、オレを認めてくれた……あいつは別格だ、将来大物になる」

 夢太郎が開けた穴から、ヒョコと顔を覗かせた真緒が言った。

「ありがとう、空彦さん」

 顔が真っ赤になる空彦。

「うわっ、早く行け! 照れるじゃねぇか!」


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