⑤楽しい♪楽しい♪悪夢の国

 公園内をハーネスとリールを付けたペットのグリーンイグアナを、散歩させている若い女性がいた。

 ごくごく普通のペットを散歩させている風景──だが、一つだけ違和感がある箇所があった。

 イグアナの手足が人間の手足をしているコトだった。

【突然変異種のヒトイグアナ】のイグちゃんが散歩をしながら鳴く。

「イグッ、イグッ」

 散歩をさせている女性の顔が、ヒクッヒクッと痙攣する。

 ペットショップで購入した時は、普通のイグアナだった……それが成長するにしたがい、手足が脱皮して人間みたいな手足に変化して。

 簡単な言葉も少し話せるように変わってきた。

「イグッイグッ、メシメシ」

 悩む飼い主。

(あたし、いったい何を飼っているの?)

 イグちゃんが、いつも首に巻いて背負っている、和柄模様の風呂敷包みが気になっていたが。

 飼い主は、小さな風呂敷包みをイグちゃんから奪い取って、中身を確認する勇気は無かった。

「イグちゃん……あんたいったい何?」

 飼い主が悩んでいると、青いヒトデ型の悪魔インディゴがヒョコヒョコ歩いてきて、イグちゃんに向かって言った。

「探したクマ、イグちゃんの力を役立てる時が来たクマ──夢組のメンバーの一人になって世界を救って欲しいクマ」

 スクッと二本足で立ち上がったグリーンイグアナは、背負っていた風呂敷包みを開くと中に入っていたレインブーツを掃き。

 アメコミのヒーローみたいな目元だけ隠す布マスクを頭に巻き。

 軍手を両手にはめて。

 風呂敷をマントにイグアナヒーロー。

『パワーグリン』へと変わった。

 空は飛べないが敵のパワーよりも、1・5倍の力で押し返して戦うコトができる。

 パワーグリンは、ハーネスを外すと飼い主に向かって親指を立ててから、インディゴと一緒に魔王城に向かった。



 と、ある居酒屋でアルバイトに励んでいる。ちょい悪の組織の女性幹部『ラララ・ラーテル』は、安アパートの自室で発泡酒を片手に、紺色の 法被はっぴを羽織って、スルメ足を食べていた。

「ふぅ……なんか面白いコトないかしらね」

 ラララ・ラーテルは、鼻の穴にピーナツを詰めると「フンッ!」と、鼻からピーナツ弾を発射して壁に穴を開けた。

「フンッ! フンッ!」

 ラララ・ラーテルの特技が、鼻から豆を発射するコトだった。

 何発目のピーナツを発射した時に、窓ガラスが開いて宇宙銃を構えた緋色が、転がれながら飛び込んできた。

 銃口を向けた緋色が言った。

「迎えに来たよ、一緒に来て……あなたの力が必要なの、バイト代は出すから」



 魔王城に集められた七人。

 魔王真緒

 灰鷹満丸

 ショッキング・パパ

 天龍空彦

 パワーグリン

 ラララ・ラーテル

 黒金のビスマスは、城外の庭から室内を覗いている。

 椅子にクモ糸で縛られている血姫の果実と、壁に背もたれた格好で座らされている、首下包帯ミイラ状態の狂介が不満そうな顔で緋色に言った。

「オレは、いつまでこの状態なんだ!」

「だって、夢太郎くんが出入りできるのが、狂介の耳の穴しかないって言うし」

「そこの部分が、なんか引っ掛かるんだよ! なんで、オレの耳の穴なんだ! 説明しろ! 赤と黒の変なヤツ!」

 真緒と計画の確認をしていた、夢太郎が振り返って言った。

「夢の世界で現実世界に出入りしやすい人の頭の中を探していたら、ちょうどスカスカの隙間だらけの頭があったので……いやぁ、まさか筒抜けで耳の穴から外が見える人がいるなんて」

「それは、どういう意味だ! この野郎!」

 怒鳴る狂介を無視して、夢マシンの微調整を終えたズ子が言った。

「準備できたでチュウ……各自渡した、輪っかを頭に被るでチュウ」

 夢組の面々が、輪を頭に被る。ビスマスの輪は超巨大輪っかだった。

「その輪っかは、ワイヤレスで、こっちの夢モニターに繋がっていて夢の内容が映し出されて現実世界で見るコトができるでチュウ……それじゃあ、はじめるでチュウ。魔王の息子の夢領域を媒体に夢の世界へ堕ちるでチュウ……ナビゲーター頼むでチュウ」

 七色夢太郎が、親指を立てる。

「任せてください、それじゃあ先に行って準備しています」

 夢太郎は、狂介に近づくと軽い口調で言った。

「おじゃましま~す」

 狂介の耳の穴から、グニュウゥゥとモチのように、頭の中に入り込む夢太郎。

 異物挿入に、悲鳴を発する極神狂介。

「ひいぃぃぃぃ!?」

 夢太郎が、狂介の頭の中に完全に入ったのを確認したズ子は、夢マシンの起動レバーを下げる。

「みんな、眠るでチュウ」

 コテンッと倒れるように眠りに堕ちる七人、ビスマスが城壁にぶつかった衝撃で城が少し揺れた。

 椅子に縛られている血姫が、高らかに笑う。

「あはははっ、夢の世界には、あたしの本体がいて黒い夢羊『ブラック・サン』を指揮している……すでに、支配領域は夢の世界の大半まで拡大している……止められるもんなら、止め!?」

 瑠璃子が、お尻を血姫の顔に接近させてプスッと静かな音を鳴らした。

「ぐはっ?」白目を剥いて血姫は失神した。



 夢に堕ちた七人は、マオマオの脳内にある広がる夢の平原に立っていた──空にはアニメ『閃光王女狐狸姫』の大小さまざまな頭が浮かび。

 サボテンのような植物にも狐狸姫の顔、山にも狐狸姫、あちらこちらに狐狸姫の姿がある完全な真緒の推し世界に。

 夢組の面々は、呆然とたたずむ──二名を除いて。


 興奮する満丸。

「すごい、すごいよ真緒くん! こんな、夢のような世界で毎晩遊べるなんて……最高だよ!」

「満丸くんに喜んでもらえて、ボクも嬉しいよ」

 その時、地面に丸い穴が開いて、牙が生えた柄が長いスレッジハンマーを持った夢太郎が勢いよく穴から飛び出してきて真緒に向かって言った。

「やあ、真緒くん。いらっしゃい……ビスマスさん、そのサイズは夢の中で活動するための人間サイズだから。その気になれば元の巨大ロボットサイズになるコトも可能だからね」

 夢の中で、大柄な人間サイズになった黒金のビスマスが。

押忍おす!」

 と、言った。

 夢太郎が夢の地図を、みんなに配る。

「簡単な地図だけれど、最短の目的地までを描いてあるから……目的地に辿り着くまで、さまざまな妨害があると思うけれど……誰かが『ここは、オレに任せても先へ進め!』の、夢フラグが発生するから」

 真緒が夢太郎に質問する。

「全員で先へ進むコトはムリなの?」

「血姫の支配がかなり進行しているから、夢の中で『オレの屍を越えていけパターン』が確定しちゃっている……パターンに従って前に進むしかないよ、支配率が低い状態だったら、なんとかなったんだけれど」


 その時──夢の空に幻のようなアナログ目覚まし時計が現れ、長針が動きはじめた。

 真緒が夢太郎に質問する。

「あの、大きい目覚まし時計はなに?」

「血姫のタイムリミット設定だ……ボクたちを焦らせて、失敗するように仕向けている……真緒くん、血姫の攻撃が来るよ」

 夢の大地から、赤い目をした黒い夢羊の『ブラック・サン』が湧き出るように出現する。

 テントウムシの羽みたいに、左右に開いた背中の地肌には『操られています』の文字が。

 次々と地面から現れる赤い目をした、二脚歩行の不気味な黒い羊の姿に。

 その場にしゃがみ込んだビスマスは、ブルブルと震えている。ポエム好きなビスマスは怖がりだった。


 首から下を、戦闘員タイツに包んだ灰鷹満丸が、ズンッと大地を力強く踏みしめて一歩進み出てきて言った。

「真緒くん、ここはボクに任せて先へ進んで、果実ちゃんを助けてあげて」 

「そんな、満丸くんを一人残して進むだなんて」

「ボクも亜区野組織の戦闘員見習い、真緒くんの力になりたい」

 真緒は次々と大地から出てくる黒夢羊を見て言った。

「ムチャだよ、あんな数の羊さんを一人で相手をするなんて」

 真緒がそう言った時──後方の高い場所から女性の声が聞こえてきた。


「一人じゃないよ、マオマオくん、満丸くん……あたしもいるよ、コンポココン」

 声が聞こえてきた崖の上に、可憐なヒラヒラコスチュームの中学生くらいの女の子が一人立っていた。

 ショッキング・パパが隣に立つ、ラララ・ラーテルにボソッと。

「さっきまで、あんな崖あったか?」

 そう囁く声が聞こえた。

 キツネ耳とキツネ尾の、その女の子を見た真緒と満丸のテンションがMAX上昇する。

「『閃光王女狐狸姫』だあぁぁぁぁぁぁ!!」

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